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女だけど女の子にモテ過ぎて死んだけど、まだ女の子を抱き足りないの!  作者: ガンホリ・ディルドー
第三章 獣人のドレッド
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天上院弥子の地球浪漫 ~スペイン編、その1~

「おめでとうございます! 特賞、二泊三日のスペイン旅行です!」


 天上院は運がいい。

 幸運の女神に愛されていると言ってもいいレベルで運がいいのだ。

 だから今日もその運が爆発し、商店街の福引で特賞を引き当てた。


「スペインかぁ……」


 天上院弥子、高校2年生。

 そろそろ受験勉強が本格化する夏休み前、最後の海外旅行チャンスともいうべき機会だ。


「んー、家族と行こうかな」


 チケットは3人分。

 天上院の家族でいくのに十分だ。

 恐らくこんな機会でもなければ海外旅行など基本的に小市民の我が家はいかないだろう。


 天上院は急いで家に帰り、福引が当たった旨を母親に伝えた。


「えー! 凄いじゃない!」


 話を聞いて手を合わせて喜ぶ弥子の母こと、天上院陽彩。

 ハネムーンも国内で済ませた彼女にとって、海外旅行は初めての経験である。


「なにかあったのかい?」


 割烹着とマスクという真っ白な装備に身を包んだ男が、部屋の扉を開けてリビングに入ってくる。

 彼こそ天上院弥子の父親である、天上院文哉だ。


「ヤコが海外旅行のチケットを当てたのよ!」

「へぇ、それは凄いね。アメリカかい?」

「スペインよ! 貴女!」

「す、すぺいん?」


 文哉は陽彩の言葉を、かなり困った顔をして反芻した。


「すぺいんって国はなんだ、アメリカ語を使うのかい?」

「アメリカ語って……スペインはスペイン語だよ」


 我が父ながら残念な父である。

 超一流の進学校に通う弥子と違い、文哉は中学を卒業して義務教育を終えたのち、父親から豆腐屋を継いだ。

 その為頭の知識は豆腐の作り方が9割以上を占めており、一般教養の方については明るくない。


「すぺいん語……? アメリカ語と日本語だけがこの世界の言語じゃないのかい?」

「お前は何時代の人間だ」


 江戸時代末期の人間ですらもっと世界を知っていただろう。

 残念な父親はとりあえず置いておいて、二人に旅行にいけるのかの旨を問う。


「日程的には問題ないはずよ~。ガイドさん付きみたいだし、言語も多分大丈夫でしょ!」

「あぁ、ウチにはヤコもいるしな」

「スペイン語は……うーん」


 お嬢様学校である椿ノ宮では第二外国語科目としてスペイン語の授業が受けられる。

 かくいう天上院も特待生の地位を利用して受けてはいるのだが、流石に英語と同じようにとはいかず、簡単な挨拶くらいしか出来る自信が無い。


「ま、そんな気張る必要はないわよ」

「だが注意をしないとな。海外と日本はどうしてもどこかしら違うのだから」


 そして約一か月後、天上院一家はスペインに旅立った。



「ひ、飛行機になんて乗るのは初めてだよ」

「私達の新婚旅行は新幹線でしたものね~」


 遂に待ちに待ったスペイン旅行の日。

 エコノミーの座席に座って天上院一家はスペイン行きの飛行機に乗っていた。

 この旅はツアー旅行の為、自分以外の家族も参加している。


「まぁツアー旅行なんだしそんな現地の人と喋る機会は早々無いわよ」

「それもそうだね……」


 そう言いながら文哉は窓の外の風景を身を乗り出しながら見ていた。

 短期留学で何回か飛行機に乗ったことのある天上院は、窓側の座席を父親に譲り、お手洗いに行きやすい廊下側の席に座っている。

 どっちが親なのかわかったものじゃない。

 そうこうしているうちに飛行機の離陸時刻になった。


「う、動いたよ 陽彩!」

「そうですねぇ」


 文哉の興奮ぶりは完全に子供のそれである。

 恥ずかしいから勘弁してほしい。

 弥子はゆっくりと滑走路を進む飛行機を、座席に深く座りながら堪能していた。

 離陸と着陸にかかるGの心地よい圧力を感じるのが飛行機を乗る上で二番目の楽しみだ。


「陸が離れていくよ! 陽彩!」

「そうですねぇ」


 本当にうちの父親は残念である。

 今回のスペイン旅行を一番楽しみにしていたのは彼なのではないだろうか。

 事前に雑誌を古本屋で買ってスペインを調べたそうだし。

