王様だけどまた祭りだけど美少女いるけど
天上院達はエンジュランドの王であるドレッドの父親に会うため、中央にあるらしい王城に向かう。
「いきなり行って対応してくれるの?」
「王の娘である私の入城拒否れる奴なんて早々いねーよ」
「今人間の姿だけど?」
「生体反応でわかるだろ」
しばらく歩いていると、エンジュランドの転移陣が見えてきた。
「これで王城前広場まで飛ぶぞ」
「あ、この国にもあるんだ」
「便利だからな」
三人が転移陣に乗ると、以前乗った時と同じく金色の蔦が包み込み、演出が終わると中世風の王城前だった。
「建物は結構古いんだね」
「数百年前の建物をそのまんま使ってるからな、ちょくちょく改修はしてるが」
ドレッドが城の門番をしている狼の兵士に声を掛ける。
「ペンドラー・ドレッドだ。王にお目通り願う」
「……誠に失礼ですが、こちらの水晶に手を乗せて下さい」
「ほらよ」
ドレッドが水晶に手を乗せると、その水晶に文字列が浮かび上がった。
「確かにご確認できました、お連れの方は?」
「ダチだよ」
「承知しました、どうぞお通り下さい」
ドレッドは天上院とクランを連れて、絨毯の敷かれた王城内を堂々と歩く。
「私とドレッドってダチなの?」
「んなわけねえだろ、ふざけんな」
「入れたからいいや」
「人間なんてまともに生きてたら一生入れない獣人の国の王城だ、目に焼き付けろよ」
ドレッドの態度はイラっとするが、確かにまともに生きていたら人間排他主義らしいこの国の王城に天上院が入れたのはラッキーとしか言いようがないだろう。
「で、ドレッドのお父様はどこにいるの?」
「この時間なら執務室で仕事してんだろ」
「えっ、アポ無し訪問でいいの?」
「あの親父に気を使う必要なんてねーよ」
そう言ってドレッドは天上院と共に階段を上り、その先にある扉の前に辿り着いた。
開けようとしたドレッドは、扉の前に立っていた騎士二人に呼び止められる。
「止まれ! 今は王が執務中だ!」
「うるせー退け、ドレッド様のお通りだ」
「王の娘とは言え、執務の邪魔をさせるわけにはいかん!」
「退け、って言ってんの。わかるか?」
「あ、姉貴……流石に出直したほうがいいんじゃ」
「アイツの謁見順番待ちなんざしてみろ、一年先になるわ」
そう言ってドレッドは扉を蹴り開ける。
「……何者だ」
「お前の可愛い娘だよ」
執務室の中には、木製の巨大な机に、巨大な獅子の獣人がその眼光を光らせて天上院達を睨み付けてきた。
「なんだ、出来損ないの娘か」
「オイオイ、その言い方はねーんじぇねえの? クソ親父」
「永刻祭の直前に帰って来たか、権力だけは欲しいと見ゆる」
「テメーのおこぼれなんざいらねーよハゲ」
ドレッドは獅子の顔をした獣人と険しい口調で言いあっている。
「ふんっ、で、要件はなんだ」
「可愛い娘に人間どもの汚い鎖が付いてんだよ」
「人間ごときに捕まったか、堕ちたな、お前も」
「一緒に繋がってるこの女にしてやられたんだよ」
そう言ってドレッドは手を上げて父親に鎖を見せる。
一緒に繋がれた天上院の右手を、ドレッドの父親は見た。
「その女は獣人か?」
「我らが敵の人間だよ」
「そうか、ならば遠慮はいるまい」
そう言ってドレッドの父親は立ち上がり、懐から拳銃を取り出した。
「死ね、穢れた種族よ」
そしてその銃口を天上院の額に向かって真っすぐ向けた。
「〝ヨリソイ″!」
鎖で繋がっているせいで身動きが取れず、避けられないと判断した天上院は究極性技でソレを防ごうとする。
「〝エクスカリバー″!」
獅子王はそう叫ぶと、銃の引き金を引く。
銃口から眩い光が放たれ、天上院の額に向かって光線となり襲いかかった。
「ッ!」
その光の眩しさに目を開けていられなくなった天上院は、これまでと諦めて目を瞑る。
しかし、いつまで経っても彼女の額を光線が貫くことは無かった。
「オイオイ、私が旅立った頃より随分と威力が落ちてんじゃねーか、お父様?」
「言っただろう、永刻祭が近いと。今の私にはこの程度の簡易結界すらも破る力は無い」
いつの間にかドレッドの父親は拳銃を仕舞っており、腕を組んで座っていた。
天上院の目の前にも、ただ〝ヨリソイ″による青いベールが存在するだけで、先程までの光はとっくに消え去っていた。
