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女だけど女の子にモテ過ぎて死んだけど、まだ女の子を抱き足りないの!  作者: ガンホリ・ディルドー
第二章 人魚のティーエス
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天上院弥子が恋した女 人魚のティーエスーSide1ー

「朝食後はピアノのレッスンです。その後は魔力の操作に数学の勉強、昼食及び休憩時間の後に本日のスポーツ。最後に歴史を勉強して本日は自由時間となります」

「わかったわ」


 朝起きて着付けをされながら言われる日程。

 一週間前と全く同じ予定だ。


「では朝食のお時間です。教わったマナーに注意しつつお召しあがりください」


 ご飯の時にまで何故勉強しないといけないのか。

 好きに食べさせて欲しい。


「おはよう。ティーエス」

「おはようございます。お爺様」

「今日も一日頑張るんじゃぞ、じいやも頑張るからな」

「はい!」


 私はこの海底都市のトップである都市長ウミオー・セージ、その孫娘だ。

 二百年前の戦争で人魚達を率いた血筋らしい。

 その血筋のおかげで私は他の人魚達より贅沢な暮らしが出来ている。

 縛りも多い、でも甘えた事は言えない。

 私の失態はそのまま保護者であるお爺様の失態と見なされる。

 私は『都市長の孫娘』として恥ずかしくないようにしなければいけない。家庭教師もそう言っていた。


「ではピアノのレッスンを開始します。まずは通しで最後まで弾いてください」


 指示通りに私はピアノを弾く。

 通しで、と言ったピアノの先生は私がミスをする度に止めて指摘をする。

 曲のテンポから指の使い方に至るまで細かく何度も何度も似たようなところで止めては注意する。


「ここは無理に連続して親指で弾こうとせずに、中指を介した方が弾きやすいです」

「わかりました、ありがとうございます」


 弾けているのだからそんな事でいちいち止めなくてもいいではないか。

 内心で毒突くが、先生も好意と仕事で教えてくれているわけだから文句を言うわけにもいかない。


 笑顔を浮かべながら内心で毒突く。

 そんな風に一日をずっと過ごした。

 今日だけではない。昨日も一昨日も、三日前も一週間前も一ヶ月前も一年前も。

 きっと一年先も、これからも。






「おはようございます、本日から海底都市学校生ですね。おめでとうございます」


 今日から私は学校に通う。

 実際のところ勉強は家庭教師に習っていて授業の範囲は既に理解しているのだが、義務教育な上に私は都市長の孫娘として人魚と見本となる存在にならなければならない。


「出発前に御主人様が書斎にてお待ちです」


 御主人様とはこの家の最高権力者であるお爺様、都市長ウミオー・セージのことだ。

 何だろう。入学記念になんかくれたりするのかな?

 私はお付きの人とお爺様の書斎へ向かい、扉をノックする。


「誰だね」

「ティーエスです」

「入りなさい」


 お爺様の許可を得たので書斎に入る。

 どうやら私と2人っきりでお話がしたいようで、人払いがされた。


「まずは海底都市学校への進学おめでとう、と言おうか」

「ありがとうございます、お爺様」

「それでだ、大人になったティーエスに一つ大事な話をしなければならない」

「はい、なんでしょうか」


 なんだろう、学校生活で生徒達の手本となるような存在になれとかかな。

 そんなこと言われなくてもいつも通りやるのに。

 私の予想はだいたい当たる。

 ただし今回、お爺様の口から出た言葉は私が予想だにしないものだった。


「学校へ進学したティーエスにしなければいけない大事な話。それはティーエスが宿している『歌姫の力』の話だ」



「『歌姫の力』……?」

「うむ、中央戦争はもう習っただろう?」

「ひいお婆様のミーシン様が中央戦争の時に人魚達を率いて戦った戦争ですよね?」

「私にとっては母上にあたる存在だ。母上が中央戦争の時に人魚を率いる際に使用した力、それこそが『歌姫の力』」

「はぁ……」


 そんな大層な力が自分に宿っていると言われ、困惑するティーエス。


「わからない、という顔をしているな。だが重要なことなのだ。ティーエスの体に宿る力はこの世に存在する力の中でもかなり高位のモノだ」

「そんな力があると感じたことすら一度もないのですが」


 自分はあくまで都市長の孫娘。それ以外は普通の少女と変わらない。

 それがティーエスの自己評価だった。

 故に自分に世界有数の力があると言われても困惑するだけである。


「何故そんなものが私に?」

「母上が息を引き取る際に私へ告げたのだ。母上が死ぬ時、母上の血が一番濃い女性にその力が乗り移る。もし条件に合う人物がいなければ、次に生まれる藍色の瞳を持つ少女がその力の継承者だ、と」


