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女だけど女の子にモテ過ぎて死んだけど、まだ女の子を抱き足りないの!  作者: ガンホリ・ディルドー
第二章 人魚のティーエス
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ドン引きされたけど戦うけどぱぱりん♪だけど

「君は一体誰だね……?」


 天上院はティーエスを防衛隊員に預ける。

 突然現れ、助力をしてくれた人物にウッケンがその正体を問う。

 しかし天上院は何も答えず、ヒストリアの方に向き直る。


「ヒストリアと言ったな、何故このようなことをした」

「何故だと? 私は200年前の戦争以来光届かぬ海の底に」

「違う、何故その発想に至ったのかと聞いている」

「何故だと?」

「あぁ、ここまでの行動を起こしたなら明確な理由があるのだろう? それを教えてくれ。私はこの国で不自由をしたことがないから、君の苦痛がわからないんだ」


 天上院のその言葉にヒストリアはしばし沈黙した後、ゆっくりとその口を開く。


「海底学校の入学条件は知っているか?」

「入学条件?」

「あぁ、学費が無料で誰もが高等教育を受けられる海底学校だが、ただ一つ入学条件がある。海底都市内に住んでいることだ」

「……? それは当然じゃないか?」

「あぁその通りだ少年、だがこの海底都市内。というルールが曖昧でな。海底都市内の一部の地域はその区域として扱われていないのだよ」


 海底都市内であるにも関わらず海底都市内と扱われていない地域。

 そんな場所が存在するのだろうか。


「貴様らは分かっているよなぁ? 防衛局。そうだ、スラムだ」


 ヒストリアは親の仇を見るかのように防衛隊員達をにらみつける。


「200年前の戦争で出兵しなかった臆病者を隔離した区域。スラム区域は防衛隊員の管轄外でありその住民は海底学校の入学資格外なのさ」

「……だから都市長邸宅を襲撃したと?」

「いや? 今回のコレはそこまで重要じゃない、重要なのは」


 ヒストリアはそう言うと、指を鳴らす。


「ぎゃああああああああ!」


 その指の音に反応するように地面から巨大な触手が現れ、ティーエスを保護していた防衛隊員を襲う。


「マズイ!」

「油断したみたいだね、そう簡単に人質を逃がすわけないだろう?」


 地面から以前公園で倒した巨大ダコの優に3倍はあるタコが現れた。 

 頭部は蟹の甲羅で保護されており、うねる触手は波のように荒れ狂う。

 その触手にティーエスが捕まり、ヒストリアは触手によってその頭部に乗る。


「ドスケ=ベイ・キングと言ったか? 私の目的を教えてやろう」


 ヒストリアは天上院に振り返る。


「私の目的はな、嘗て200年前に人魚達を率いて戦った女王、ミーシン・セージ様。そのひ孫であり『歌姫』の素質を受け継ぐティーエス・セージ様を旗頭にして再び人間どもに戦いを挑み、第二次中央戦争を引き起こすことだ」


