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女だけど女の子にモテ過ぎて死んだけど、まだ女の子を抱き足りないの!  作者: ガンホリ・ディルドー
第三章 獣人のドレッド
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天上院弥子の地球浪漫 ~スペイン編、その2~

「ふふん、ここで美味しいバルの見つけ方を教えてあげよう」


 そう言って文哉が陽彩と弥子にドヤ顔をしてきた。

 ちょっとウザい。


「どうやんの?」

「ふふっ、スペインのバルでは床にゴミを落とすのが習慣なんだ。つまり床がゴミだらけなバルほど繁盛していて美味しいということさ」

「そうなんですか~」

「因みにその情報はどこから?」

「古本屋で購入した雑誌さ」


 そう言って文哉はその購入したらしい雑誌を見せつけてくる。

 なんか黄ばんでいて不安でしかない。

 何年物の代物なのだろうか、右上に10円と言うシールが貼ってある。

 だが確かに日本も昔、握り寿司を食べた後、その店の暖簾で汚れた手を拭く習慣があり、暖簾が汚い店程美味しいといわれたそうだ。


「さて、ゴミだらけのバルを探すぞ」

「普通に人がいっぱいいるお店を探せばいいと思うのですけどね~」


 文哉の言葉に二人は一応従い、プラサ・マヨールの近くに多くあるバルを覗き見る。

 近くにいくだけで美味しそうな匂いが漂ってくる。


「Hola!」


 父親に付いていって歩いている天上院に、一人の女の子が話しかけてきた。

 ショートな黒い髪の毛に青い目をした、緩い服をきた女の子だ。


「¿Qué estás haciendo?」


 バリバリのスペイン語である。

 授業で習ってリスニングをしたことはあるが、本場の声を目の前で聞くとやはり少し緊張してしまう。

 女の子が言っている言葉はギリギリ聞き取れた。

 「何してるの?」

 と聞いてきたのだ。

 やたらと店に興味を示しながら同じところをウロウロするだけの天上院一家を見て好奇心が湧いたのだろう。

 ただ残念なことに天上院はこのままスペイン語で会話が出来るほどのスキルは無いため、英語で返すことにした。

 以下、日本語で表記しますが英語で行われているものとさせて頂きます、どうかお願いします。


「ごめんなさい、英語は出来ますか?」

「ん? スペイン人じゃないんだ?」

「私達は日本人です」

「そうなんだ! ごめんね」

「お気になさらず、私達は美味しいバルのお店を探しています」

「あぁ、どこも美味しそうだもんね」

「それが……」


 天上院は女の子に文哉の話を説明する。

 すると女の子は「あー」という顔をした後、少し笑って答えた。


「最近のバルは、あまりゴミは落ちてないよ。衛生的な問題もあるし、やっぱり綺麗なところで食べたいじゃん?」


 現地の子から語られる事実である。

 二人が何を話しているか理解出来ていない文哉を、天上院はチラリと冷たい目で見る。

 やはり情報が古すぎたのだ。


「どうしたんだい? ヤコ」

「なんでもない、この子に美味しいお店を聞いてみるよ」


 そう言って女の子に向き直り、天上院が美味しいバルを知らないかと聞く。


「それならいい店があるよ! 値段も安いから私もよく行くんだ~」


 そう言って女の子は天上院の手を引いてお店に案内する。


「ヤコが我が家にいてくれて良かったわねぇ」

「本当に優秀な娘だな……」


 親よりも頼れる娘の姿に、二人はニッコリと笑って弥子を追いかけた。





「ヤコ、忘れ物はないかい?」

「うん。もう大丈夫だよ」


 天上院はもう一度部屋を振り返り、忘れ物がないことを確認する。

 必要ないらしいが、一応ベッドにはチップを置いた。

 スペインに来ることは少なくとも天上院が大人までないだろう。

 少しお土産として残して、他のセントを全て置いてきた。


「じゃあ行こうか」

「うん」

「今日で終わりなのね~」


 2泊3日のスペイン旅行は、あっと言う間に終わった。

 しかしその思い出は、天上院の記憶に深く残っている。

 夜のフラメンコ鑑賞に至ってはツアー客の誰よりも興奮していた弥子だ。

 結局、バルで会った女の子の名前は知らない。

 一緒にバルで食事をし、雑談に花を咲かせたが、ツアー客である弥子と女の子は食後に別れた。

 名前は聞いたが、今度貴女がスペインに来たら教えてあげるとのことだ。

 ミステリアスで大変よろしい。


「楽しかったなぁ」


 帰りの空港行きのバスに揺られながら、弥子はボソリと呟いた。


「初めての海外旅行でちょっと不安でしたけど、楽しかったですねぇ」

「あぁ、何事も無くて本当に良かった」


 初めての海外旅行に少し緊張していたらしいが、今の二人の顔からは、どことなく充足感がにじみ出ていた。


「間もなく空港に到着します、タックスフリーのお店が空港ありますから、お土産を買い忘れたという方はここで最後のお買い物をなさってくださいね」


 ガイドさんの音声が聞こえる。

 天上院一家はスペインで買い物をしまくったため、お土産は十分にある。

 かくいう天上院も、友人にお土産を配る予定だ。


 空港に着いた天上院一家は、セキュリティチェックを済ませた後、ゲート付近の椅子に座って待つことにした。


「いよいよ帰るのねぇ」

「ははは、まだ実感が湧かないよ」

「この二泊三日が夢なんじゃないかって思うわ」


 両親のそんな会話を聞き、天上院も今回のスペイン旅行に想いを馳せる。

 確かに終わってみればあっと言う間だった気がする。

 これから日本に帰るのだ、と言われても、そもそもスペインにいたということ自体が、夢心地だったのだ。


 ゲートが開き、天上院一家が乗る飛行機への案内が始まった。


「じゃ、行きましょうか」

「そうだね」


 チケットを見せて飛行機に乗り込む。

 機内を歩いて天上院は自分達の席を見付けた。


「ヤコ。ヤコが窓際に座りなさい」

「え?」


 文哉がそう言って天上院に窓際の席を勧める。

 行きの便で散々興奮していた彼の姿を思い出し、いいのかと聞き返す。


「いいんだよ。ほら早く」


 これ以上の応答は後ろで弥子が座るのを待ってくれているお客様に迷惑だ。

 天上院は文哉に勧められるがままに窓際の席に座った。

 文哉は通路側に座るようだ。

 やがて飛行機が動き、滑走路を走って飛び立った。

 遠くなっていくスペインの大地。

 その景色を上から見て、遂に旅が終わったというのを実感する。


「お飲み物は何になさいますか?」


 飛行機が安定した頃、行きと同じくCAさんが飲み物を聞いてきた。

 文哉は弥子と陽彩に何がいいかを聞く。

 これもまた行きと同じだ、弥子はコーラ、陽彩がコーヒーである。


「じゃあコーヒー二つと」


 文哉がCAさんに振り返り、注文する。


「コーク一つ、お願いします」


 どうやらそれが言いたかっただけのようだ。

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