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女だけど女の子にモテ過ぎて死んだけど、まだ女の子を抱き足りないの!  作者: ガンホリ・ディルドー
第三章 獣人のドレッド
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最終試合だけど一撃いれたけどガラードの本音だけど

「やぁ、待たせたネ」


 ドレッドが去った後、振り向いたらいつの間にか話題の人物が立っていた。

 コイツの気配は全く掴めない、もはや気持ちが悪い。


「覚悟は出来た?」


 そう言って私に……いや、違う。

 クランちゃんが入っている私の体に問うた。

 クランちゃんの目がどこか遠い、ボーッとしているようだ。

 彼女は謎の人物の言葉にコクリと頷く。


「わかった、じゃあ始めるよ」

「私には一切の確認がないのね」

「うん、必要ないでしょ?」

「まぁそうだけど……」


 いやー、それでもさー?

 なんかあるじゃーん? 最近私に対して世間の風当たり冷たくない?


「目を瞑ってネ……流動せよ、流れ込め、我が掌に集まれ」


 もうこのセリフ何回聞いたかな……

 前から思ってたけどこの時に目を開けたらどうなるんだろう。

 いや、やらないけどさ。

 これ結構気持ちいいんだよね。

 なんだろう、頭から足の先までマッサージされてる感覚?

 自然と目を閉じたくなりますわ。


「はい、おしまい」


 終わった後も若干頭がボーッとする。

 うーん、自分の体が一番しっくりくるね。

 軽く首を回したり、手首を回して感覚を取り戻していく。


「クランちゃん、ありがとうね」


 今回私はクランちゃん無しではあの部屋から脱出することは出来なかっただろう。

 クランちゃんがどうやってあの部屋の扉を突破したかは謎だが、私には出来ない芸当だったことは間違いない。


「いや、こちらこそありがとうございます」

「え?」


 クランちゃんに私がお礼を言われる理由がわからない。

 私なんかしたっけ?


「ネぇ、モタモタしてていいのかな。始まるんでしょ?」


 理由を考えようと思ったら、謎の人物……なんかこう呼ぶのも面倒だね、覗き魔でいいや。

 覗き魔が後ろから声を掛けてきた。


「そうっすね、早くいきましょう」


 確かに今はドレッドの試合の方が優先だ。

 理由は後でクランちゃんに聞くとして、今はとりあえず応援に走ろう。

 関係者席に繋がる通路に向かって足を向ける。


「そういえば」


 覗き魔は見ていかないの?

