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女だけど女の子にモテ過ぎて死んだけど、まだ女の子を抱き足りないの!  作者: ガンホリ・ディルドー
第二章 人魚のティーエス
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お話しするけど旅立つけどお別れだけど

 天上院が外交窓口へ向かって歩いていると、呼び止める声があった。


「そこのお嬢さん、ワシと喫茶店でお茶でもせんかね?」


 随分と古臭いナンパである。

 一人称に至ってはジジ臭い。

 振り返った天上院は声をかけて来た人物を見て、にっこりと微笑む。


「まぁ、こんな私でよろしければ是非」




 その人物に連れてこられた喫茶店は、賑わう町の中央からは少し外れた場所にある店だった。

 喫茶店のマスターはその人物をチラリと見た後、黙って店の奥にあるインテリアのアンティークな食器棚を横に押した。

 すると食器棚は抵抗なく横に動き、その奥に続く部屋が現れた。

 その人物と天上院は部屋に入り、椅子に座って飲み物を注文する。


「それで、こんな密室に年端のいかない少女を連れこんで何の用ですか? 都市長様」

「いやはや、自分の孫娘と同世代の女の子と一緒にお茶とは緊張するねえ」


 初めて出会った時とは全く異なる雰囲気で都市長ウミオー・セージは天上院に話しかけてくる。

 冗談もほどほどに、彼らは早速本題に入った。


「君をここに呼んだ理由はな何故君を海底都市に受け入れたかを、君に伝えたかったからだ」


 ウミオーは注文した珈琲を啜りながらゆっくりと喋る。


「そういえば聞いていませんでしたね、何故ですか?」

「君の探し物とは、ティーエスの事だろう?」


 一瞬、天上院の息が止まった。

 紅茶を飲んでいた彼女は喉に詰まらせ、むせ返る。

 こんな反応をすればその通りだと認めているのと同じだ。

 天上院は諦めて正直に答える。


「……何故それを?」

「いつか君が海底都市に来る事を、私の母、ミーシンが私に言っていたからだよ」


 海底都市に来てから天上院は不思議な人物ばかりに出会う。

 天上院とアレクの意識を入れ替えた人物しかり、ウミオーしかり、今はこの世にいないミーシン・セージという人物しかり。


「ミーシン・セージ様というのは予言者なんですか?」

「さぁの。母上が私に言っていた事はこうじゃ」


 世界を犯す『概念』が甦る時、『歌姫』は再び『導き手』によって目覚めを迎える。


「……話が壮大すぎて意味がわかりません」

「『導き手』は不思議な力によって世界の英雄達を覚醒させ、共に『概念』へ叛逆するそうだ」


 天上院は前世で死を迎え、この世界に転生した。

 その時に本物の天使も見たし、この世界に来てからも魔法というファンタジーは沢山見た。

 しかし今聞いた話にはまるで現実味がない。

 そんなのはまるで


「まるで神話か何かですね」

「全くだ。だが、実際に歌姫の素質を持ったティーエスが生まれ、その力を覚醒させる『導き手』……お主が現れた」


 ウミオーは言葉を区切り、珈琲を一気に飲み干して再び天上院と目を合わせる。


「私はお主の入国目的を聞き、この人物こそと思い入国を許可した。するとまさに母上が言った通り、『歌姫』の力は目覚めた。この事実をどう判断するかはお主次第だ」


 天上院はその言葉に対して何も言葉を発さない。

 展開が急過ぎてついて行けないのだ。


「まぁいい。いきなり自分が世界を救うヒーローだと言われても驚くのは当然。だが、覚悟はしておいた方が良いかもしれんぞ」


 そう言ってウミオーは天上院に2つの紙切れを手渡す。

 それは天上院が海底都市から出る為の潜水艦チケットと、大金が記された小切手だった。


「既にお主の物語は始まっておる」


 ウミオーは去り際に、ポツリと言った。




「よかったのか? 主」

「何が?」


 現在天上院はウミオーに渡されたチケットに従って外交窓口の廊下を歩いている。


「結局主はティーエス嬢をモノにすることが出来なかったではないか」

「あぁ、そのことね。いいわけないじゃん、サイアクな気分だよ」


 廊下の床をつま先で軽く蹴飛ばしながら天上院は言う。


「私が狙ってモノに出来なかったうえに、他の人に取られるなんて生まれて初めての屈辱だよ」

「しかし今の主の顔はとてもそのようには見えん」


 ロウターの言う通り、愚痴を溢す天上院の顔には微笑みが浮かんいた。


「仕方ないじゃん。あんだけカッコ良く目の前でキメられちゃあさ、取られた甲斐があったってもんだよ」


 天上院の頭に浮かぶのは、数日前のアレックス。

