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女だけど女の子にモテ過ぎて死んだけど、まだ女の子を抱き足りないの!  作者: ガンホリ・ディルドー
第三章 獣人のドレッド
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天上院弥子が信じた女 獣人のドレッドーSide4-

 私は走った。

 ただの通り道にしか過ぎないと思ってたところで躓いたのだ。

 私の超えるべき目標は、無様に手で空を切る私の姿を見て、険しい表情を浮かべた。

 湖の中から偉そうに出て来たデカブツもいつの間にか消えていた。

 私が手に入れられなかったモノを胸に抱いている少女が、戸惑いの表情を浮かべてこちらをみている。

 なんだその目は、やめろ。


 耐えきれなかった私は、祭壇から逃げ出した。

 なんで、なんでだ。

 試練を乗り越えれば、龍から精霊銃を授かれるんじゃねえのか。


「クソッ……!」


 森の中を私は走る。

 王宮にはもう帰れない。観衆の面前であんな状況になってしまったのだ。

 試練を乗り越えた者が精霊銃を授かれなかったなんて話は聞いたことが無い。


「クソクソクソッ!」


 どうする。王宮に帰れないとして、どこに向かえばいい?

 精霊山の中で暮らす? 無謀すぎる。訓練銃を踏み壊してしまった今、私に武器は無い。

 体術には多少心得があるが、あくまで銃で戦う前提の補助的なものだ。

 つまり獣がうろつく森の中で暮らすというのは不可能。

 そもそもエンジュランドで暮らしていくことがもはや不可能だろう。

 あの場には肉親だけでない。

 私達の『精霊の儀』を見ようと、一般国民も沢山集まっていた。

 きっと明日になれば噂が広まっているだろうと。


「だったら……!」


 だったら、噂が広まる前にこの国を出るしかない。





「おい、船を出せ。中央大陸までだ」

「こ、これはこれはドレッド様。どうなさったのですか?」

「二度は言わねえ。急いでるんだ、金は後で親父に請求しろ」

「かっ、かしこまりました!」


 降りるのに数時間かかってしまったが、どうやら間に合ったようだ。

 この国はかなり技術力が発展しているが、精霊山は不思議なことに魔力による通信が出来ない。

 その為私が『精霊の儀』にて精霊銃を授かれなかったという話はまだ伝わっていないのだろう。


 乗り込んだ船のエンジンがかかる。

 やがてエンジュランドを離れ、中央大陸に向かって出港した。


「どうする……」


 とりあえずエンジュランドから飛び出すという目的は成功した。

 だがそれだけ。本当に着の身着のままだ。

 まず必要なのは金、そして銃。

 船を操作する船番から金を貰うというのはやめておいたほうがいいだろう。

 ただでさえ現状、国の王妃が一人でエンジュランドを飛び出したという超異常事態なのだ。

 これ以上不信感を持たれてはマズイ。


「ドレッド様、もうしばらくで中央大陸に到着します」

「そうか、急ですまないな」

「いえ……ですがどうなさったのですか?」


 その質問に、私はこう答える。


「すまん、それは言うわけにはいかないんだ」


 もう見えなくなったエンジュランド。

 次に戻ってくるのは、一体いつになるのだろうか。




「着きましたよ、ドレッド様」

「おう、ありがとう」


 無事に中央大陸とエンジュランドの外交窓口である港町ヘイヴァーに辿り着いた。

