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女だけど女の子にモテ過ぎて死んだけど、まだ女の子を抱き足りないの!  作者: ガンホリ・ディルドー
第三章 獣人のドレッド
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登録会 ペンドラー・ドレッド編

 登録会の会場にて、私は順番を待つ。

 登録会はとあるガンマンと戦い、そのガンマンに認められるかどうかで永刻祭への出場が決まる。

 だが今の私の頭には、目前に登録会が迫っているにも関わらず別の事に気を取られていた。

 それは数刻前の、訓練所でのこと。



「なんのことだ」

「フフッ、探し人がいるのではないですか? 貴女の大切な友人の」

「……お前か」


 ボーズ、だったか。

 正直私はこの男を全く知らない。

 ガラードに対して忠誠を一方的に誓っている、と言う程度の認識だ。


「要件はなんだ」

「簡単ですよ、永刻祭で私に負けてください」


 これはこれは……随分とド直球な八百長の申し込みなことで。

 ここまでストレートだと一周回って気持ちいいかもしれない。


「卑怯っすよ!」


 隣のクランがボーズに向かって叫ぶ。

 だが、それを言う資格は残念ながら私達には無い。


「フフッ、卑怯という言葉を知っているとは驚きですね。貴女方も似たようなことを、中央大陸でやっていたのでしょう?」


 この男、どこでそんな情報を知ったのか。

 だが全くもってその通りである。

 さらに言えば勝つために相手を蹴落とすのは常識。

 こういった番外戦術は正道ではないが、戦術なのだ。


「……」

「では、私はこれで。もし約束を違えたのなら、貴女のお友達は悲しいお姿になられるでしょうね」


 そう言ってボーズという男は訓練所から出て行った。


「ペンドラー・ドレッド様、お入りください」


 名前が呼ばれ、私は我に返る。

 そうだ。ボーズと永刻祭で戦うのは構わない。

 ただその前に私は、この登録会を突破しなければならないのだ。

 この登録会だって、私には突破できるか怪しいのだ。


 案内に従い、私は精霊山の麓に展開された陣幕の中に入る。

 陣幕は四方に囲まれた魔術結界に守られ、幕の外に銃弾が飛び出すことは無い。

 そして私の永刻祭への出場を決定する人物が、その中央に堂々と座っていた。


「ランスロウ卿……」

「ククク、来たか」


 そう言って男が立ち上がる。

 何度か顔を合わせたことがあるが、絡みつくような眼差しが不快でしょうがない。


「よろしくお願いします」


 一応試験官である為、ランスロウ卿に私は軽く会釈をする。


「いいのだよ、そんなに畏まらなくても」


 にこやかに挨拶をしながら、ランスロウ卿が私に右手を差し出してくる。

 握手だろうか。


「どうせ君の顔を見るのはこれで最後だ」


 差し出された右手が、一瞬ブレる。

 あまりに殺意が無さ過ぎて気付かなかった。

 私の髪を、銃弾が掠める。


「……ッ」

「いやはや、良かったよ。君の担当になることが出来て」


 彼は精霊銃を手で弄んだ後、愛おしそうにそれを撫でる。


「運が悪ければガラードにやらせるつもりだったが」


 本当に運で私はこの男と戦うことになったのだろうか。


「アルトの娘をこの手で殺せるかと思うと、涎が出そうだよ」


 





