天上院弥子が恋した女 人魚のティーエスーSide2-
「え、え?」
「言ったろ? お前が思ってるほどお前の失敗は大したもんじゃねーんだよ」
アレクが私にそう言いながら微笑む。
「もっと自分に自信を持て、多少やらかしても大丈夫だって」
「おう、代表挨拶なんて出来るやつの方がスゲーよ。そのラインに立ってる奴以外に否定していい奴はいねえ」
ワイゼル君もそう言って私を元気づけてくれる。
「……ありがとう」
「おう、俺の名前はアレックス。お前は?」
「ティーエス。ティーエス・セージ」
「俺はこれからお前のことをティーって呼ぶ。だからお前も俺をアレクって呼びな!」
「よろしく、アレク君」
「君付けしなくていいってば」
「そう? じゃあよろしくね、アレク」
私がそう言うと丁度先生が教室に入ってきた。
「皆入学早々仲良しね! 新しい友人と話したいこともあるでしょうけど、とりあえず全員席に着いて!」
指示通りに席に着く私達。
担任の先生が自己紹介をした後、生徒の自己紹介が始まる。
一番手は出席番号が一番若いアレックスだった。
「1番のアレックス・ダインです。趣味は音楽を聴いたりギターを弾くこと! バンドを組んで学校で演奏出来たら最高だなって思ってます。よろしく!」
拍手が巻き起こる。
アレックスに続いて生徒たちが自己紹介していき、遂に私の番となった。
「27番のティーエス・セージです。新入生代表挨拶をして、盛大にしくじった人です」
クラスから小さな笑いが起こる。
そこから嘲りは全く感じず、不快感はない。
むしろ心地よい。
「なのでこの学校で皆と仲良くし、自分自身のレベルアップが出来るように頑張ります」
大きな拍手が起こった。
私の心による補正だろうか、今までで一番大きな拍手だった気がする。
アレクの方をチラリと見ると、ものすごい勢いで手を叩いていた。
そうして私はアレクとワイゼルに出会い、すぐに打ち解けて友人となった。
彼らは私を都市長の娘と知っても大した反応を見せず、むしろそれをネタにいじってくる。
私は本当に運がいいと思う。
こんな友人達に恵まれたのだから。
「バンド?」
「そう!」
入学してそこそこの月日が流れたある日。
アレクが私に「バンドを組まないか?」と誘ってきた。
「私お稽古でピアノを習ってた程度よ?」
「音楽経験が多少あれば大丈夫だって! 本物の素人よりは全然マシだろ」
「他にもっといい人がいるんじゃない? だって私人前に立つとアレだし……」
そもそも音楽自体があまり好きではない。
ピアノのお稽古からしていい思い出が無いのだ。
「断言できるぜ。この数か月でティーは入学当初より確実に成長した。それにいつまでたっても人前に立つのが苦手じゃ『都市長の娘』としてもアレだろ?」
「うっ……」
「それに俺はティーとバンド組みたいんだって。頼む!」
アレクが腰を直角に曲げてお願いをしてくる。
愛の告白かというレベルで真剣だ。
ここまでお願いされてはこちらも折れるしかない。
「わかったわよ。バンド、いいじゃない。やりましょ」
「ホントか!? よっしゃあ!」
「他のメンバーは誰がいるの?」
「もう決めてる。ワイゼルだ」
ワイゼルなら納得である。
彼は普通の男の子より体格もいいし、ステージに立てば目立つ。
聞けばまだ誘ってはいないらしく、これから誘いに行くとのこと。
二人でワイゼルを誘ってみたところ、彼に音楽経験は一切ないらしい。
しかしアレクが「別にライブを今すぐ行うわけじゃない」
と言ったので、彼もそういうことならと了承。
メンバーは現在3人。
もう一人いなければ確実に厳しいため、残りのメンバー探しとそれぞれの担当楽器を何にするかという相談をした。
結果アレクは絶対にギターをやりたいらしくギター。ピアノの経験がある私はキーボード。
そしてワイゼルはドラムを体験してみる、ということで仮決定となり、その日は解散した。
しかし後日に状況が再び変わる。
「リースをメンバー入れたいんだが」
ワイゼルが音楽室にあるドラムを練習しに行ったところ、リースと言う女性と知り合ったらしい。
彼女は音楽室内でキーボードを弾いており、それがあまりに見事だったので感動して声を掛けたところ彼女にドラム、というより音楽の基礎を教えてもらったとか。
説明はよくわからなかったがワイゼルの顔が物凄く赤かったのを覚えている。
その後私達もリースと知り合い、4人でバンドを組むことになった。
最終的に私がベースとボーカル。アレクがギターにワイゼルがドラム。そしてリースがキーボードということで落ち着いた。
目標を来年の文化祭でステージを行うということに決め、私達は練習をした。
ピアノのお稽古とバンドの練習は全く違った。
私が弾く度に指摘してくる先生はいないけど、私のミスをカバーしてくれる仲間はいた。
私も仲間がミスをしたらそれに合わせてカバーをする。
今までにない経験に、練習への力が入ったのをよく覚えている。
そして文化祭当日。
ステージに立つ私を観客の生徒や保護者たちが見つめる。
でも入学式の時と違う点が二つあった。
一つは私に自信があること。
そしてもう一つは隣に立つ友人がいること。
私達は楽器を鳴らし、観客に今日までの全てをぶつけた。
曲が終わった後に巻き起こった拍手は、私の人生で最も大きなものだった。