 ウミオーの目はいたって真剣だ。

 普段はティーエスに対して温厚な祖父だが、そんな祖父がティーエスに向かってこんな目線を向けるのは生まれて初めてかもしれない。


「……その力はどれほどのモノなのですか?」

「戦においては兵を鼓舞し、使い方次第でその音により敵陣を壊滅。一種の兵器だ」


 完全に危険人物である。


「その力を私はもう自由に使えてしまうのですか?」

「いや、まだティーエスは目覚めておらん。しかしなんらかの状況でティーエスの心が大いに乱れ、そこに強い刺激が加わった時、力が暴走する可能性がある」


 そこでウミオーは言葉を一度区切り、しばし間をおいてゆっくりと口を開く。


「だからティーエス、学園生活は思いっ切り楽しみなさい、迷いなさい。ただし、それに振り回されることがないように意識をしなさい。そうすればきっと力の暴走は防げる。心が強くなれば、力の制御も出来るようになるはずだ」


 そうしてウミオーの話は終わった。


 お爺様との話が終わり、私は車に乗り込んで海底都市学校へ向かう。

 初めて着る制服のスカートを握り締め、これからの学校生活を想像する。

 生まれてから家に出たことはほとんどない。

 友達だって一人もいない。

 だから不安極まりない。

 どうやって作るんだ。

 何が基準で友達なんだ。

 そもそも都市長の孫娘とかいう人と友達になりたいとか思うか?

