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女だけど女の子にモテ過ぎて死んだけど、まだ女の子を抱き足りないの!  作者: ガンホリ・ディルドー
第三章 獣人のドレッド
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お風呂だけど師匠?出来たけどお電話するけど

「へー、人間の体って獣人とそんなに変わらないのね」

「たりぃ……」


 天上院とガラードは今、王宮内にあるエンジュランドのガンマンならでも使用可能な風呂の脱衣所にいる。

 因みに天上院は身武一体の反動で移動することすら嫌がったので、ガラードとロウターの協力の下、引き摺って来た。

 現在面倒くさがりな天上院の服をガラードが脱がすという、本来の天上院であれば鼻血噴出モノのイベントが行われている。


「尻尾はないんだ~。筋肉も少ないみたい」

「動きたくない」


 そう言うガラードの体つきは、儚げな顔と対照的にとても逞しい。

 天上院の服を脱がすその腕は、表面上は絹の様に白い肌だが触ると鋼の様に固く、腹筋に至っては6つに割れている。


「こんな体つきでよくあんな凄いパワーが出せるね~。人間って貧弱って聞いてたけど、筋肉以外でパワーを生み出せる肉体構造なのかな」

「ねみぃ」


 それは勿論天上院が特殊な例過ぎるだけである。

 天上院は人類でトップクラスに強いが、彼女のパワーの源は究極性技 真四十八手及びペニバーンとロウターである。

 それで一時的なブーストを行っているだけであり、基本的に天上院のスペックは常人より多少運動神経がいい程度でしかない。


「でも身武一体はまだ上手く使いこなせてないみたい。反動も長いし」

「寒い」

「あぁ、ごめんね。すぐお風呂に入れてあげるから」

「んぅ」


 天上院のボヤきを聞くとガラードは天上院をお姫様抱っこして浴槽に運ぶ。

 ガラードに一切のよろめきは無く、その歩き方はとても堂々としたものだった。

 彼女が日頃自らの体を厳しく鍛錬しているからなのか、それとも獣人のスペックなのか。

 恐らくその両方だろう。

 天上院は身長が高い為、同年代の女性よりは重さがある方である。

 それを軽々支えているのだから驚嘆に値する。


「まず体を洗おうね~」

「んっ……」


 エンジュランドの浴室の床は木製であり、足を滑らせるといった事故も無くシャワーの前に天上院を運ぶガラード。

 浴室に置いてあった布にボディーソープを付け、天上院の体を洗い出す。

 自分では一切行動しようとしない天上院は、されるがままに洗われていた。


「よし、終わり~。私も体を洗うから、先にお風呂に入っててね」

「……ん」


 そう言ってガラードは天上院を風呂に入れ、自分はもう一度シャワーを浴びに行く。

 残された天上院は、肩が少し出るくらいまで湯舟につかり、ボーッとしていた。

 そして、ほぅ……と一つ安心したかのように息を吐いた後、ゆっくりと呟く。


「ガラードちゃん、テクニシャンだった……」


 そう、天上院の反動はとっくに終わっていた。

 具体的には天上院がガラードに「寒い」といった辺りからだ。



「ヤコちゃんはドレッドとどんな関係なのー?」


 風呂上がりに天上院とガラードの二人は王宮を出て、エンジュランドの城下町を歩いていた。


「ん……犯罪者と逮捕した人かな」

「えっ、何それ」


 天上院の返事にガラードは顔を引きつらせる。

 しかし天上院の言葉はそのまま事実であり、天上院とドレッドの関係などそれだけである。


「ドレッドが幼女を誘拐していたところを私が捕まえただけだよ」

「何してるのドレッド……」


 天上院から聞いた身内の恥に、ガラードは頭を抱える。

 人間に対して差別的なエンジュランドも、犯罪は犯罪らしい。


「てっきり獣人は人間に対する犯罪なら罪悪感無いのかと思ってた」

「そんなことないよ~、この国は確かに人間に差別的だけど、表面上は友好を結んで争わないってことになってるから、犯罪は犯罪だよ」


 どうやら魔族と同じような関係らしい。

 フィストも魔族と人間は表面上仲がいいと言っていた気がする。

 海底都市も積極的とはいかないものの、貿易や留学などは行っていたため、危ういバランスでこの世界の外交関係は成り立っているらしい。


 天上院はガラードに連れられ、城下町の一角にある喫茶店に入る。


「ドレッドはエンジュランドにいた頃も問題児だったの?」

「ううん、運命の銃が受け取れずにエンジュランドを飛び出すまで、私は彼女のことを姉貴って呼んでた。そんくらい頼れる人だったよ」

「ふーん」


 それならば運命の銃とやらを受け取れなかったせいでグレたという説が濃厚だろう。


「まぁ自分の思い通りにいかなかったからと言ってグレたらいかんよ」

「そ、そうだね……」


