入れ替わってるけど頭おかしくないけど頭おかしいけど
「え……」
違和感が凄い。
特に下腹部。
なんかパンティー……いや、パンツに当たってるんすよね体の一点が。
間違いなくアレだろコレ、アレックスのペニバーンだろ。
あのよくわかんない人なんで男の体にしてるんだわけわからんぞ。
普通女だろ私女なんだから。
というかスキル使えんの?
「ロウター!」
天上院がそう言うと、魔法陣と共にロウターが現れる。
男子トイレに降り立つペガサス。
「……もう少し召喚の場所を考えてはくれんか、主」
「ご、ごめんテンパってた……というかロウター、私がわかるの?」
「姿は全く別だが、身武一体は魂を繋げて行う技だ。その程度見破れるはずが無かろう」
「正直助かるよ……これでロウターが召喚できなかったらどうしようかと思ってた」
「スキルとは魂に刻まれるモノだ。肉体がどうなろうとそれは変わらぬ、それよりも主はどうして男になっているのだ?」
「そ、それが……」
天上院はロウターに事のあらましを全て説明した。
「ふむ……よくわからんな。だがその人物によればタイムリミットはあと24時間なのだろう? ならば時間を無駄にしている暇はない、さっさと行動すべきだ」
「そうだね、ありがとうロウター。とりあえず呼び出して悪いけど一旦戻ってくれるかな?」
「うむ、また何かあったらいつでも呼んでくれ」
そう言ってロウターは再び魔法陣と共に消えた。
天上院はトイレのドアをそっと開ける。
そこは海底都市学校の離れにあるトイレだった。
うわ、なんかいつもと感覚違って歩きづらい。
なんで男は股間にこんなもんぶら下げてんだ、普段はしまっとけよ。
「ん、もう学校終わってる時間だよね? なんでこんなに生徒がいるんだ?」
本来とっくにHRが終わって解散になっているはずの学校。
一部の部活動で生徒が残っていることはあるが、その人数があまりにも多い。
加えて明らかに学生でない大人の人魚もいる。
「とりあえず人の流れがある方に行ってみるか……」
「アレックス君! 何しているんですか!」
「うーん、体育館の方かな?」
「アレックス君!?」
「いや、今すぐティーエスを助けに行くのが正解か」
「ほう、この超非常時に先生を無視とは……ちょっと来なさい」
「よし、やっぱり今すぐ都市長の家ェエエエエエエエ!」
天上院はそのまま先生に襟首を引っ張られ、体育館に引き摺られる。
「この非常時になにをしてるんですか! 体育館で保護者の方が来るまで大人しくしてなさい!」
「すみません……」
「貴方たちの身の安全を私達は確保しないといけないんです! お願いですから体育館を離れないで下さい!」
「はい……」
外に行けなくなってしまった、どうしよう。
そんな天上院に、ワイゼルとリースが声を掛ける。
「おう、アレク。やっぱ無断外出はまずかったか」
「おかえり、アレク」
「あ、あぁ。ただいま、二人とも」
「あーあ、しっかしティーのヤツ本当に大丈夫かねぇ……」
「信じて待つしかないわよ、ワイ」
アレックスの姿をした天上院の帰りを、素直に歓迎する二人。
正直今の姿で二人に会うのは不安だった天上院だが、いつも通りの彼らを見て安心した。
だが今は安心してる場合じゃない。
こうしている間にもティーエスが危ない。
「あ、あの……二人とも」
「ん? なんだよ」
「なに?」
「驚かないで聞いてね、私。ヤコなんだ」
しばしその場で流れる沈黙。
「「は?」」
天上院は二人に変なものを見る目で見られた。
「アレク、非常事態でパニックになっちまうのはわかるが落ち着け」
「違うよ! 姿はアレクだけど中身はヤコ・テンジョウインなんだ!」
「さっきトイレに行った間に頭を打ったのかもしれないわ、ワイ」
「あぁ、そうだな。保健室に連れてくか」
「信じてくださいマジで頭おかしくないです」
ワイゼル達に先程ロウターへ話した内容をそのまま説明する天上院。
ティーエスがテロリストに捕まっていること。
人間の天上院はこの件に関わるなと防衛隊のウッケンに言われたこと。
突然現れた謎の人物にアレックスと入れ替わりさせられたこと。
その全てを細かく話した。
「以上が事のあらましだよ。わかってくれたかい?」
「「そうか、やっぱり保健室に」」
「なんでさ!」
「冗談だ、そこまでティーエスの現状を細かくアレクの野郎が話せるとは思えねぇ」
「そうね、テロリストに捕まっているなんて……」
「だから私は今すぐここを離れてティーエスを助けに行きたい、協力してくれないかな」
そう言って天上院はワイゼル達の目を見る。
「助けられるのか?」
「絶対に助けてみせるさ」
「そうか、だが俺はメールで言った通り……あぁ、すまん。今のお前はアレクじゃなくてヤコだし知らねえか」
「なんのことだい?」
「いや、なんでもねえよ。それよりも、だ。俺はヤコみたいに力があるわけじゃねえ。この前の事件でそれを痛感した。俺に出来ることなんてタカがしれてるぞ」
