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女だけど女の子にモテ過ぎて死んだけど、まだ女の子を抱き足りないの!  作者: ガンホリ・ディルドー
第二章 人魚のティーエス
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変な人だけど入れ替わったけどびっくりしたけど

 全ての授業が終了し、HRを待つだけになった学校では、ワイゼル達が集まってティーエスのことを話し合っていた。


「ティーのヤツ大丈夫なのか?」

「ヤコちゃんが探してくれてるし、どうにかなると信じたいけど……」

「とりあえずヤコに電話するか?」

「いや、探してる最中だ、邪魔になっちまうかもしれない」


 かといって彼らにすることは何もない。

 所詮学生に過ぎないのだ。

 海底都市の防衛局のような武力や操作能力を持ているわけでない。

 ティーエスの友達にしか過ぎないのだ。

 本職には勝てない。


「俺らに出来ることはなんかねえのかよ……」


 ワイゼルが悔し気にポツリと呟く。

 その時、海底都市中に声が響いた。


『光届かぬ海底都市に住まう人魚達に告ぐ』


 ヒストリアの演説だ。

 ざわつく教室。


『我々人魚は200年前より傲慢なる人間達からこの海の底へ閉じ込められ続けてきた』


 その声は学校中に響き渡る。


『輝く光を奪われた我々は統一学校による教育という洗脳によりいつしかその牙を失い、支配する者に対して何の疑問も抱かなくなった』


 生徒たちはその言葉を聞き、ざわめきが増す。

 学校の教育は洗脳なのかと。

 自分たちが受けている教えは正しいものなのかと。


『しかし! この私ヒストリア・ストレインが今日この時を持って人魚達の権利を! 享受すべき幸福を! そして光を取り戻す『緊急放送、緊急放送。都市転覆を狙ったテロが発生、生徒は直ちに席に着き、担任の先生に従って行動して下さい』


 ストレインの演説にかぶせるように、大音量で学内に緊急放送が流れる。


「皆、席に着いて!」


 ワイゼル達のクラス担任である歴史の先生が教室に駆け込み、生徒たちに座るようにする。

 怒りに満ちたその表情に、生徒たちは思わず息をのんで指示に従う。


「放送通りです、海底都市でテロが発生しました」


 先生は生徒全員を見渡し、真剣な表情で言う。


「緊急の教員会議で、保護者の方に直接学校へ迎えに来ていただくことになりました。これから体育館へ避難します」


 その言葉にざわめく教室内。

 深刻な事態に動揺を隠せない生徒達。


「静かに!」


 しかし先生が一喝すると、また水を打ったように静かになる。


「不安になるのは分かります、それも身体的な不安だけではないでしょう。テロリストの言葉を聞いて、我々に不信感を持っている人達もいるはずです」


 先生は拳を握り締め、震えた声で言う。


「でも、どうか信じてほしい。私達教師は貴方たちを……」


 先生の目からは一筋の涙が流れる。


「裏切りません……」


 間もなく避難案内の指示が出される。

 生徒たちは何も言わず、厳かに体育館へ避難した。



--------



 防衛局に向かって天上院は海底都市を歩く。

 朝はティーエスの悩みであろうと何であろうと、これからは例えお節介と思われようが積極的に介入してやる。

 と息巻いていたのだ。

 しかし今防衛隊長のウッケンに「人間であるテンジョウイン殿は関わるな」

 と言われて若干落ち込んでいた。

 自分は何か思い上がってたんじゃないかと。

 たまたま夢を見て一時的にテンションが上がり、全能感に浸っていたんじゃないかと。

 バンドのことだってそうだ。

 もし自分が無闇に介入して皆の仲を余計に悪くしたらどうするつもりだったのかと。

 フィストの時だってそうだ。

 自分はフィストを裁断者、アイディールから守ったつもりでいたけど、それは彼女のプライドを傷付けてしまった。


「あー、ファックファック」


 ネガティブ思考になっている自分に気が付いた。

 フィストの件に関してはあの時行動しなければ彼女の身も危なかったわけだし、そこを後悔するのはありえない。

 こんなふうにマイナス思考をしてしまうときは下品な言葉を言ってテンションをリセットするに限る。


「あー、でもなー。どうしようもないよなぁ」


 道端の小石を蹴飛ばしながらボヤく。

 独り言が止まらない。


「いっそ人魚にでもなれたらいいのに」

「人間クン。なにやらお困りのようだネ」


 そんな時、突然後ろから誰かに話しかけられた。

 天上院が驚いて振り向くと、そこにはスポーツキャップを目元まで被り、ヘソ出しの服に青いジーパンというラフな格好の人物がいた。


「……誰?」

「ボクが誰か? そんな質問はナンセンスだよ。君も言っていたじゃない、自分はひょっとしたら自分じゃないかもしれないって。ボクは今キミの目の前にいる存在。それでいい」


 突然現れた人物と目が合う。

 その人物は黒い髪に透き通るような黄金の瞳をしていた。

 天上院は警戒する。

 その存在の怪しさにではない。


(……なんでこの人に対して美少女感知センサーが反応しないの?)


 そう、目の前の人物は明らかに見目麗しい。

 なのに何故か反応しないセンサー。

 つまりこの人物は


「貴方男なの?」

「……? アハハハッ!」


 目の前の人物は天上院の言葉に対して一瞬疑問の表情を浮かべた後、腹を抱えて大笑いする。


「面白いねキミ、まずソコなんだ! まぁ美少女感知センサーなんてスキル取るくらいだもんネ!」

「美少女感知センサーを知ってるの?」

「うん、知ってるよ。でもそんなことより優先すべきことがあるでしょ? ボクはキミのソノ質問に対して答える気はないしネ」

「……私に手助けしてくれるの?」

「そうそう、その質問。一秒一秒が勿体無いハードワークなボクにとって、キミみたいな理解のある人が相手だと助かるよ」


 そんなに時間が勿体無いなら思わせぶりなことをしないでさっさと用件を切り出せばいいと言いかけたのだが、天上院はその言葉を飲み込む。


「さて、結論から言うと、助けてあげるよ。人魚になりたいんでしょ?」

「……えぇ」

「うん、じゃあ人魚にしてあげるよ」

「本当?」

「ただし24時間だけっていうのと、ボクが決めた姿っていう条件付きだけど」


 24時間。

 タイムリミットは少ない。

 自分はその時間内にヒストリアからティーエスを救うことが出来るのだろうか。

 どちらにせよ選択肢はない。

 ティーエスを救うには、人間である自分では無理なのだ。


「……わかった、お願いするわ」

「うん、決断が早くて助かるよ。じゃあ早速やるネ」


 そう言って目の前の人物は両手で、天上院の頭を包むようにして触れる。


「目を閉じてボクの右手に集中して」


 指示通り目を閉じてその人物の掌に集中する天上院。


「流動せよ、流れ込め、我が掌に集まれ」


 その人物の右手から天上院の意識が流れ、どこかに流れ込む。

 そして左手からは何か異なるモノが天上院の体に流れ込んでいる気がする。

 やがてその流れが止まった。


「終わったよ、目を開けてごらん」


 天上院が目を開くと、そこはトイレの個室だった。


「ふふっ、24時間後にまた会おうネ。アレックス(・・・・・)


 その人物は個室のドアを開けて外に出る。

 驚いた天上院が個室を飛び出すと、もうその人物はいなかった。

 どこかの男子トイレのようだった。

 手洗い場の鏡に気付いた天上院は、そこに映った自分の姿を見る。

 

 そこには呆然とするアレックスの姿があった。

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