 だが問題はここからだ。


「その、お帰りはいつ頃で?」

「あぁ。3日後には帰るんだ。明後日の正午にここへ戻るから、その時に迎えに来てくれ」

「畏まりました」


 3日後、この微妙な日数は船にいる間ずっと考えていた。

 あまり長すぎれば船番に不審に思われるだろうし、短過ぎれば船番はエンジュランドに帰ること無くヘイヴァ―に留まるという選択をしかねない。

 まぁ不審に思われたところでヘイヴァ―に着いた今となってはそこまで問題では無いのだが。


 出港して再びエンジュランドに戻る船を見送り、辿り着いた中央大陸の地面を踏みしめる。


「さて」


 問題なのはまず金を稼がなければならない。

 現状所持金は0、相当マズイ。

 獣人である私は人々に紛れる為、予め人間の姿になっている。

 とりあえず最初は情報局で今日の生活費を稼がねばならないだろう。


「すみません、情報局はどちらにあるかご存知ですか?」

「ん~? 情報局ならあっちだよ、お嬢ちゃん」


 スマートフォンもエンジュランドに置いてきてしまった。

 仕方ないのでジュースの出店を出していたおばさんに情報局の場所を聞く。


「ジュースはどうだい? 甘くて美味しいよ」

「ごめんなさい、ちょうど今持ち合わせがなくて……また今度買わせてもらいますね」

「おやおや、じゃあその時を楽しみにしてるよ」


 優しいおばさんで助かった。

 教えられた方角に向かって進むと、浮浪者の希望が見えてきた。

 知識として知っていただけだが、王族の娘として何不自由なく暮らしていた私がここに訪れるとは思ってもいなかった。

 自動ドアを潜り抜け、依頼版をチェックする。


「あー」


 とりあえず必要なのは、今日中に手に入る間に合わせのお金だ。

 それである程度落ち着いた仕事に就けるまで間に合わせる。

 なので最低限必要なのは食費と宿泊費。

 服は……山を登ったり下ったりした直後だからな、買えるのならばそれに越したことはない。


「ねぇな……」


 全くない。

 最も多い討伐系の仕事も、銃があるなら参加できたかもしれないが、今の私には武器が無いのだ。

 その他の仕事は依頼達成系統では無く、捜索系統の不確定要素が高い仕事だ。


「お」


 そんな中、様々な依頼書に隠れるかのように張り付けられていた依頼書を手に取る。

 それは荷物運びの仕事だった。

 だが依頼報酬がとても高く、まるで大物商人の護衛料並みの仕事だった。


「これにすっか」


 私はやっぱり世間知らずだったのだろう。

 ただの『荷物運び』にそんな高額報酬が付くわけ無いのだ。




「えーっと、ここでいいのか?」


 指定された時間に依頼用紙に書かれていた場所に行くと、地味な建物に辿り着いた。

 地味な建物と言っても分かりにくいだろうが、本当にそうとしか言いようがない。

 少し廃れたコンクリート製のマンション、そう言った雰囲気の建物だ。

 私は押し開きのドアを抜け、エレベーターに乗る。

 ここの3階で依頼人が働いているらしい。


 3階に辿り着くと、これまた地味な事務所だった。

 男が一人、なにやらパソコンで作業をしている。


「すみません、依頼書を見てやって来たのですが」

「あぁ、どうぞこちらへ」


 男が案内したソファには、一人の小柄な女が座っていた。

 その女は私をどこか惚けた顔で見る。なんだこの女は。


「隣座るぞ」

「は、はいっす!」


 ……っす?

