美少女だけどセンサーおかしいけど獣人らしいけど
「エンジュランドってなに?」
「私の故郷だよ」
「どんなとこなの?」
「あー、ガンマン達の国だ」
「ガンマン……」
その言葉を聞いて、天上院の頭に浮かぶの砂埃が舞う西部劇の世界だ。
だがこの地球よりも発展した世界で、そんな中世的な国が成り立っているのだろうか。
「私達の鎖を切ってくれる人に心当たりがあるって言ってたけど、誰なの?」
「私の親父だよ」
「へー、凄い人なんだ?」
「あぁ、エンジュランドの王様だからな」
「……は?」
なんで天上院はこうも王族やその国の最高権力者の娘と一々繋がりが生まれるのだろうか。
目の前のドレッドに対して、天上院の美少女感知センサーはほとんど反応していない。
天上院の感覚的にはドレッドも十分凛々しく美しいのだが、感知センサーは反応しない。
天上院は最近このセンサーの基準が良くわからなくなってきた。
確かにセンサーの導いたフィストやフリジディ王女、そしてティーエスは文句の付け所の無い美少女だったが、目の前の幼女誘拐犯ドレッドも彼女達に負けず劣らず美しい。
なのに反応は微弱なのだ。
天上院の基準=美少女感知センサーの基準では無い、ということなのだろうか。
「なら由々しき事態だな……」
「あ? 何がだよ」
「君が美しいという事実を世界が認めない」
「逃走中に頭でも打ったか?」
天上院にとってこれは由々しき事態だ。
彼女の目的は世界中の美少女とのフォーリンラヴである。
なのにそれを見つける為の美少女感知センサーが正常に動いていないというのは、天上院にとってかなり問題だ。
「あの人に至っては、無反応だったよな……」
それは海底都市で天上院に力を貸した謎の人物。
いたずらっ気のあるあの人物の顔も、十分に美しく、可愛いと言えるものだった。
「うん、やっぱりアイツ男だろ」
少し迷った後、天上院はそう結論付けた。
女である以上、美少女感知センサーはその美醜にかかわらずある程度反応するのだ。
それが全く無い。
つまりあの人物には、ちん〇んが付いてるということだ。
「エンジュランドまで後どれくらい?」
「んー、まだまだ先っすね~」
天上院が船を操作しているドレッドの部下に確認を取ると、気の抜けた声で返事を帰ってくる。
そう言えば天上院はドレッドの部下の名前を知らない。
「君の名前はなんていうの?」
「あ、自分っすか? クランと言うっす!」
「クランちゃんは男の子でしょ?」
「「は?」」
天上院の言葉に、二人が何言ってんだこいつと言った表情で振り返る。
天上院がクランを男だと予想した理由。
それは美少女感知センサーが全く反応していなかったからだ。
よって天上院はクランを男と断定したのだ。
「「クラン(私は)女だぞ(っすよ)?」」
「あれー?」
「寧ろどう見たらお前はクランが男に見えるんだよ」
「もう何がなんだかわかんないや……」
美少女感知センサー。
それはペニバーンこと神槍グングニールとロウターこと空駆ける英知のペガサス。
神話的な存在と全く同じ徳ポイントで得られるそのスキルには、間違いなく秘密がある。
「エンジュランドが見えてきたっすよ!」
クランがそう言って遠くの大陸を指差す。
「あー、やっと変態ヤローから離れることが出来るぜ」
「こっちのセリフだよ、幼女誘拐犯」
「ハッ、そんなことを言っていいのか?」
天上院の返答を鼻で笑うドレッド。
「何がおかしいの?」
「お前本当に知らねえんだな。エンジュランドは獣人の国だ、人間排他主義のな」
人間排他主義。
海底都市もそうだったが、やはりこの世界の人間とそれ以外の人種の溝は深い。
外交など表面上の関係は続いているが、目の前のドレッドが嫌らしく笑う通り未だ対立は根強いのだろう。
しかし天上院は目の前のドレッドを見て、あることに気付く。
「貴女そもそも獣人なの?」
「当たり前だろ、今はこの忌々しい鎖のせいで本来の姿に戻れねえが、私は立派な獣人だ」
「クランちゃんは?」
「私も獣人っすよ~。私は鎖が付いてないんで変身できます」
そう言ってクランはバレリーナのようにその場でクルリとターンをする。
するとクランに長くて白い耳が付き、全身から薄い毛が伸びてきた。
もふもふである。
「この状態が本来の私っす!」
「あら可愛いバニーちゃんね。ドレッドはなんの獣人なの?」
「ふっ、私は鎖が解けてのお楽しみだぜ?」
「姉貴は美しい白狼っす!」
「言うなよ! 私の話聞けよ!」
「ご、ごめんなさいっす~!」
自慢げに言うクランをドレッドが怒る。
「お、狼と羊ペアなのね……」
そんな二人を見て、そんなことを考えていた天上院だった。
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「さ、着きましたよ!」
「お、おぉ……」
天上院がエンジュランドの地に降り立つと、そこには沢山の獣人がいた。
犬と思われる獣人に、トカゲのような爬虫類の顔をした獣人。
とても首が長い……恐らくキリンであろう獣人。じゃが〇このイメージキャラクターっぽかった。
アルマジロのような獣人までいる。
そんな中に人間の天上院が降り立てば、それは目立つ。
「見られてるよ、いつものことだけど何か気恥ずかしいね」
「お前一回死んだら?」
しかし注目する獣人たちも、天上院の右手に付いた鎖を見てなにか納得したように目を離す。
「良かったな、獣化の鎖が解けるまでは大丈夫だぞ」
「そう言えばなんでドレッドは私に攻撃しないの? 仇でしょ?」
それは天上院がドレッドと共に船に乗った時から思っていた疑問。
ドレッドがその気になれば天上院の右手を銃で吹き飛ばしてアイディールたちへの生贄にすることだって出来たはずだ。
そうすれば天上院を引き連れて移動する必要も無かったし、仇討ちもできた。
「ハッ、馬鹿言うんじゃねえよ」
そんな天上院の考えをドレッドは鼻で笑って否定する。
「仇討ちってのはな、正々堂々目の前から叩き潰して成立するもんだ」




