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女だけど女の子にモテ過ぎて死んだけど、まだ女の子を抱き足りないの!  作者: ガンホリ・ディルドー
第三章 獣人のドレッド
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迷ったけどノーカンにしたけど助かったけど

「クラン?」

「ヤコさん、で合ってるっすよね?」

「あぁ? お前ら何言ってやがる」


 男の首に槍を当てて迷っていると、後ろから声がした。

 振り返って声の主を見ると私だった。

 うん、二回目だなこれ。


「クランちゃん、ごめんね」

「謝ることは無いっすよ。むしろラッキーだったっす」


 クランちゃんこと私の体の後ろに、開いた文様扉が見える。

 どうやってアレ開けたんだろう……

 私思いっ切りぶっ叩いたけどびくともしなかったんだけど。


「んなコトより、さっさとソイツやっちゃってください。なんなら私がやるっすよ」

「それは……」


 自身の手を汚したくないから、美少女に任せる。

 それは絶対にやっちゃいけない。

 間違いなく私の信条に反する。

 だけど私は、まだ迷ってしまった。

 私の体を鈍い痛みが走る。


「言ったよなぁクラン!」


 体が宙に浮く。

 私は別に男を柔道のような技で拘束していただけじゃない。

 首に槍を当てて脅迫していただけだ。


「殺る気の無ぇ雑魚が武器持ってイキがるんなら、まだ畜生共の方が使えるってよぉ!」


 そこを突かれた。

 私に殺意が無いと看破した男は私を蹴り飛ばした後、クランの意識が入っている私の体に銃を向ける。


「そうでなきゃ、こうやって仲間が死ぬんだ!」

「えぇ、習ったっすね。覚えてるっすよクソジジイ」


 クランは男が銃を向けた時、既にその懐に入り込んでいた。

 そして一瞬体を伏せたかと思うと、そのまま逆立ちするように男の顎を蹴り上げた。

 なんだアレ、アクション映画でしか見たことないぞ。

 男の体が宙を舞う。お揃いですね。

 クランがかっこいいから私もカッコつけてみようと思う。

 おっぱいが無い分むしろやりやすいかもしれない。


「あらよっとぉ!」


 バク宙で着地、やってみたかったんだよね。

 いや、そんなことやってる場合じゃないけど。


「ごめん、クラン」

「別にいいっすよ」


 私はどうしても人を殺せない。

 その尻拭いをクランちゃんにやってもらう形になった。

 今男に銃を向けられたのがクランであり対処が出来たから良かったものの、ひょっとしたら自分のせいで誰かが死んでいたのかもしれない。

 私は別に自分が殺された時は特に何も思わなかった。

 だけどもし私と親しい誰かが殺されるかもしれない時、私は……


「ク、クソ……」


 男は頭を押さえながら立ち上がる。

 その時だ。

 ふらついた男の懐から、一冊の雑誌が落ちた。


「あ」


 その雑誌のタイトルは『満開☆世界の美女前線』


「「「……」」」


 辺りに流れる沈黙。

 あぁごめん。さっき私、人を殺せないとか言ったよね。

 コイツは人じゃないからノーカンで。


 ◇◆◇


 登録会は突破できた。

 今回の登録会を突破し、明日精霊山にて永刻祭に出場するガンマンは3人。

 私とガラード、そしてボーズ。

 総当たり戦を行い、その結果で次世代の王が決定する。

 登録会が終わった後にボーズ卿からヤコ奪還をガラードに協力してもらおうと考えていたが、別れ際の彼女を見てとてもそんなことを切り出せるような雰囲気ではない。


 やはり父親を殺したのは響いたのだろう。

 ガラードに母親はいない、確かガラードを産んだと同時に死んでしまったと聞いている。

 そして唯一の肉親であるランスロウ卿を私が殺したのだから、憎みもするだろう。


「おあいことか言っちまったのはマズったかな……」


 人殺しに「あいこ」もクソも無いだろう。

 私はガラードがどれだけランスロウ卿を愛していたかは知らないが、あれだけの怒りを見せるということは憎んではいなかったはずだ。