 なんだこいつは。なんでこんな緊張してんだ。


「依頼を受けて頂きありがとうございます。二人に運んで貰いたいのはこちらです」


 そう言って男はソファの前のデスクに可愛らしい刺繍が施されたバックが乗せられる。

 とても軽そうで、やはり依頼額と噛み合ってないように思える。


「あの、本当にこの報酬金でいいのか?」


 私は男に依頼書を見せ、今一度確認を取る。


「えぇ、間違いないです。確実にお支払いしますよ」


 男は依頼書を確かめた後、間違いないと言って私に返してきた。


「二人いるが、これは折半なのか?」

「いや、ちゃんと二人分出ますよ」


 男はニッコリと笑って返事をした。

 隣にいる女がバックを持つと、立ち上がる。


「じゃあ早速行くっすね」

「はい、よろしくお願いします」




「道中暇ですし、お話しないっすか?」

「あん?」


 目的の場所に向かって歩いていく最中、女が私に話しかけてきた。


「貴女はどうしてこの依頼を受けたっすか?」


 どうして、と言われても話せるような内容が無い。

 まぁ嘘は付かないで普通に答えればいいだろう。


「金が欲しかったからだな。お前は?」

「私もそうっすね~」


 そもそも依頼を受ける理由なんて金稼ぎ以外は無いだろう。


「この依頼随分と楽だよな、荷物もお前に持たせてるけどいいのか?」

「いいっすよー、お構いなく。結構軽いっす」


 そう言って女はバックを軽く振る。

 そう言えば私はこの女の名前を知らない。

 しばらくここで短期の仕事をする以上また会う機会もあるかもしれない。


「私の名前はドレッドってんだ。あんたは?」

「私はクランっすー。よろしくっす、ドレッドさん!」


 私はクランと名乗ったその少女と、目的地まで軽い雑談をする。

 出会ったばかりで互いの距離を探る程度の、そんな雑談。

 エンジュランドで別れたガラードの顔が思い浮かんだが、彼女が祭壇で見せた顔まで思い出してしまったので、頭を振るって忘れる。


「そこのお嬢さん達、少しよろしいですか?」

「あん?」


 そう言って私達が振り返ると、そこには青い制服を着た女が二人いた。


「治安委員です。そちらのお嬢さんが持っているバッグついて調べさせていただきます」

「は?」

「貴女方の持っているバッグに、不審な内部偽装の術が施されています。よろしければ調べさせてください」


 私とクランは持っているバッグに目を落とす。

 至って普通の布バッグでそんな高度そうな術が施されているようには見えない。


「あー、どうする?」

「ん~、いいんじゃないすかね?」


 そう言ってクランはバッグを治安委員に手渡す。


「ご協力ありがとうございます」


 治安委員がバッグを開けて、中身を確認する。

 そういえばあのバッグの中身を私は知らない。 

 依頼されたものの中身を見るのはなんとなく気が引けたのだ。

 もう一人の治安委員が何やら黒い機械をバッグの中に突っ込む。

 するとその機械から甲高い音が鳴り響いた。


「……これは」

「黒、ですね」


 なにやらマズイ気がする。

 機械の音が不穏だし、何より治安委員の私達を見る目が善良な一般国民に対するそれではない。


「えーっと、何事だ?」

「貴女達を覚せい剤所持の現行犯で逮捕します」


 あ、これヤバいやつだ。

 なるほど、通りで依頼額がおかしいと思ったんだよ。

 運び屋だもんな、そりゃたけーわ。うんうん。


「えーっと、弁明を聞いてくださる?」

「問答無用です、逮捕されてください」


 治安委員が手錠を持って近付いてくる。

 ふざけんな、捕まってたまるか。


「逃げるぞクラン!」

「はい!」


 私はクランと共にくるりと踵を返して逃げ出した。


「待ちなさい! 治安委員から逃げられると思わないでください!」


 話には聞いている。

 治安委員、中央王都の番人だ。

 エンジュランドにまでその名前は轟いているし、なんならウチに数年に一度そこのお偉いさんが来る。

 逃げられる可能性はかなり低い。

 私はこの辺の地理に詳しくないし、あっちからすれば庭みたいなもんだ。

 クソ、折角国から逃げてきたってのに、ここでも逃走かよ。


「こっちっす!」


 私より先を走るクランが、路地裏から手真似く。

 こいつはここの地理に詳しいのか。

 まぁ時間の問題かもしれないが、ちょっとは助かった。


「くらえっ!」


 私が路地裏に駆け込むと、クランが治安委員に何かを投げつけた。

 辺りに立ち込める濃密な煙。

 なんでこんな小娘が煙玉なんて持ってんだ、こえーな中央大陸。