「ククク、どうしたのです? そんな遅い弾では当たりませんよ」


 ランスロウ卿がからかうように銃弾を放つ。

 私は獣化し、それをやっとの思いで避ける。

 私は本気で戦っているというのに、奴はその背から生えた精霊銃、『狂銃アロンダイト』の性能を半分も出していない。

 私は奴の攻撃を避ける度に反撃で弾を撃ち込んでいるが、奴は軽い動作でそれを躱す。

 そしてまた戯れで一発銃を撃つのだ。


「そろそろ本気を出してはいかがです? そんなナマクラ銃では無く精霊銃を……おっとっと、これは失礼」

「クソが……」


 落ち着け、奴の挑発に乗ったらダメだ。

 ただ私の反応を見て楽しんでいるだけ。

 アイツも老いて力を殆ど出せなくなっているはず。

 実力的には私の方が上のはずだ。


「ふぅ、そろそろ飽きてきましたよ」


 奴はそう言って一旦動きを止めた。

 私はその隙を突いて、弾を奴の脳天に向かってぶち込む。

 だがやはり顔を少し傾けただけで避けられてしまった。


「じゃあ、ここからは本気でいきますかね」


 奴がそう言ったと同時に、私の目の前を大量の銃弾によって生み出された鉛の刃が襲った。





「ゴキブリの様にちょこまかと! さっさと死になさい!」


 ランスロウ卿の持つ『狂銃アロンダイト』

 その恐ろしさはマシンガンのような連射力にある。

 精霊銃に弾切れと言う概念は無い。

 獣人は自らの体の周りに存在する魔力を取り込み、それを弾として精霊銃から発射できるのだ。

 だがそのやり方は、職人によって同じ陶器でも全く造りが違うように、人によって変わる。

 例えばガラードや父親であるアルトは一度に大量の魔力を取り込み、レーザービームの様に発射して一瞬の内に爆発的な破壊力を叩き出す。


 だがランスロウ卿はその逆。細かく魔力を取り込み続け、それを次々と弾に変えてすさまじい速度で連射する。

 その為マシンガンの連射にも似た射撃が可能となり、濃密すぎる弾幕は鉛の刃のようにも見える。


「クソッ!」


 とてもではないが、そこそこ値が張るとはいえ大量生産された銃で太刀打ちできるような相手ではない。

 こちらが1発撃つ間に相手は20から30発ほど打ち込んでくるのだ。

 しかもその1発すらも避けるのに必死で撃たせてくれない、最悪である。

 だが勝機が無いわけではない。


「あぁあああああ遂に! 遂にあの永刻祭での屈辱を晴らすことが出来ます! 地面に倒れて動けなくなった私に銃口を向けたまま見下ろしてきたアルトの娘をッ! この手で!」


 先程からランスロウ卿の攻撃をずっと観察し続けているのだが、明らかにおかしい点がある。

 あまりにも強すぎるのだ。

 通常、永刻祭に出場して見事に支配者階級となった獣人は、再び永刻祭の時期になると私の父の様に目に見えて弱る。

 『こんなに強いはずがない』のだ。

 少し前までは私に対して舐めたような行動を取っていたのに、今となっては目を血走らせて私を殺そうと必死だ。

 間違いない、奴は何かを隠している。






「死ねッ! 死ねッ! 死ねぇぇえええ!」

「なるほど、確かに何回も言われると言葉が軽い気がするわな」


 ドレッドはランスロウ卿の銃弾を避けながら、じっと機を待つ。

 その機は近いだろう、現にランスロウ卿の攻撃は先程から弱まってきている。


「ク、クソッ!」

「オイ、お前。『ヤク』使っただろ」

「……だから、どうしたと言うのです?」

「やっぱりな、どんだけ殺意に満ち溢れてるんだよ……」


 『ヤク』

 ドレッドがそう呼んだそれは、獣人の命を削ることを引き換えにして、一時的に精霊銃との親和性を高める……と言われているものだ。

 限りなく精霊銃と同じ存在に近くなるため、結果的に獣化状態での能力が底上げされるが命を削る行為でもある。

 二百年前の中央戦争では、獣人の切り札として乱用されていたらしいが、戦後大量の死者を出したとの記録が残っているため、現在では使用を禁じられている。

 まぁそんな秘薬でも、国家権力No.2ならば手に入れるのは難しくなかったのだろう。


「私はね、王になりたかったんです。だから必死に努力をしました」

「へぇ、それで?」

「でもアルトは……! アルトはいっつも私の前を歩き続けるんです!」


 そう言ってランスロウ卿は銃口をドレッドに向ける。

 彼の目にはドレッドがアルトに見えるのだろう。

 その妄執に囚われた姿は、哀れにも見えるかもしれない。

 だが不思議とドレッドには、別の姿に見えていた。


「奇遇だな」


 ドレッドは銃弾を軽く避け、ランスロウ卿に接近する。


「私も、アンタの娘に全く同じことを思ってたよ」


「いくぜ、ランスロウ卿。エンジュランドガンマンの誇りに賭けて」

「スクラップにしてくれるわ、ジャンクが!」


 勢いに陰りが見えていたランスロウ卿だったが、最後の力とでもいうべきか再び猛攻を仕掛けてきた。

 正直これを耐えきればランスロウ卿はいずれ力尽きて勝手に自滅するだろう。

 だがドレッドはそれをしない。

 これに負けるようでは、決してガラードには勝てない。


「お前は私の親父、私はお前の娘」


 ドレッドはランスロウ卿の攻撃をかわし続けるが、ランスロウ卿とてそう簡単に攻略させてはくれない。

 固定銃器のように弾を撃ち続けても弾道がドレッドに見切られてしまうと判断したランスロウ卿は、もう年の瀬で弱り始めた肉体を叱咤し、ドレッドの周りを高速で旋回する。

 彼のどこかくすんでいたハクヒョウの白い体毛も、今は眩しいほどの輝きを見せた。


「私は」


 ランスロウ卿が口を開く。

 その端からは血が流れ出ており、彼の白い体毛を赤く染めた。


「負けない! 負けてないッ!」


 突撃してくるランスロウ卿に対し、ドレッドは正面から迎え撃つ。

 一瞬の見切りと早撃ちだけが決着させる世界。

 二つの白い影が交差する瞬間、二つの銃声が鳴り響く。


 交差した影は互いにしばらく動けない。

 やがて一人が倒れ、もう一人がそれを看取った後、ゆっくりと陣幕を去って行った。

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