 そう言ったヒストリアは、その目に危険な色を孕んだ炎を揺らめかせていた。


「やれ、クラーケン」


 ヒストリアがクラーケンと呼ぶ巨大ダコに指示を出すと、巨大ダコは天上院達に向かって大量の墨を吐きかけてくる。


「〝ヨリソイ″!」


 天上院は咄嗟に真四十八手でそれを防ぐが、周りの防衛隊員達はそれを諸に浴びてしまった。

 墨は粘性なようで、体についた墨はなかなか落ちない。

 視界が塞がれ混乱する防衛隊員。


「落ち着け!」


 隊長のウッケンが墨まみれになりながら隊員を落ち受けようとしているが、なかなか混乱が収まらない。

 クラーケンは防衛隊員を蹴散らし、都市長邸宅に侵攻を開始する。


「させない!」


 天上院がヒストリアの行く手に両手を広げて立ちふさがる。

 クラーケンの上からそれを見下ろすヒストリア。


「邪魔だ、少年。そこを退け」

「悪いけど都市長さんには恩があるんでね」

「そうか、なら私の計画の礎になれ」


 ヒストリアがそう言うと、クラーケンはその巨木のような足を天上院に叩きつける。

 天上院はなんとかそれを躱すが、別の触手が再び天上院を襲う。


「ペニバーン!」


 激突する寸前にペニバーンを召喚し直撃を防ぐが、あまりの質量差に天上院は吹き飛ばされる。


「ぐっ……」

「下がっていろ、少年。これは君のような未来ある者が踏み入るべき問題じゃない」


 ここで天上院に一つ大問題が起こった。

 触手に吹き飛ばされた衝撃で被っていたスキャンティが破れたのだ。


「やっべ、一旦引くか!?」

「そうだ、家に帰って勉強でもしていろ。与えられた権利を大切にするがいい」

「でもここで引いたら折角のチャンスが無駄になっちゃうかもしれない……」

「無駄になどならんさ。むしろここで私と戦いその命を散らすほうが無駄というものだ」


 勿論天上院はアレックスの顔バレとタイムリミットを気にしている。

 そしてヒストリアはアレックスの命を心配している。


「でも、私は決めたんだ。一歩踏み込むって」

「踏み込んではならない問題だってあるぞ、少年」

「なにかを犠牲にしてでも、守らなくちゃいけないんだ!」

「犬死になったら何の意味もないだろう、愚か者が」


 勿論天上院が犠牲にしようとしているのはアレックスの名誉だ。


「私は男のプライドを賭して貴方を止める!」


 人のプライドを勝手に賭けちゃう天上院がペニバーンを構えると、天上院は光に包まれる。

 ペニバーンの世界に天上院はワープする。


--------



「あれ、こっちでは私の姿なんだ?」

「ここは精神の世界だからな。主の肉体に変化が起こってもここでは変わらん」

「そうなんだ。悪いけど時間がない、早速頼むよ」

「おう、いくぞ」


 ペニバーンと天上院は軽く手を繋ぎ、ゆっくりとその唇を近づける。

 一瞬だけ唇を軽く触れ合わせた後、再び重ね合わせる。

 それを何度も繰り返した後、二人の体が輝きだす。


「手短でごめんね。よろしく、ペニバーン」

「問題ない、いくぞ。主」

-----




「少年の姿が……まぁいい、まずは都市長邸宅の破壊だ」

「待ちなって」

「ん?」


 ヒストリアが声がした方向に振り向くと、そこには全裸で股間に二本のそそり立つ槍を掲げる男の姿があった。

 先程被っていたスキャンティはどこかに消え、真っすぐな瞳でヒストリアをにらみつける。


「少……年?」


 天上院のあまりの姿に一瞬言葉を失うヒストリア。

 無理もない、完全に不審者だ。


(アレク……ごめん)