 だが正直あの時の自分にランスロウ卿相手で手加減する余裕などなかったし、言い訳させてもらえるなら獣人の秘薬を使った時点でランスロウ卿の死はほぼ確定していた。


「……」


 王宮の窓から暗い夜のとばりに包まれたエンジュランドが見える。

 私も父親が死んだ。

 母親の存在は知らない、あの親父は語ろうともしなかった。

 私は子供の頃に何度か母親の事を聞いたが、あの親父は「知らん」とだけ言って執務に向かっていた。


「さて」


 今はそんな感傷に浸っている場合ではない。

 ランスロウ卿と戦った疲労や傷はまだ癒えきっていないが、ヤコの救出をしなければいけない。

 そういえばクランとの連絡もあれからつかない。

 かなり心配だ。


 適当な服に着替えた後、ボーズの屋敷まで走る。

 馬鹿正直に自分の邸宅に捕まえているのかは知らないが、とりあえず私に与えられたヒントはそれしかない。

 風を切って弾丸のように夜道を走る。


「ドレッド心配してるかなぁ」

「早く帰って安心させてあげたいっすね」


 オイこらちょっと待て今なんかめっちゃ聞き覚えある声がしたぞ。


「お前ら無事だったのかよ!?」

「あ、ドレッドだ」

「姉貴~!」


 私は慌てて立ち止まると、そこにはヤコとクランが案外余裕そうな表情でのんびり歩いていた。

 なんだよ、心配して損したじゃねえか。

 だがなんだろう、二人に猛烈な違和感がある。


「いや~、心配かけたね。すまん」


 クランが今までに無いほどタメ口で話してくる。


「本当にすみません姉貴、心配かけました」

「誰だお前!?」


 私の知ってるヤコじゃないんだが。


「あ、ごめん。今入れ替わってるんだよね」

「はぁ?」


「よくわかんねえな、その女はなんでヤコを助けてくれたんだ?」

「私も知らない。勝手に現れて勝手に消えるし」


 私が気になるのはもう一つだ。


「クラン、お前いついなくなったんだ?」


 そう言って私は見た目がヤコにしか見えないクランに話しかける。

 どうやらこっちが現在クランらしい。


「あー、姉貴の登録会に付いていこうとしたらその女に呼び止められたんすよ」


 それで付いていったのか?

 イマイチ腑に落ちない。

 明らかに怪しいだろそんな女、しかもボーズの野郎に脅しをかけられた後だ。

 クランは私のサポート役である分、私よりも警戒心は強い。

 そんなクランが何の警戒もなく女に付いて行ったのか?


「んー、まぁいいか。助かったんならなによりだ」


 まぁ結局はそうだ。

 大事なのはヤコもクランも無事で、永刻祭で私が本気を出せること。

 ボーズの野郎はさっさとぶっ飛ばして、クランと……

 和解、出来んのかなぁ。


「なぁヤコ」

「そっちは私じゃないよ」


 ついいつもの感覚でヤコ(クランin)の方に話しかけてしまった。

 あぁもうほんとわかりずれぇ……


「なぁヤコ、肉親を殺された相手と和解出来ると思うか?」

「なにそれどんな状況?」


 私とガラードの状況である。


「実はな……」


 私はヤコとクランに登録会で起こったことの全てを話した。

 ランスロウ卿と戦いになったこと、そして殺したこと。

 ガラードも親父を殺したこと。

 私に関しては仕方ないと割り切ろうとしてるが、ガラードに許す気が無いこと。


「あー、それは……うん」


 クラン(ヤコin)が口元に指を当てて考える。


「諦めてガラードを全力でぶっ飛ばすしかないんじゃない?」

「だよなぁ……」


 私もそれしか無い気がしてきた。

 和解とか無理だろ……うん。

 というかこれで永刻祭が行われたところで、その後エンジュランドを治めるのが上手くいくのか?


「んなことよりさっさと帰って寝たほうがいいんじゃない? さっきの話の感じだと大分無理したんでしょ?」

「あぁ、そうするよ」


 ガラードの問題は未解決だが、ヤコが既にクランによって救出されたのは思わぬ幸運だ。

 私にとっては明日が本番、人生で一番の大勝負。

 さっさと帰って寝て、明日に備えよう。


「お腹空いたわ」

「帰ったらコックになんか作らせてやるから我慢しろ」

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