 女の子に振られたからキレて、その女の子に殴り掛かるようなものだ。

 悲劇のヒロインでもなんでもない、と天上院はドレッドを切って捨てる。


「まぁドレッドなんてどうでもいいんだよ私は」


 そう、天上院にとってドレッドなど至極どうでもいい。

 確かに顔はいいが幼女誘拐未遂の犯罪者である。

 そんなことより目の前のガラードという美少女の方が天上院にとって興味がある。


「貴女の話を聞かせてよ、ガラードさん」


 そう言って天上院はガラードとの仲を深める為、様々な質問を投げかけた。

 この国では身分が高いと言っていたが、この国はどんなシステムで動いているのか。

 永刻祭とやらにガラードは出場するのか。

 バストサイズはどれくらいか。


 この国は20年に一度の永刻祭で支配者を決め、その順位ごとに一代限りの地位を決めるらしい。

 ただ他家に教えず、自分の子孫だけに教えることが多く、基本的に支配者階級になる家柄は決まっているそうだ。

 ガラードの家はエンジュランドの黎明期から代々支配者階級になっている名家とのこと。

 勿論彼女も永刻祭に出場し、優勝して王座に就くことが夢のようだ。

 バストサイズはお風呂で見たでしょ? とのこと。


「だからね、私、貴女がドレッドとの試合で使ってた究極聖技っていうのに凄い興味があるんだ!」

「きゅ、究極性技に……?」


 究極セイギ。

 セイギと聞いて一発で性技と変換できる人間は少ないだろう、ましてや戦闘時だ。

 ガラードは神聖なる技、究極聖技と変換し、そのドレッドを圧倒した技に感動したのだ。


「今度私に教えてよ! 究極聖技を!」

「勿論、手取り足取り教えてあげるよ、究極性技を」


 完全にお互いの勘違いである。

 天上院は呑気にも「ガラードちゃんって見かけによらず性欲バリバリなんだなぁ」

 などと思っていた。



--------


「ん……」


 王宮の医務室にて、緊急睡眠状態だったドレッドが目を覚ます。


「姉貴!」


 近くで看病していたクランがドレッドに駆け寄る。

 ドレッドは自らの手を握ったり開いたりした後、大きなため息をついた。


「負けたか……」


 本気を出した戦いにおいて、また天上院に負けた。

 夢であって欲しいが、鮮明過ぎる記憶がそれを否定する。


「アイツは今どこにいるんだ?」

「ガラードさんと一緒にいると思います」

「そうか……」


 向上心の高いガラードのことだ。

 恐ろしく強い人間である天上院に興味が湧いたのだろう。

 彼女の目標はこの国の王者。

 その座を得るために、強い者とぶつかり、その全てを吸収するはずだ。

 天上院の強さもまた、彼女にとって成長の糧になる。


「運命の銃、な……」


 彼女にあって、ドレッドに無いもの。

 その象徴たるソレ。

 いや、彼女だけではない。

 この国のガンマンであれば誰でも持っているはずの可能性、それすらドレッドは持っていない。

 現王者の娘だというのに、持たざる者だったドレッドは何度も何度も嗤われた。

 その度に嗤った者をぶっ潰してきた。

 お前らの可能性などゴミに等しいと。

 銃を持たない私でも、お前らの運命なんて捻り潰せる。

 そう思って全員片っ端からぶっ潰してきた。


 でも、ガラードだけはドレッドを嗤わなかった。

 ガラードだけは、そんなドレッドを見て心から「凄い」と言った。

 ガラードだけは、ぶっ潰すことが出来なかった。

 彼女を試合で倒したことは何度もある。

 でもその度に彼女はドレッドの戦いを見て、学び、成長したのだ。


「あーあ」


 今となっては、ドレッドはガラードに一度も勝てない。

 ドレッドの戦い方全てを吸収した彼女は、逆にドレッドを圧倒し始めた。

 ドレッドが一歩進んでも、ガラードは真似して一歩進んだ後、更にもう一歩進むのだ。

 最早ドレッドが彼女に勝てる要素など一つも無くなっていた。


「出るのやめようかね、永刻祭」


 どうせ優勝は彼女だ。

 彼女以外に負ける気はしないが、息苦しいこの島で永遠の二位として生き続けるなど耐えられる気がしない。

 ならば再び中央大陸にでも戻り、犯罪組織に再度加入してその日暮らしをしたほうがよっぽど楽しいだろう。


「……チッ」

「姉貴、もう少し横になってた方が」

「必要ねーよ、いくぞ」


 そう言ってドレッドは歩き始める、王宮の外へと。


「どこ行く気ですか?」

「……」


 クランのその質問に、ドレッドは答えない。

 王宮を出ると、陽は落ちかけ、町を茜色が包み込む。

 遥か遠くに霞んで見える中央大陸に、夕日は沈みこんでいった。


「姉貴……」


 一切の言葉を発さないドレッドに、クランが心配そうに声をかけてくる。

 その頭をガシガシと撫でてやると、目を細めて気持ちよさそうに抱き着いてきた。


「ドレッド!」


