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女だけど女の子にモテ過ぎて死んだけど、まだ女の子を抱き足りないの!  作者: ガンホリ・ディルドー
第三章 獣人のドレッド
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登録会 サー・ガラード編

「サー・ガラード様、お入りください」


 名前を呼ばれた私は、陣幕を潜る。

 これは私の目標を達成する為の通過点にしか過ぎない。

 何の問題も無く終わらせ、何の問題も無く永刻祭に出場する。


 陣幕の魔術結界が黄金色に輝いていた。

 明らかに通常の魔術結界とは格が違う。

 さながらそれは……


「来たか」


 王の間。

 目の前の男はその獅子の瞳を私に向ける。

 数秒間私を椅子に座りながら睥睨した後、立ち上がって私の元へ歩いてきた。


「……よろしくお願いします」


 私は現永刻王に礼をする。

 老いて既に力はほとんど残っていないと聞くが、目の前に立つとそんな噂がどこから流れてきたのかと疑いたくなる。

 戦って勝てる気がしない……というわけではない。

 だが、この人物が持つ本当の力はそれではない。

 今すぐにでも跪きたくなる、そんな強迫観念に思考が溺れそうだ。

 王者の風格。

 私は、これを身に付けねばならないのか。


「銃を抜け」


 王者は私に命令を下した。

 逆らってはいけない。

 逆らう理由も無い。


「覚悟は出来たか?」






「『ディラン』!」

「『エクスカリバー』」


 二つの銃口から弾ける光が、お互いを飲み込まんと襲い掛かる。

 獣化したアルトとガラードは、勝負が始まってから一度もその場を動いていない。

 お互いに全力で最大火力を相手にぶつけているのだ。

 その力は現在、わずかながらにガラードが競り勝っている。

 勢いは変わらないように見えるものの、ゆっくりと着実にガラードがアルトの光線を押し続けているのだ。


 だがガラードも余裕ではない。

 一瞬でも気を緩ませてしまえば、あっと言う間に自分は押し負けてしまうだろう。

 事実ガラードは現在体中から汗が噴き出しているものの、相対する化け物は定めるような視線をこちらに向け続けているだけで、冷や汗一つすらかいているようには見えない。


「なるほど」


 アルトがボソリと呟く。


「確かに、王の器だ」


 陣幕内で、大きな爆発音が鳴り響いた。







「なんで、ですか」

「質問の意図がわからんな、娘」


 ガラードの登録会を行っている陣幕の中、一人は緊急睡眠状態になっていないのが不思議なくらいに傷を負い、一人は立ちながら倒れた相手を見下ろしている。


「なんで、いきなり攻撃をやめたんですか?」


 ガラードは倒れるアルトに質問を投げかけた。

 それは途中で勝負を投げたかに見えた相手への憤りの色が含まれていた。


「後継者を、見付けたからな。自分はもう、必要ない。王は二人も、いらん」


 アルトは息も絶え絶えに言葉を紡ぐ。

 もう意識を保つことすらも厳しいのだろう。


「……ドレッドは、後継者では無いと?」

「あぁ、アレは、王の器ではない」


 そう言ってアルト王は鼻で笑う。

 実の娘に対して、その態度はなんだ。

 何故そう簡単に見切れるのだ。

 関係ない自分が、どうしてここまで憤るのかわからないが、ガラードはその時確かに怒りを感じた。


「今すぐ楽にしてあげます、正し一つ謝ってください」

「何をだ」

「ドレッドを、馬鹿にしないでください」


 ガラードはアルトの額に銃を向け、険しい顔で睨み付けた。

 返答によっては、迷わず引き金をひく。


「何か、勘違いをしているな、小娘」


 だが帰って来た返答は、ガラードの予想を裏切るものだった。



「アレは、この国の王如きで、収まる器では無いと、私は言っているのだ」


「王の器じゃ、収まらない?」

「そうだ、あの娘は私が求めて止まなかったモノを持っている」


 エンジュランド最高権力者であるアルト。

 ガラードの父親であるランスロウ卿は、彼の地位こそを悲願として求め続けてきた。

 だがその座を手にしたアルトもまた、求めて止まなかったモノがあると言うのだ。


「貴方が……手に入れられなかったモノ?」

「ガラード殿、英雄譚を読んだことはあるか」

「え? は、はい」


 アルトの質問に、戸惑いながらも答えるガラード。

 英雄譚ならばガラードの家にある書斎で腐るほどある。