 そう言って振り返ると、覗き魔はもうそこにはいなかった。

 相変わらず突然現れては突然消えるのが得意である。


「ヤコさん」

「うん」


 クランに呼ばれた私は、覗き魔の消えた場所から視線を戻してクランちゃんの後に続いて自分たちの席に戻った。


「只今より永刻祭最終試合、サー・ガラード様とペンドラー・ドレッド様の試合を開始します」


 丁度席に座った頃、アナウンスが鳴った。

 どうやら間に合ったようだ。


「両者覚悟は出来たか……? では、始めッ!」



 なにかお互いに言い合って勝負が始まるのかと思えば、二人は空に向かって同時に吠えると獣化状態になった。

 そして、ガラードはそのまま身武一体に移行。

 ドレッドはガラードが眩しい光に包まれている間、その周りを全速力で走り回る。

 ハクヒョウの体毛が白く輝き、背中から生えた大砲から高い音が鳴り響く。

 以前訓練所で見た極太レーザーを使い、一瞬で勝負を決める気のようだ。


「させねえ!」


 だがそれについてはドレッドも学習している。

 私との特訓で一番に対策が行われたガラードの攻撃こそ、あのレーザー攻撃だ。

 あのレーザー攻撃も、極論を言ってしまえば範囲の大きい銃撃と変わらない。

 銃弾に当たらない為にはどうするか? その射程範囲に入らなければいい話である。

 だが問題なのは、その調整をしているのがエンジュランド最強クラスのガンマンだということだ。

 訓練所でも行われた通り、多少避けようとしたところでガラード自身が動くことによりすぐ調整されてしまう。

 勿論人が一歩左右に移動するのと、人が少し左右に体を捻るのであれば後者の方が早い。

 だから基本的にはガラードの方が優位。


 左右に移動するのであればだ。


 あのレーザー攻撃唯一の弱点は、少なくともあの高音が鳴っている間は銃撃が出来ないという点。

 ただその時間はかなり短いし、体感では3秒に満たない。

 だが3秒、されど3秒だ。

 ドレッドは試合が始まって獣化を完了したと同時にガラードの周りを全速力で走り回っていた。

 これは純粋にガラードを攪乱して照準を定めづらくする意味合いもあるが、同時にドレッドが最高速度を常に維持できるようになるためだ。

 これによってただ正面から突撃を開始するよりも、トップスピードに入るまでの時間が短縮される。

 つまり3秒以内にガラードの下に辿り着けるというわけだ。


 レーザーを貯めている状態であるガラードは銃撃が出来ない。

 つまりこの一瞬においては銃撃を交えることが出来る分ドレッドに有利。

 そして純粋な肉弾戦にも持ち込めるというわけだ。


 あと二歩で衝突というタイミングでドレッドが背中の銃口から弾を二発、数瞬の時間差でガラードの顔に向かってに撃つ。

 片方は避けたガラードだったが、もう一つはその右腕で防ぐ結果になった。

 つまり顔に上げた右腕の下、ここに隙が出来た。

 すかさず最後の一歩を踏み込み、ドレッドはそこにボディーブローを放つ。


 見事に功を成し、ガラードの体が宙に浮く。

 音が鳴り終わり、大砲からレーザーが発射されたがその射程範囲にドレッドはいない。


「まず一撃だ」


 永刻祭最終戦は、まずドレッドが作戦によって先手を取った。

 ドレッドによって砲撃を妨害され、逆に攻撃を食らったガラードは数歩後ろに下がって体勢を立て直す。


「ガラード、来いよ。言い訳はしねぇ、私が憎いんだったら殺せ」

「殺すよ」


 挑発的とも言っていいドレッドの言葉に対し、ガラードはただ事実確認のようにも聞こえるほど平坦な声で言葉を返す。

 一切の躊躇を感じさせないその声を聞いて、私の体に寒気が走った。

 ガラードはレーザー光線による一撃戦法から一転し、ドレッドと同じく銃で牽制しながら肉薄する機会を伺う戦い方に切り替えた。

 ガラードがレーザーに頼りきりだったのならばドレッドの勝率も上がったのだが、残念ながらボーズやドレッドのようなスタイルの戦いも出来るらしい。


 だがこれに関してはドレッドも引けを取らない、伊達に私と特訓をしていないのだ。

 確かに身武一体状態のガラードは速いが、3週間前と異なりその速さに付いていくことが出来るようになっている。

 勿論ドレッド自身の素早さは多少上がったとはいえ、ガラードと比べれば遅い。

 だが彼女は私と連戦することによって自分より素早い敵との戦いに付いていくことが出来るようになった。

 行動の先読み、というか先潰しをしているのだ。

 人はそれこそテレポートでもしない限り、今いる場所から前後上下左右にしか動くことは出来ない。

 ガラードがいくら速くても、生物である以上それは絶対だ。

 銃撃で上下左右への動きを制限すれば、あとはガラードがこちらに踏み込んでくるタイミングを冷静に見切る。

 これがドレッドと私が3週間で編み出した戦い方だ。

 だがこれの欠点が一つある。


「速すぎだろうがクソッ!」


 訓練期間の間ドレッドに聞いたのだが、ガラードは無生物の動きに対する空間把握、つまり弾道予測などの力がずば抜けているらしい。

 先ほどはレーザー攻撃をドレッドに当てる為に激しく大きな動きは出来なかったガラードだったが、戦法を変えた現在はフィールド内を舞うようにしてドレッドの銃撃を避けている。

