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女だけど女の子にモテ過ぎて死んだけど、まだ女の子を抱き足りないの!  作者: ガンホリ・ディルドー
第三章 獣人のドレッド
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変な奴だけど理解できなかったけど再スタートだけど

光の波が収まると、そこには獣化が解除されたドレッドの姿があった。


「姉貴!」


 クランが立ち上がり、ドレッドに駆け寄る。

 勝負の結果など最初から見えていた。

 それでも止めることなど出来なかったし、共闘も出来なかった。

 倒れて緊急睡眠状態となっているドレッドの側で、クランは必死に呼びかける。


 ドレッドからの返事はない。

 クランはドレッドを担いで、急いで医務室に向かう。


 残ったのはガラードと天上院。

 ガラードは身武一体と獣化状態を解除し、首をゆっくりと鳴らす。

 クランとドレッドが去った訓練場に、沈黙が流れた。


 しかしそんな訓練場に、パチパチという拍手が響く。

 天上院が音の発生源に目をやると、そこには騎士服に身を包んだ男の獣人がいた。


「お見事、やはり次期永刻王に最も近い存在ですな」


 その男はガラードに近付き、薄ら笑いを浮かべる。


「ボーズか」

「ガラード様、先ほどの戦いお見事でした。やはり貴方こそが永刻王にふさわしい」


 ボーズと呼ばれた男はガラードに跪く。

 そして天上院に目をやり、嘲笑を浮かべた。


「それに引き換えあのジャンク。よりによって人間をこの国に招くとは。やはり精霊の寵愛を受けれなかった者は考えることまで理解不能ですな」


 そう言って改めてガラードに向き直り、その手を取って忠誠の口付けをした。


「ガラード様、貴女は必ずこの国の王となります。このボーズは貴女の手となり足となり尽くすことを誓いましょう」


 一方、口付けをされたガラードは不快感を隠そうとしない。

 ガラードにとってドレッドは自分の師匠であり、そんな存在が見下されるなど我慢が出来ない。

 なのでボーズの手を振り払い、怒気を含んだ声で言い放った。


「ドレッドを馬鹿にするなら、せめてドレッドに一勝出来るようになってよね」


 この国でドレッドに勝てる人間は殆どいない。

 最盛期の現国王やランスロウ卿であれば倒せる事が出来たかもしれないが、それを除けばドレッドに勝てるのはガラードだけだと思っている。

 故にガラードにとってドレッドが馬鹿にされるなど我慢ならないのだ。


「これはこれは手厳しい。ならば永刻祭にて某はドレッドを打ち破り、ガラード様への忠誠を示してみせましょう」


 そう言ってボーズは立ち上がり、訓練場を後にする。

 後に残ったのは不快そうな顔をしたガラードと、なんとも微妙な顔をした天上院だけだった。


「ねぇ」


 再び沈黙が訪れた訓練場で、天上院がガラードに問いかける。


「なに?」

「ガラードちゃんはドレッドが嫌いなの?」

「そんなわけないよ。大切な友達だもん」


 天上院のその質問を、ガラードは何を馬鹿なといった風で否定する。

 だが天上院は尚も質問を続けた。


「でも、さっきのガラードの戦い方は、むしろドレッドを痛めつけてるように見えたよ」


 天上院は先ほど繰り広げられた光景を思い出す。

 必死に挑みかかるドレッドを、圧倒的な力で薙ぎ払うガラード。

 そこには一種の狂気的なものまで感じた。


「じゃあヤコちゃんは、私に手を抜いてドレッドと戦えばよかったって言うの?」

「いや、そういうわけじゃないけど……」


 違う、違うのだ。

 天上院が言いたいのはそういうことではない。

 戦いの最中にガラードから感じたのは愉悦。

 まるで弱者をいたぶるのを楽しむ狂った悦びを、ガラードから感じ取ったのだ。


「私のすべきことは、ドレッドと本気で戦うこと。お父様が言ったからじゃない。私は、一人のガンマンとして容赦無くドレッドと戦っただけ」


 例えその実力差が歴然で、ワンサイドゲームのように見えたとしても。

 そんな意味が、ガラードの言葉には含まれていた。


「……」

「言いたいことはそれで終了?」


 天上院には何も言い返せなかった。

 ガラードの口ぶりに厭らしさは無く、純粋にそう思っているのだと天上院に感じさせた。