 そのくせ語学に関しては全く調べておらず、何かあったら弥子に丸投げする気らしい。

 本当に残念な父親である。

 母の陽彩はそんな文哉に適当に相槌をうちながらニコニコとして席に座っている。


「飲み物は何になさいますか?」


 離陸してしばらくすると、CAさんが天上院一家の座席に飲み物のカートを持ってやって来た。

 美人のCAさんに飲み物を注いでもらうのが天上院弥子が飛行機に乗る上で一番の楽しみだ。


「何がいい?」

「私はコーヒーでも貰おうかしら」

「じゃあ僕もコーヒーで」

「わかった。じゃあコーヒー二つとコーク一つ」

「はい、わかりました」


 そう言ってCAさんはコーヒーを二つとコーラを一つ天上院に手渡した後、次のお客様の下へ移動する。


「ヤコ」

「ん?」


 文哉がコーラを飲む天上院に話しかけてきた。

 一旦前のテーブルにコーラ置き、父親に顔を向ける。


「それコーラだよね?」

「うん」

「なんでコークって言ったんだい?」

「あー」


 そう言われて天上院が思い出すのは中学のアメリカ留学。

 前の席に座っていた人が「コークで」と言っており、コーラのようなものをもらっていたので中学生だった天上院は緊張しながら「こ、こーくで」と言ったのだ。

 後で調べたところ、場所によってはコークと言わないとコーラが出なかったり、逆にコーラで普通に通じたりするらしいが、以来天上院は飛行機でコーラを注文する時はとりあえず「コーク」と言ってコーラを注文している。


「父さん」

「なんだい?」

「海外ってのはそういうもんなんだよ」

「そ、そうなのか」


 とりあえず説明が面倒くさかったので父親にはそう言っておいた。




「皆様初めまして、私が皆さんのスペイン旅行をガイドさせて頂きます」


 ガイドの女性がツアーに参加する人々に挨拶をする。

 どうやらスペイン人のガイドさんではなく、日本人のガイドが案内をしてくれるらしい。

 これなら文哉も緊張して話しかける必要もないだろうし、普通に助かる。


「本日のマドリード観光のプランはこちらのサン・イシドロ協会からマヨール広場に歩いていき、市庁舎前を通って王宮に向かいます」


 ガイドがしおりに書いてあったプランを軽く読み上げる。

 何度か読んで多少調べた為、大体は把握している。

 ガイドに従って歩いていくツアー客。

 マドリードの町並みは赤い屋根の家が多く、中世にタイムスリップしたかのような印象を天上院に与えた。


「まるで異世界みたいだねえ」


 文哉がそんなふうに呟いた。

 確かに日本では見られない光景である。

 都会であればコンクリートジャングルが広がっているし、地方に行ったところでこんな歴史を感じさせるような赤い屋根の建物はほとんど存在しないだろう。

 ここ、スペインは天上院達日本人にとって全く知らない世界であり、文哉が異世界のようだと言うのも頷ける。


「ふふっ、歩いているだけでなんだかワクワクしますね」


 そう言って陽彩はガイドに案内されたスポットを、弥子や文哉を入れて写真に収める。

 弥子はと言うと、そんな街並みに映えるスペイン女性を目に焼き付けていた。


「こちらがマドリードのプラサ・マヨール広場です。スペインにはプラサ・マヨールという名の広場が各州に存在し、Plaza Mayor、中央広場という意味でございます」


 広場の中央には馬に乗った人物の銅像がある。


「あちらの銅像はこの広場を完成させたフェリペ3世の銅像でございます」


 世界史の勉強で習った記憶のある人物だった。

 日本とも関わりのある人物であり、1615年に伊達政宗が派遣した慶長遣欧使節の支倉常長と面会をしたとされる。


「ではこちらで1時間の自由時間とさせていただきます、何か問題がございましたらしおりに書いてある電話番号にお問い合わせいただければすぐに駆け付けますので。少しお腹の空く時間帯ですし、バルでタパスを楽しまれるのもいいかと思います」


 ガイドの言葉で、ツアーは一旦自由時間となった。

 バルとはスペインの立ち食い軽食屋のことであり、タパスはそのバルで食べる軽食の事である。


「どうする?」

「写真は結構いいのが取れたし、バルで軽く食事を取ってみましょうか?」

「まぁお昼もあるから本当に軽くつまむ程度だけどね」


 天上院一家は、ガイドのアドバイスに従ってバルに向かうことにした。

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