 私なら怖くて近寄らない。

 私に取り入って出世しようという人は近付くのかもしれない。


 そんなネガティブなことを考えているうちに学校へ着いた。

 入学式に参加する為、先生の案内に従って体育館に向かう。

 私は更に都市長の娘なので、新入生代表挨拶というのもある。

 憂鬱でしかない。


「ティーエス・セージさんですよね? こちらへお並びください」


 私は一般生徒とは別の場所で待機するようだ。

 今日の為に考えてきた台本を見返して時間をつぶす。


「会場の皆様。これより第201回、海底都市入学式を開催します」


 会場のアナウンスが鳴り、騒いでいた生徒たちの声が一瞬で静まる。

 私も背筋を伸ばし、深呼吸をして緊張を緩めるように努めた。

 校長と理事長の話、生徒会長の話、在校生代表の話と来てついに私の番となる。


「では次に、新入生代表挨拶です。ティーエス・セージさん、お願いします」

「はい!」


 大声で返事をした後、壇上に向かう。

 学校のお偉い人たちや生徒代表たち、そして国旗に向かって礼をした後、マイクに目を向ける。

 そして私は気付いた。

 私を見る人、人、人。

 何百もの目が、私に目を向けている。

 台本? そんなもの忘れてしまった。

 無言の威圧、それが私を襲う。

 発狂しなかっただけマシだった。

 よく考えてみてほしい、私は今まで屋敷の中で家族や従者、そして家庭教師以外の人とは関わったことがないのだ。

 それなのにいきなりこんな大勢の人に注目されれば、パニックに陥る。


「あ……」


 私の第一声がそれだった。

 いつの間にか入学式が終わっていた気がする。

 私は自分が何を言ったのかもよく覚えていないまま、壇上を去った。


 失意のままに教室へ向かう。

 誰にも顔を見られたくない。

 都市長の娘として最悪な失態だ。

 階段の床の目を数えて歩く。

 気分は13階段を昇る死刑囚だ。

 周りの新入生の騒ぐ声が遠い。

 教室の前に着いた、木製の扉が何故だが鉄で出来ている気がする。

 私が教室入るのを拒むようにして立ちふさがっていた。


「どうした、入らねえの?」


 そんな私に後ろから声を掛ける人物がいた。

 私はその声で現実に引き戻されて声の主へ振り向く。

 そこには切れ長の目をした男の子がいた。


「あ……」


 新入生代表挨拶の時のようにまた言葉に詰まる。

 初対面の人とこんな距離で目が合うのは初めてなのだ。


「お、ひょっとして君さっき新入生の代表挨拶してた子?」


 その言葉に思わず拳を固めて震える。

 何を言われるのだろうか。

 罵声だろうか、皮肉だろうか。


「……そうだけど」

「あ、やっぱり! 滅茶苦茶可愛かったから一発で覚えたんだよ!」

「え?」


 帰ってきた返事は予想の斜め上。

 身構えていた私は思わず拍子抜けする。


「あんな大勢の前で喋るなんてお前スゲーぜ!」

「で、でも私……何言ってたか覚えてないの」

「ん? あぁ、確かに滅茶苦茶震えながら喋ってたな。今にも倒れそうだったから心配だったぞ」

「ひっ」


 やっぱりだ。

 私はとんでもない失態を犯していたらしい。

 もう都市長の娘失格だ。

 私は廊下の窓のロックを解除し、窓を開ける。


「ん? 窓なんか開けてどうしたんだ?」

「死のうと思うの」

「ちょおおおおおおおおお!?」


 その男の子は今にも飛び降りんとする私を必死で掴んで引き留める。


「離して! もう私は死ぬしかないの!」

「なんでそこまで思い詰めてんの!?」

「そんな失態を犯して、お爺様に向ける顔が無いわ!」 

「大丈夫だって! 男子は『なにあの子可愛い』って言ってたし、女子は『頑張ってー!』って応援してたから!」


 確かにほとんど真っ白になっている記憶だが、読み上げられている最中に誰かから応援された気がする。


「でも、私は……都市長の娘として……生徒たちの模範にならなきゃ……」

「入学一年目から完璧な生徒がどこにいんだよ! そういうのを学ぶ為にあるのが学校だろうが!」

「やっぱり死ぬしか……」

「一回やらかしたくらいで死のうとすんなバカヤロォオオオオオオ!」


 その男の子は窓から私を物凄い力で引き摺り下ろした。


「はぁ、はぁ……失敗しちまったと思ったら次頑張ればいいだろうが」

「つ、次っていつよ」

「どうせこの後クラスで自己紹介の時間があんだろ、そん時に緊張しないように頑張れよ。『都市長の娘』さん」


 そう言ってその男の子は教室に入っていく。

 呆然とした私も、しばらくして立ち上がって教室に入る。

 周りの生徒の注目を大分集めてしまった、さっきより恥ずかしいかもしれない。


 その後、教室に入っても私は一人で自分の席に座りポツンとしていた。

 先程は階段の床の目を数えていたが、今度は机の目を数え始める。

 我ながら情けないことに、周りへ話しかける勇気も湧かない。

 もう既に仲良しメンバーのようなものが出来上がり始め、連絡先の交換などを行う生徒もいる。

 今日から学校が始まったはずなのに、教室の皆はもう幼馴染のように笑顔で話していた。


「オイ」


 そんな私にまた話しかけてきた人がいる。

 さっきの男の子だ。


「また失敗してんじゃねーかお前」

「……話しかける勇気が出なくて」

「失敗を引き摺り過ぎでは。それをネタに出来るくらいの気概で行こうぜ」

「……貴方になにがわかんのよ」


 その男の子につい毒突いてしまった。

 違う、ホントはこんなこと言いたくないのに。

 ごめんなさい。

 そう謝ろうとした瞬間、目の前の男の子が爆笑し始めた。


「そうそう、そんくらい反抗的でいいだろ! 大人しそうな顔して結構言うのな!」

「なによ! 本当に気にしてるんだからね!」

「気にし過ぎて下ばっか見てると、周りのチャンス見逃すぜ?」

「え?」


 目の前の少年がそう言って私の周りをぐるりと指差す。

 それに従って周りを見ると、クラス中の皆が私を見ていた。

 再び押し寄せる緊張、訪れる沈黙。

 あぁ、また声が出なくなる。

 しかしその状況を切り裂くように、大きな声が響いた。


「おうおうおう! アレクばっか可愛い女の子に声かけてズリいぞ!」


 ガタイのいい男の子が私と少年の前に現れた。

 アレクと呼ばれた先程の少年が男の子に返す。


「はっはっは、羨ましいだろワイゼル」

「おう、よく見たらさっき新入生代表挨拶でアガってた可愛い子じゃねえか、こんなナンパ野郎より俺と話そうぜ」


 アレクとワイゼル。

 二人の名前はそう言うらしい。

 そしてワイゼルが私に話しかけてきた瞬間、私の周りの席に座っていた生徒たちが私に話しかけてきた。


「私が先にこの子と話すんだから、男子は引っ込んでなさい!」

「なにおう!? 女子こそ引っ込んでな!」

「こっちはずっと話したいと思ってたのよ! でもなんかすごい落ち込んでたし!」

「気持ちはすげえ分かる! 入学式の時から一回話してえと思ってたけどなんか近寄りづらくて!」


 世界は、突然変わる。


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