 子供の頃はそれを読んで、いつか自分もこうなりたいと思って永刻王を目指したのだ。


「私は英雄になりたかった、世界を変える英雄にな」

「それは……」


 アルトはエンジュランド、ひいては獣人最強の座である永刻王だ。

 十分英雄と言って差し支えないだろう。


「いいや、私はただ常人より強い力を持っているだけ。英雄を産む可能性を持った一人に過ぎん」

「何故……」


 何故そんな風に断言出来るのか。

 ガラードはそう目でアルト王に訴える。

 その視線を受けてアルトは自嘲するように笑った後、ゆっくりと口を開いた。


「言われたのさ、英雄にな」

「英雄……?」


 アルトをもってして、英雄と言わせる人物。

 勿論彼自身の最盛期よりも強かったのだろう。

 そんな人物と、アルトはあったことがあると言うのか。


「どんな、人だったのです?」

「名前は知らん。だがよく覚えている。ソイツは黒い髪で、透き通るような黄金の瞳をしていた」


 思い出すようにアルト王は言葉を紡ぐ。


「今でも忘れられんよ。ソイツは私が『精霊の儀』で精霊銃を賜った日に言ったんだ」



『残念だけど、君は英雄じゃない。でも英雄を産む。必ずネ』



「見たことも会ったことも無い奴だったが、そいつの言葉に嘘は無いというのが何故かわかった。だからあのバカ娘は英雄で、私は所詮王でしかないのだ」


 そう言って、アルト王はそのまま目を閉じた。

 そして再び彼の目が開くことは無かった。






『なるほど、確かに、王の器だ』


 ガラードの頭に残るのは、アルトが銃砲を受ける直前に呟いた言葉。

 最初は自分をこの国で最強だと認めた言葉のように思えた。

 だが彼の遺言を聞き届けると、決してそうではない。

 むしろ自分は二番手だと、お前はドレッドに勝てない、そういう宣告。


「……」


 陣幕を出たガラードは、空を見上げる。

 中に入ってから時間は左程経過していないだろう。

 別にガンマンとしての実力試験に大した時間などかからない、これで終わりだ。

 だがそんな精霊山の空も、今のガラードにとっては先刻までとは異なるものに見えた。


「ドレッド、ペンドラー・ドレッド」


 口から出たのは、かつて彼女に銃を教えた者の名前。

 この人に出会えて良かったと、この人の下で生きれるのならば幸せだと思っていた者の名前。


 自分と一緒だと、思っていた者の名前。



「おう、呼んだか?」


 ガラードの後ろから、ペンドラー・ドレッドの声が聞こえた。

 子供の頃から何度も聞いたその声。

 聞く度に安心していた声。

 だが何故だろう、何故なんだろう。

 何かが燻る、なんだこれ?


「ドレッド」

「登録会お疲れ様ってトコだが、謝んなくちゃなんねえことがあるんだ」

「なに?」


 ドレッドが謝る。

 その言葉に、燻りが一瞬影をひそめた。

 なんなんだ。

 まぁいい、とにかく彼女の謝罪を聞こう。


「……私、ランスロウ卿を殺した」


 ペンドラー・ドレッドが謝った。

 その言葉に、全く心が動かない自分がいる。

 自分の肉親を殺されたと聞いても、何故か全く心が動かない。

 どこか遠くの話に聞こえる。


「いいよ、私も……アルト王を殺した」

「……そうか。ならおあいこだな」


 ドレッドがどこか悲しげな顔で、私に笑いかける。

 燻りが再び現れたのを、ガラードは感じた。

 今度は先ほどのような燻りではない。

 もうもはや燻りと呼べないかもしれない。

 それは、明らかな憎悪。


「それで?」

「……は?」


 ガラードの脳が、焼かれるように熱い。

 口が勝手に動く。


「何を謝りたいの?」

「へ? いやだからお前の親父を……」

「それだけ?」

「それだけってお前……」


 ほかに何があるんだ。

 そう言いたげなペンドラー・ドレッドを見て、ついにガラードの心に生まれた憎悪は吹き荒れる。


「そう、じゃあ永刻祭で」

「お? おぉ……」


 サー・ガラードはペンドラー・ドレッドに背を向けて歩き出した。

 国のツートップが死んだことにより周りが酷く騒いでいる中、二人には二人の間に流れる沈黙だけが一番大きく響いた。

 サー・ガラードはドレッドに振り替える。

 その眼は、ペンドラー・ドレッドが見たこともないほど恐ろしくぎらついていた。


「必ず殺してやる、裏切り者」

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