「逃げるっすよ!」

「お、おう」

「待ちなさい!」





 クランはヘイヴァーの細道を何の迷いも無く走る。

 地元民なのだろうか。


「罪が増えるだけですよ!」


 あいも変わらず後ろから治安委員の怒声が響き渡る。

 声は最初の時よりは遠くなっている。

 クランが逃げる途中色んな方向に煙玉を投げつけているのだ。

 周囲の住民には迷惑だろうが、治安委員の目を奪うのには成功している。


「クッ、封鎖壁起動!」


 治安委員の声が響くと、目の前に巨大な壁がせり上がって来た。

 こんな逮捕システムがあんのか……


 状況に私が絶望していると、クランがどこからともなくフックワイヤーを取り出した。

 本当になんなんだこの女。


 クランはフックワイヤーを振り回すと、壁に向かって放り投げた。


「……電流が流れてるっすね」


 そう言うとクランは持っているフックワイヤーを操作する。

 数秒後、封鎖壁と呼ばれた壁から耳を打つような音が鳴る。


「封鎖壁の電流が解除されたですって!?」


 ……この女マジでなんなんだ。


「ドレッドさん、早く!」


 そう言って壁を登ったクランが私に手を差し伸べてくる。

 どの道ここで治安委員に捕まれば未来はない、私に選択肢は無いのだ。

 私は迷わずクランの手を取った。



 壁を乗り越えた先も、私達は走り続ける。

 クソッ、あの依頼人ぶっ飛ばしてやる。


「おい、あのビルに戻るぞ!」

「はいっす!」


 クランと共に治安委員を撒きながら依頼人がいた建物に走る。

 だがそこまで走る必要は無くなった。


「おい、こっちだこっち!」


 表通りにもう少しで出るかというところで、物陰から男の声がした。

 間違いない、さっきの依頼人だ。


「テメエ、よくも!」

「まぁ落ち着けよ。嬢ちゃん」


 私は男の胸倉を掴みかかる。

 だがそんな私の怒りを軽く受け流してへらへらと軽薄な笑みを浮かべる男。

 先程私達に依頼をした人物とは思えない。別人のようだ。


「治安委員を撒くなんてスゲエじゃねえか、やるな」


 男は私に胸元を掴まれたまま、ニヤリと笑う。


「誰のせいでこんな!」

「あー、まぁそれについては悪かったとは思うが。嬢ちゃん、ウチに入らねえか?」

「あ?」


 何言ってるんだコイツは。


「俺はとある組織のスカウトマンなんだよ。治安委員から逃げ切れるか、っていうな」


 この男、どこまでもふざけている。

 だが、話自体は悪くないのだ。

 明らかに怪しい風体の男だが、私にはどちらにせよ居場所が無い。

 失うものなどないのだ。

 だが問題がある。


「残念だが、治安委員から逃げ延びたのはこいつのおかげだ。私の実力じゃねえ」


 そう言って私は男から手を離し、背中で隠れていたクランを前に押し出す。

 治安委員から私が逃げられたのは100%私のおかげだ。


「だからスカウトするんならコイツにしな」

「ケッケッケ。その点は心配すんな、運も実力の内っていうじゃねえか……それに」


 そう言って男は私の肩に手を置き、ニヤリと笑う。


「居場所、ねえんだろ?」

「な、」


 何故それが。

 狼狽する私を見て、男は更に笑う。


「わかんのさ。そもそもこんな怪しい男の誘いなんざ、入る気無かったらすぐに断るだろ。嬢ちゃんはそれをしなかった、入る気が無いわけじゃねえっていう何よりの証拠さ」


 その言葉に私は迷う。

 二度目になるが、明らかにまともな組織ではないだろう。

 だが。


「わかった、組織に加入させてくれ」

「ケッケッケ。そうだ、それでいい。んで?」


 男はクランに目を向ける。

 そうだ、コイツはどうする気なんだろう。


「お前はどうすんだ?」

「私は……」


 クランは男の質問を受けた後、チラリと私を見る。


「私も、ドレッドさんが加入するなら加入します」

「は?」


 本当にこいつは意味がわからない。

 なんだそれ、私とお前は今日会ったばかりだろう?

 なんでそんな人間に付いていくんだ?


「お、おい」

「そーかそーか! 今日は素晴らしい日だな。組員が二人も増えるとは」


 そう言って男は、私達が元来た暗い路地裏に向かって歩いていく。


「来い、歓迎してやるよ」


 私とクランは、その男と共に表通りから、日の当たらない路地裏へと歩いて行った。

 この日から、私とクランという妙な女との犯罪生活が始まったのだ。

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