「私もよ、力仕事なら尚更無理」
「わかってる、二人に協力してほしいのは私が学校を脱出することに関してだよ」
天上院ことアレックスは非常事態に勝手に出歩いたことで先生からの監視が非常に厳しくなっている。
なので体育館から脱出する際に協力して欲しいというのと、アレックスの保護者がアレックスを迎えに来た時対応して欲しいという二点だ。
「うーん、一つ目の先生から撒くってーのはラクショーだと思うが、二つ目の保護者対応は難しいかもしれねえな」
「そうね、アレクの家って保護者厳しいし……」
「そうなの?」
「あぁ、ダイン家……アレクの家は防衛局長でなぁ、保護者が厳しいんだよ」
「うわぁ……」
防衛局長がアレクの親なら、今頃間違いなく都市長邸宅に向かったテロリストの対策を行っているだろう。
この状態で現れれば絶対にバレる気がする。
「……アレクには犠牲になってもらおうか」
「……それしかないだろうな」
「アレク、ドンマイ」
ティーエスを救うためだ、仕方ない。アレクは親御さんに怒られてもらおう。
「じゃあ、行ってくるよ」
「あぁ、ヤコ。一つだけ言っておく」
「なんだい?」
「それはアレクの体だ、気を付けてやってくれよ」
「勿論さ」
人の体を借りて大怪我をしては申し訳が立たない。
細心の注意を払うつもりだ。
「あぁ、後これやる」
「ん?」
そう言ってワイゼルは天上院にお金を渡してきた。
「これでなんか羽織るものを買え、多少アレクだとバレにくくなるはずだ」
「あぁ、大丈夫だよ。自分で出すさ」
「いや、俺にはこれくらいしか出来ねえ。受け取ってくれ」
「なら私も出すわ」
そう言ってリースもお金を渡してきた。
二人のお金を合わせればそこそこいいモノが買えるだろう。
「二人とも……」
「ティーエスを頼む」
「頑張ってね」
そう言って二人は先程天上院を注意した先生の方へ向かった。
話しかけて気をそらしている間に行けと言うことだろう。
「ありがとう、絶対に助けるよ」
天上院は体育館を出て、都市長邸宅に走る。
テロリスト、ヒストリア・ストレイン。
例えどんな崇高な目的を持っていようと、愛する美少女を傷付ける輩は天上院にとって敵である。
「ロウター! ペニバーン!」
無事体育館の外に脱出した天上院はロウターを呼び出した。
「どうした」
「すぐにショッピングモールの方へ向かってくれ!」
「承知した、乗れ!」
天上院はロウターの背にまたがり、ティーエスたちとカラオケやボーリングをして遊んだアミューズメントパークのあるショッピングモールを目指した。
辿り着いたショッピングモールには人がほとんどいない。
みんなテロのせいで避難しているのだろう。
どの店もシャッターを下ろして閉め切っている。
「ここで何をする気だ? 主」
「ちょっと身を隠せるものが欲しくてね」
店じまいの支度をしている服屋に天上院は目を付けて走る。
中年女性の人魚が品物を奥にしまい込んでいる。
「すみませーん! フード付きの服と女性用のスキャンティを一枚売ってくれませんか!」
「何言ってんだいあんた!?」
「早急に必要なんです!」
「あんた男だろ!? なんでスキャンティがいるんだい!?」
「スキャンティが無いと後で(アレックスが)親に怒られるんです!」
「女性用下着を持ってないと息子を叱る親って何だい!?」
「いいから早く! お金なら出しますから!」
不信そうな顔をする中年女性の服屋からフード付きの服とスキャンティを購入し、天上院は再びロウターの元へ走る。
「ロウター、ティーの家へ!」
「あいわかった!」
空を飛んで移動しながら天上院は購入したフードを着込み、スキャンティを被る。
都市長邸宅はすぐに見えてきた。
巨大ガニの姿と、それに応戦する防衛隊。
「もうすぐ着くぞ、主!」
「巨大ガニに向かって突っ込んで!」
ロウターは更に天高く飛び上がると、ヒストリアが操る巨大ガニに向かって勢いよく突っ込んでいった。
凄まじい風が天上院に吹き付ける。
そしてロウターは巨大ガニの甲羅にその勢いのままぶつかり、その甲殻を砕いた。
「なんだ!?」
突然自らが乗っていた魔獣に突っ込んできた物体に驚くヒストリア。
巨大ガニは自らの体が損傷したことで大いに暴れ、やがてその動きを止めた。
そしてカニの割れた甲殻から気絶した少女を抱きかかえて、一人の人物が現れる。
「な、なんだあいつ……!」
ヒストリアは自らが操っていた巨大ガニを屠った謎の人物に動揺する。
その人物は被っていたフードを脱ぐ。
するとそこには女性用の下着を被った変態が現れた。
「マジでなんだあいつ!?」
「聞け! 僕は世界の果てにある岬、ドスケ=ベイからやって来た海の王者」
天上院はティーエスを抱きかかえたまま巨大カニから飛び降り、ヒストリアを飛び越えて防衛隊の前に降り立つ。
「ドスケ=ベイ・キング3世だ!」
そして相変わらずのネーミングセンスである。