「じゃあ、次はヤコちゃんの番だね」


 その言葉に、天上院は思わず身を構える。

 ガラードが身武一体をし、天上院に襲い掛かってくるのかと思ったからだ。


「あはは、そんな構えないで。究極聖技ってやつ、私に教えてって言ったでしょ?」


 そういえば風呂場でそんな話をした気がする。

 その時はノリノリでOKと言ったが、何故か今の天上院にそんな気は起きなかった。


「……ごめん、ちょっと今は気分じゃないや」

「そう? じゃあ気が向いた時でいいから」


 そう言って天上院は訓練場を出ていく。

 そのまま王宮の外に出ようかと思ったが、思い直して踵を返した。




「……また負けたか」

「姉貴」


 この医務室に運ばれるのは昨日と今日で二回目。

 どちらも惨敗である。

 外の景色を見ながらドレッドは深い溜息をつく。

 永刻祭まではあと一か月。

 そんな時期にこれほどの圧倒的な差を見せつけられれば、最早やる意味などないということだ。


「なぁ、クラン」

「……はいっす」

「中央大陸、戻るか」


 ガラードのその言葉は、中央大陸に戻って再び犯罪グループに参加するかというものだった。

 永刻祭の結果など見えてる。

 それに自分など、仮に数字的な順位が2位だとして付いてきてくれる部下は誰もいないだろう。

 だったらいっそ、中央大陸で好きなように生きたら……


「残念だけど、そうはさせないよ」


 その時、医務室に声が響いた。


「ヤコ……」


 医務室に入ってきた人物。

 それは天上院弥子だった。


「なんのつもりだ」

「いや? 悪の道に走ろうとしてる知り合いがいたら止めるもんでしょ? それに……」


 天上院はベッドの上で壁に背を預けているドレッドを見て、ニヤリと笑う。


「私を鍛えてくれるんでしょ?」


 ドレッドは天上院の目に釘付けになる。

 その挑戦的な目はドレッドを飲み込むかのように、どこまでも深く、美しかった。

 自分の何かが焼き切られる思いがしたドレッドは、天上院から目をそらす。

 逸らした目線の先に、エンジュランドの城下町が映る。

 医務室の窓から見える景色が、ドレッドの橙色の瞳に映る。

 王宮から一望できるエンジュランド。

 中央王都ほどではないが発展したその光景。

 今までそれはドレッドにとって、目をそらし続けた存在そのもの。

 だが瞳に映るその景色に、ドレッドを拒絶する雰囲気などは無かった。


「ハッ、気が変わったんだよ」

「逃げるんだ?」

「あぁ!?」


 ドレッドは再び天上院に振り向き、威嚇するように喉を鳴らす。


「まぁそうだよね。私にはボッコボコだし、ガラードにはけちょんけちょんだし、もう戦う気なんて起きないよね」

「テメエ……」


 さらに天上院は腕を横に広げて鼻で笑う。


「あーあー、ガッカリだなぁ。こりゃもうガラードちゃんに教えてもらおっかな」

「おい」

「そうだよなー。ガラードちゃんはドレッドなんかと違って明るくて可愛くて優しいもんなぁ」


 そう言って天上院は医務室の出口に手を掛ける。

 しかしその手をドレッドが止める。

 ベッドを見やると掛け布団がひっくり返っていた。

 まさに飛んで止めに来たようだ。


「おやぁ? 寝てなくていいのかい?」

「バーカ。お前なんかをガラードと一緒にしちまったら、この国の将来があぶねーよ」


 そう言ってガラードはニヤリと笑い、医務室を出ていく。


「……ありがとよ」

「あはは、聞こえなかったことにしとくよ」


 そんな二人をクラン拳を握って見送る。

 クランはドレッドが困った時、傍にいるだけで何の力にもなれていない。

 今回だって、迷っていたドレッドを導いたのは天上院だ。

 ドレッドをバカにした天上院に掴みかからなかったのも、彼女が本心でドレッドをバカにしてはいないというのがクランでも分かったからだった。

 永刻祭まで時間は少ない、だがもし天上院が何も言わなければ確実にドレッドは心を腐らせいただろう。

 本来、それは自分の役目であるはずだ。


「姉貴……」


 今のドレッドの姿は、目標を見付けて活き活きとしている。

 彼女が迷うことは、きっともうない。

 きっと最後まで走り抜いて、結末で笑うのだろう。

 クランには、そう見えた。

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