 こうして一人の少年のプライドを犠牲に、変態戦士が召喚された。



「少年……その姿は」

「男のプライドに賭けて、僕は貴方を止める!」

「いや、言葉通りの意味とは恐れ入った」


 本気でドン引きするヒストリア。


「恐れ入ったついでに侵攻を止めてくれないかな?」

「すまないがそれは出来ない。嫌なら止めてみせることだな」

「言ったね? いくよ」


 そう言うと天上院は空高く舞い上がり、ヒストリアに向かってその二つの槍を向ける。

 アレックスの名誉のためにも言っておくが、彼の股間部に付いているのは本当に「槍」である。

 普段天上院がいつもの状態でペニバーンを装備しているように、アレックスは今股間に二つのペニバーンを装備している。


「二刀流の極意、とくとご覧あれ」

「阿呆か貴様は。それとも気狂いか」


 ヒストリアが軽く片手を上げると、クラーケンの触手が3本、天上院に襲い掛かる。


「数が多ければいいってわけではないよッ! 究極性技 真四十八手 其ノ二十六!」


 天上院は迫りくる三本の触手に向かって大きく手を広げ、その二つの槍を向ける。


「〝シシマイ″!」


 究極性技 真四十八手 其ノ二十六 〝シシマイ″

 荒ぶる想いを技へと昇華した究極性技。

 究極性技の中でも難易度が高く、使い手によって技のキレが格段に変わる。

 この技を使いこなしたその時、使用者は獅子奮迅の勢いを手に入れるだろう。


「うぉおおおおおおお!」


 天上院は二つの槍で迫りくる触手を吹き飛ばす、切り飛ばす、叩き潰す。

 その勢いのままにヒストリアへ突っ込む。


「何ッ!?」

「究極性技 真四十八手 其ノ十八!」


 天上院は連続して究極性技を発動する。


「〝ヒャクヘイ″!」


 究極性技 真四十八手 其ノ十八 〝ヒャクヘイ″

 それは閉じる。戦いの幕を。

 それは閉じる。その先に在る何かを開くために。

 『今』を閉じて『次』を開く。それが〝百閉″


「ぐああっ!」


 天上院の攻撃はヒストリアをクラーケンから吹き飛ばしただけでなく、そのままクラーケンへ襲い掛かる。

 一度や二度ではない。

 十、二十、三十。

 百の攻撃がクラーケンへと襲い掛かる。

 必死に抵抗しようと暴れるも、その触手もまた天上院の槍に跳ね飛ばされる。


「返してもらうよ」


 痛みのあまりクラーケンの触手から放り出されたティーエスを、天上院は空中で受け止め、そのまま地面に降り立つ。

 クラーケンは痛みで尚も暴れるが、やがて突然動きを止めたかと思うと、その体から体液が噴出し、絶叫と共にその姿が溶けて消えていく。


「一歩踏みだせずに後悔するくらいなら、踏み出して痛い目みたほうがいい」


 天上院はクラーケンから投げ出され、地面に落ちて動かないヒストリアを見て言う。


「君、大丈夫かね!」


 そんな天上院の下に、上等そうな服を着た長身で初老の人魚が走り寄ってくる。


「大丈夫ですよ、ご心配なく」

「そ、そうか……それは良かった。ありがと……う!?」


 その人物は走って疲れたのか肩で息をしながら天上院にお礼を言ったが、その顔が一瞬硬直した後、驚きに染まった。


「どうしました?」

「……何をしているんだ、アレックス」


 束の間の沈黙。

 一瞬思考停止しかけた天上院の脳裏に、ワイゼルの言葉が再生された。



『ダイン家……アレクの家は防衛局長でなぁ』


「Oh……マイダディー?」

「なんだその呼び方は。いつも通りに呼べ」


 いつも通りに呼べと言われても天上院にはアレックスが普段どのように父親を呼んでいるかがわからない。


「申し訳ありません、お父様」


 厳しい家庭と聞いたので、とりあえず天上院はそれっぽい呼び方で呼んでみることにした。


「はぁ? なんだその呼び方は。ふざけているのか?」

「これは失礼、冗談です。父上」

「違うだろうが!」

「じゃあもうわっかんねえよ!」

「ぱぱりん♪だろうが!」

「分かるかボケェエエエエエ!」


 予想の斜め下を行く呼び方にブチ切れる天上院。


「全ッ然厳しそうじゃないじゃねえかどうなってんだ!」

「アレクよ、何故あんな恐ろしい化け物に向かっていってしまったのだ。ここはぱぱりん♪に任せて、家でままりん♪と待っていなさい」

「自分で♪付けてんじゃねーぞクソ親父」

「あぁ、またそんな乱暴な言葉を使って……アレクの好きなパイパンマンアイスを買ってあげるから今日は早く帰るんだ」

「何そのやべえ名前したスーパーマン!? アレクそんなの好きなの!?」


 アレックスの家庭事情が不安になってきた天上院。

 しかし天上院はワイゼルが言った「アレクの家は厳しい」というのは、アレックスの家庭が過保護なのだ、と予測した。

 これは正直本来の「厳しい」よりも面倒かもしれない。


「くっ……」


 天上院がアレックスの父親と下らない問答をしている間に、ヒストリアが起き上がった。


「やっべ、とりあえずヒストリアを何とかしなきゃ! ぱぱりん♪!」

「おう、ぱぱりん♪に任せろ!」


 そう言ってアレックスの父親は防衛隊員に指示を出し、ヒストリアを拘束する。


「……捕らえられたか、まぁいい」


 四方を固められながら、ヒストリアは防衛隊員に運ばれる。


「おい、少年」


 ヒストリアはその途中、天上院に顔を向けて話しかける。


「なんだ」

「外交窓口に来い」


 今から捕まる者による呼び出しだ。

 理解に戸惑う天上院。


「貴方は捕まってるでしょ?」

「一つ聞くが、わざわざ行く先を目立つ所で宣言して攻め込む襲撃者がいると思うか?」

「……どういうこと?」

「こういうことだ」


 そういうとヒストリアの体は突然巨大ダコのように溶けだす。


「局長! 保護していた都市長の娘の体が突然溶けて消えました!」

「なんだって!?」

「もう一度言うぞ少年。外交窓口に来い」


 胸まで溶けて顔だけになったヒストリアが、天上院を見上げながら言う。


「そこで本当の私がお相手しよう」


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