 そんな二人に、町から帰って来たのだろうガラードが声を掛けてきた。

 天上院も一緒にいる。


「……」

「……」


 天上院とドレッドはお互いに無言で見つめあった。

 ドレッドの目つきに攻撃的なものはない。

 ただ先程沈んでいった夕日を見つめていた時のような目で、天上院を見つめていた。


「オイ」


 やがてドレッドが口を開き、天上院に向けて言葉を発する。


「明日また訓練所に来い」

「また? しつこいね」

「ちげーよ」


 ドレッドは天上院達に背を向けて、再び王宮に向かって歩き出した。


「お前の身武一体、はっきり言ってゴミに等しい」

「はぁ? 負け犬の遠吠えにしか聞こえないんだけど」

「ハッ、言ってろ」


 天上院の身武一体の練度は、ドレッドからすれば自分を嗤ったゴミ共と大差ない。

 だが、天上院はゴミ共と決定的に違う。

 自分を嗤わず、本気でぶつかってきたのだ。


「私が鍛えてやるよ」


 この国で最強の存在、ガラードを生み出した女は、そう言って王宮内に入っていった。





「んー」


 天上院は今、ガラードの家で寛いでいる。

 家、と言ってもガラードの言葉通り彼女は名家のお嬢さんであり、豪邸と言って差し支えないものだった。

 振り返ってみると天上院は、異世界に転移をしてから割といい暮らしをしている。

 まともに野宿をしたのはそれこそ初日にフィストと戦って気絶した時くらいのものだ。

 それもフィストが徹夜で看病していてくれたため、野宿と言っていいのかすら怪しいレベルである。

 その後はフィストのお金で宿泊したり、ドレッドを捕まえた時の報酬金だったり、ティーエスの家に泊めてもらったり、ウミオーから貰ったお金だったり等、不自由をしたことが無い。

 はっきり言って幸運過ぎである。


「異世界ちょっとチョロ過ぎん?」


 天上院がこの『混合世界』と呼ばれる世界に転移した時、天使のヴィクティムからは『死亡率が最も高い世界』と紹介されて転移をした。

 確かに危ない事件は多かったが、そのリターンはとても大きい。

 今回もエンジュランドは人間に差別的な国だと聞いたが、ガラードの助けによって気にせずに暮らしていけそうである。

 海底都市の時もティーエス、そしてウミオーという存在のおかげで人間の自分でも生活出来た。

 さらに言えば最初に出会った人物がフィストでなければ自分は魔力による会話が出来ず、詰んでいた可能性が高い。


「そういえば」


 天上院はヴィクティムの存在を思い出した。

 フィストの時は徳ポイントを手に入れた為に会話をしたが、ティーエスとは残念ながらそういう関係にならずついぞスキルカタログを開くことは無かった。

 ロウターやペニバーンがいなければ話し相手欲しさでスキルカタログを使ったかもしれないが、幸いにも沢山の人物に恵まれ寂しさは無かった。

 はっきり言おう、忘れていた。

 ティーエスと寝ていた海底都市と異なり、ガラードと添い寝をするわけではない。

 初めて泊まる家に一人という状況で、少し心細くなった天上院はヴィクティムと少しの間だけお話をすることにした。


「スキルカタログ、発動」


 天上院がそう言うと、目の前に一冊の本が光と共に現れる。

 その本が自動で開き、ページがパラパラと捲れた後、一つのページで動きが止まった。

 そのページから光が溢れ出し、ホログラム映像のようにヴィクティムの姿が現れる。


(天上院様ーーーーー!)


 そして聞こえるヴィクティムの声、元気そうで何よりだ。


「いきなり呼び出してごめんね、今大丈夫?」

(いえいえ、お気になさらず! 今回は何用ですか? 徳ポイントは以前と変わらないようですが……)

「あぁ、それについても謝るよ。ただ久しぶりに君の声を聞きたかっただけなんだ」


 これは天上院がヴィクティムを口説いているというわけでなく、純粋にその通りである。

 だがその言葉を聞いたヴィクティムはとても嬉しそうだ。


「天上院様はお口が上手いのですね! なら私とお話しますか?」

「うん、時間の許す限りお話しよ」


 そうして天上院とヴィクティムは取り留めもない雑談を始めた。

 天上院はこの世界に来て楽しかったことや驚いたこと。

 ヴィクティムは職場の愚痴や嬉しかったことなど、二人は純粋に会話を楽しんだ。


「ふわぁ……ごめん、もう眠いや」

「そうですか、では仕方ありませんね。またいつでも呼んでください!」

「ありがと、おやすみ」

「おやすみなさいです!」


 天上院にヴィクティムがそう言った後、彼女のホログラム映像は光の粒子となって消えた。

 ガラードとは既におやすみを言ってある。

 後はもう寝るだけだ。

 天上院は布団に潜り込み、小さなあくびをした後その目を閉じた。

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