 一生を掛けてティ―エスを支えると宣言した彼と、ティーエスの嬉しそうな顔。

 その時天上院は受け入れたのだ。

 これ以上自分が進んでいい道は無いという事実を。

 もう一歩踏み出すのは美しい花園を踏み荒らす行為に他ならないと。


「私にだって手に入れられない女の子はいるんだ」


 天上院は自分を過信していたと思う。

 自分ならばどんな女性でも手に入れられると。

 そんな風にどこか過信していたし、事実今までは全てその通りだった。

 しかし、それは完全に幻想だった。

 天上院にだって踏み出せない空間がある。

 彼女は今回それを深く痛感した。


「でも私は美少女探しをやめたりしないよ、ロウター」

「ほう、何故だ」

「ティーエス以外の美少女はティーエスではないからさ」


 今回天上院はティーエスに出会い、恋に落ちたが、彼女は天上院以外の人物が好きだった。

 それによって天上院は失恋したが、あくまでティーエスがそうだっただけだ。

 他の美少女が皆好きな人がいるわけではないし、全員を同じように考えるなんてそれこそ失礼だ。

 一回ダメだったからという理由で全てを諦める必要なんてどこにもない。


「私は新たな美少女を探す。この世界の物語なんて関係ない」


 ウミオーから聞いた話。

 自分がこの世界の主人公だという現実。

 そんなものは彼女にとって関係ない。

 もし自分が物語という名の敷かれたレールを歩いてるのだとして、それが彼女の目的の障害になるのか。

 むしろそのレールに従うことで新たな美少女に巡り合えるのならば、彼女は進んでその道を歩く。

 決める必要がある覚悟なんてどこにもない。

 そんなことを考えているうちに天上院は、地上へと天上院を送り届ける潜水艦の前に辿り着いた。



「うわっ、凄い広い」


 潜水艦の中はとても広く、さながらパーティー会場のようだった。

 沢山のテーブルに、前方には大きなステージまである。

 乗組員に聞いたところ、海底都市が地上の高官を招く時などに使う特別な潜水艦らしい。


「ヤコ・テンジョウイン様、こちらへどうぞ」


 キッチリとしたスーツに身を包んだボーイが天上院を艦内の席に案内する。

 お嬢様学校に通っていたものの基本的には庶民の天上院にとってこの待遇はティーエスの家で多少は慣れたものの、あまり落ち着かない。

 料理がコース形式で運ばれてくると同時に、部屋のステージにて人魚達のダンスショーが始まる。

 思わぬサプライズに、喜んで魅入る天上院。

 それを鑑賞しながら食べているうちに前菜が終わり、メインディッシュが運ばれてくる。


 しかしその時突然艦内が暗くなり、天上院は驚いてカトレラリーを落としてしまった。


「すみません、落としてしまいました」

「大丈夫です、すぐに替えをお持ちしますね」


 ボーイがその場を去るが、艦内は未だに暗いままだ。

 万が一の事態に備えて周囲を警戒する天上院。

 そんな彼女の下に再びカトレラリーを持ったボーイがやってくる。


「ありがとうございます」

「いえいえ、そんなことよりもお次はメインディッシュ、『歌姫』様とそのご友人によるコンサートです」


 ボーイがそう言った瞬間艦内には再び明かりが点き、ステージにはティーエス、アレックス、ワイゼル、リースが各々自分の楽器を構えていた。

 突然の展開に驚く天上院をよそに、ワイゼルのドラムで彼女らは曲を奏で始める。

 それは今まで何回練習しても上手くいっていなかった曲だった。

 ティーエスとアレックスが致命的に合っていなかったこれまでと異なり、ティーエスの音にアレックスが続き、ワイゼルとリースがそれを後押しする。

 天上院が初めて聞いた、皆がそれぞれ自分を主張する曲とは異なり、トップで胸を張るティーエスを皆が協力して支える。

 それによって生まれた音は、まるで流れる水のようにサラリと天上院の心に届いた。


 曲が終わり、ティーエス達がマイクを持って天上院に叫ぶ。


「「「「またね!!!」」」」


 そう言って彼らは何も言わずにステージから去っていった。

 彼らを天上院は追いかけない。

 分かっているのだ。

 またいつか会えると。

 だから引き留める必要なんてない。


「またね」

 

ここまで読んでくださった読者の皆様方、本当にありがとうございました。

これにて第二章、人魚のティーエス編は完結です。

明日からは第二章までの改稿と第三章の投稿を行っていきます。

第三章に本格的に入る前に数話、天上院以外の人物にスポットライトを当てたお話を書きます。

引き続き毎日更新していきますので、これからも天上院様の活躍を応援して下さると嬉しいです

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