「じゃあこの鎖すらも今のアンタにゃどうにも出来ないってことか」
「そう言うことだ、他を当たれ」
「そうするわ」
「二度と戻ってくるんじゃないぞ」
「言われなくても来ねえよ」
ドレッドは天上院を連れて執務室を出た。
クランは執務室の外で待っていたようだ。
出て来た二人に様子を伺ってくる。
「どうでしたか? 姉貴」
「駄目だわ、やっぱ使えねー。あの親父」
「ねぇ」
「あん? んだよ」
別の場所に向かおうとするドレッドに、天上院は声を掛ける。
「永刻祭って?」
「あぁ、この国は20年に一度、王を決める大勝負を行うんだよ。それが永刻祭だ」
「どんな勝負なの?」
「言ったろ? この国はガンマンの国だ」
「永刻祭で優勝した者は、精霊から治世の力を授かり国の王になるっす!」
「その力は20年で弱まり、また新しい王を決める。それがこの国のシステムだ」
「ドレッドは出るの?」
「当たり前だろ? 私はこの国で」
「ドレッド……? やっぱりドレッドだ!」
何か言いかけたドレッドを遮り、天上院達の背後から何者かが話しかけてきた。
天上院が振り返ると、そこには真っ白なコートを着た銀髪の美少女が、笑顔でこっちに走って来ているのが目に入った。
「こっちに戻って来てたのね! 私よ、ガラード!」
唐突な美少女の登場に、天上院のテンションは一気に上がるが、隣のドレッドの表情は一気に曇る。
「私は……この国で一人を除いて最強なんだよ」
ガラードはボソリと呟いた後、ガラードと名乗った少女に軽く手を上げて挨拶をする。
「ひ、久しぶりだな……ガラード」
「うん! ドレッドも元気そうで私嬉しいよ!」
「さ、さよか……」
ガラードと呼ばれた少女は笑顔でドレッドに抱き着いてくる。
その頭からは小さな耳がヒョッコリと生えており、雪の妖精を思わせた。
普段はオラついているドレッドも、タジタジといった様子である。
「なんでガラードがここにいるんだ?」
「今、父上がドレッドの父上……アルト王にご挨拶に来てて、その付き添いなの!」
「ランスロウ卿まで来なすってるのか……」
「永刻祭が近いしね~、ドレッドも参加するんでしょ?」
「お、おう」
「そうなんだ! 私ドレッドと戦うの楽しみにしてるね!」
ドレッドに熱い抱擁をしたまま、ガラードは一気に捲し立てる。
この場にいるはずの天上院やクランなど最早空気だ。
「あれ? なんでドレッド手錠してるの?」
「今更かよ……」
そこで漸くガラードはドレッドに嵌められている手錠に気が付いた。
二人の会話している最中にもずっとジャラジャラと音を鳴らしていたのだが、ガラードに気付く様子は全く無かった。
「これってひょっとして獣化不能の鎖?」
「お察しの通りだ、今コイツをぶっ壊せる奴を探してる」
「なら私がやってあげるよ!」
「ちょっ、待て」
ドレッドの制止も効かず、ガラードは太腿のレッグホルスターから銃を取り出し、鎖に向かって構える。
「〝ディラン″!」
そう言ってガラードが引き金を引くと、ガラードの銃から先程とは比較にならない量の光線が発射される。
命の危険を感じた天上院だったが、彼女の腕をも巻き込んでいるはずの光は、不思議とどこか心地よさを感じるものだった。
そっと温かい何かに包まれているような、そんな感触。
光が収まると、そこに天上院達を拘束していた錠は無かった。
「はい、完成!」
「お前、昔より増してチートになったな……」
力が弱まっていたとはいえ、この国の王ですら壊すことが出来なかった手錠。
それをこの少女は簡単に壊して見せた。
「ね、ね! 早く訓練場に行こ! 久しぶりに模擬戦しよーよ!」
「バカかお前、連れがいるのが見えねえのかよ」
ドレッドがそう言うと、ガラードは漸く天上院達に振り返った。
「……!? 貴女達いつからいたの!?」
「ま、まさか今の今まで気付いて無かったっすか!?」
「最初っからいたよバカ! 相変わらず周りが見えてねえなお前は!」
「私、これでも前世は一目見ただけで周りの女性を虜にしてたのに……な」
ガラードの思いがけない言葉にクランは唖然とし、ドレッドは呆れ果てる。
天上院に至っては自由になった右手をプラプラしながら拗ねていた。