 とどのつまり先程の戦法で重要な『銃撃で左右への動きを制限』という部分が『観察力で銃弾を避けることが出来る』為に意味を成していないのだ。

 いや、私も身武一体をしてる時なら出来るけどね? ガラードは平時にもそれが出来るらしい、化け物かよ。


 そうこうしているうちに、ドレッドが銃撃した後の間を突くようにガラードが突撃。

 そのまま跳び蹴りを浴びせかけた。


「チッ!」


 たまらずその場を離れるドレッドだったが、避けられるとは思っていたらしいガラードの追撃は止まらない。

 鋭い拳の突きや蹴りを、後ろに飛びのくことでどうにか避ける。

 これではいつか攻撃を食らってしまうと判断したドレッドは、一度大きく距離を取った。

 そんなドレッドを見て、ガラードは唇を歪めて笑う。


「ねぇドレッド」

「あぁ!?」

足が止まってるよ(・・・・・・・・)?」


 ガラードの精霊銃から高音が鳴り響き、その後爆発するような音がフィールド内に巻き起こる。

 レーザー光線による轟音が鳴り終わった。

 フィールド上には全身の毛が焦げながら両膝を突くドレッド。

 ガラードの攻撃を避け続けたが、その時に一瞬止めた足が致命的だった。

 それ以前にガラードの学習能力が凄まじ過ぎるのだ。

 なんで一度妨害されたからと言ってその一度だけで対策方法を思いつくのか。


「まだだ……!」


 ドレッドがどうにか立ち上がる。

 前回訓練所で見た時はレーザー攻撃一発で強制睡眠状態とやらに移行していたが、今回はどうにか耐えていたらしい。

 訓練の結果なのかドレッドの執念なのか? 恐らく後者だろう。


「私は負けられねえんだよ、お前の隣に立つために、ここで証明しないといけねえんだ!」

「ねぇ、ドレッド。なんか勘違いしてない?」


 懸命に立ち上がるドレッドに、ガラードが語り掛ける。

 このタイミングでとどめを刺しにいけばガラードが勝てると思うのだが、それを捨ててまで話したいことがあるのだろうか。


「ドレッドは、なんで私が怒ってると思うの?」

「お前がエンジュランドで頑張ってる間、私が落ちぶれてたからだろ」


 何を今更、と言った顔でドレッドが答えると、ガラードは口元を押さえて笑い出した。


「アハハ……全然違うよ、ドレッド」


 ガラードは両手を降ろして戦いの構えを解いている。

 不意打ちをするには絶好の機会にみえるが、彼女からあふれ出るオーラに会場全体が息を飲んだ。


「私はドレッドが犯罪組織にいるなんて知ってたし、寧ろ嬉しいとすら思ってたよ」

「は?」

「そもそもそれが理由だったら、エンジュランドに帰って来たドレッドをあんなに笑顔で出迎えてないよ。私が怒ってるのはもっと別の理由。すっごい利己的で醜くて、気持ちの悪い理由」


 ガラードは尚も笑い続ける。

 一体なにがおかしいというのだろうか。


「私が怒ってるのはね。私以外に愛されてたことだよ」


 ガラードは銃の引き金をひく。

 避けることが出来ないドレッドはもろにその銃撃を食らい、大きく後ろによろめく。


「私は嬉しかった。誰もが私を蹴飛ばして、親にはただ機械的に強くなれって言われた」


 ガラードはまた引き金をひく。

 銃弾は足に命中し、支えを失ったドレッドは崩れ落ちた。


「その中でドレッドだけが、私を救い上げてくれた」


 ガラードは引き金を連続で引いた。

 3発の銃声が鳴った後、ドレッドの体に襲い掛かる。


「私は貴方に依存してたんだよドレッド。だから『精霊の儀』の時、私は思ったの」


 もはや動くことが出来なくなったドレッドにガラードはゆっくりと歩いていく。

 そしてその髪を掴み上げ、自らの目と視線を合わせた。


「今度はドレッドが私に依存してくれる番だって、ね」


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