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女だけど女の子にモテ過ぎて死んだけど、まだ女の子を抱き足りないの!  作者: ガンホリ・ディルドー
第二章 人魚のティーエス
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天上院弥子の地球浪漫 ~ドイツ編、その1~

「なにこれ、希望制ドイツホームステイ留学?」

「毎年椿ノ宮が一年生を対象に行っている2週間の短期留学です」


 教員に配られたプリントを見て、呟く天上院。

 そこには今年の夏休みの間、希望した学生を椿ノ宮が無料でドイツに短期留学をさせてくれるという内容だった。


「海外留学無料なの? すごくない?」

「この学校その分貰ってる寄付金の額とかものすごいですし、ドイツには旅行で何回か行ったし英語も十分出来ますから夏休み潰して行きたくないって人が毎年多いんですよね」


 天上院の言葉に補足をしている彼女は清宮姫子。

 後に嫉妬に狂い天上院を刺し殺す張本人なのだが、この時はまだ純粋に天上院の女友達だった。


「へぇ、私行ってみよかな」

「天上院様が参加されるのでしたらファンの女の子で参加人数が凄いことになりそうですね……応募されるのなら黙ってやったほうがいいと思いますよ。一応成績による審査はありますが、天上院様なら全く問題ないでしょう」

「姫ちゃんは参加しないの?」

「私は遠慮させていただきます。天上院様が参加されるのなら付いていきたいとは思いますが、生憎実家の方で夏休みのこの時期には予定がありまして」

「おー、そっか。頑張ってね」

「天上院様もお疲れの出ませんようお祈りします」


 後日、天上院は教員にドイツ留学に参加することを話し、審査も無事通過した。

 詳しい内容が記された資料も渡されたので、家で読んでおく。


「ヤコが今度行く留学の資料? 私にも見せてよ」

「あ、母さん」


 読んでいると話しかけてきた人物がいた。

 天上院弥子の母親こと、天上院陽彩(ひさえ)だ。


「厳しい家族だったらどうしようかなぁ、ドイツ人って綺麗好きなイメージあるし」

「あんたはそこまで散らかすってタイプじゃないし大丈夫よ。中学の時もアメリカ留学したじゃない」

「ドイツってソーセージとビールのイメージしかないんだけど」

「英語は大丈夫なの?」

「あ、その辺はちゃんと使える家庭が選ばれてるみたい。英語が母国語じゃない人達との英語による交流がこの留学のテーマらしいし」

「へー、ドイツの人に笑われないよう英語頑張んなさいよ」

「勿論、失礼のないようにするさ」


 数週間後、遂に留学する日となった。


「まもなくミュンヘン空港に着陸します。着陸の際は機内が揺れますのでご注意下さい」


(留学二回目だけど普通に緊張するなこれ)


 前回とは行く国も違う。

 しかも事前にドイツについては調べはしたが、実際の生活についてはイマイチよくわからないのだ。

 精々どんな観光名所があるかくらいしかわからない。


(可愛い女の子がホームステイ先にいるのを期待しよう)


 緊張を紛らわせるためにアホなことを考えている天上院を乗せ、飛行機はドイツに着陸した。



 空港に到着した天上院。

 今回は椿ノ宮が主催で行っている留学プランのため、空港到着後に生徒が集められた。


「これから皆さんを各ご家庭に送迎しますので、指定された車に乗ってください」


 プライバシーガラスが施された車に、屈強な体つきをした日本人の運転手がそれぞれ乗っていた。

 椿ノ宮は大金持ちのご令嬢方の学校である。

 だから誘拐などのセキュリティ対策は万全に行わねばらならず、従ってこのような過剰とも言えるほどの安全対策がされている。


「天上院弥子さんはこちらの車でお願いします」

「あ、はい」


 案内されるままに天上院が車に乗ると、運転手に確認が取られた後に発車する。

 ドイツの町並みは事前に調べた情報によればレンガ造りの建物が多いというイメージだったが、ところどころ景観を壊さぬように調和を意識した近代的な建物も見受けられる。


「天上院様のホームステイ先であるヴェーバー家到着までもう間もなくです」

「あ、はい。わかりました」


 どうやら天上院のホームステイ先の家はヴェーバー家というらしい。

 運転手の言葉通りしばらくして車は止まり、大きなレンガ造りの家の前に辿り着いた。

 運転手は車から降りて後部座席のドアを開けて天上院を降ろした後、天上院の前を歩いてヴェーバー家のインターフォンを鳴らす。


 運転手がインターフォンに向かって天上院を連れてきた旨を伝えてからしばらくすると、中から綺麗な女性が出てきた。

 その女性と運転手がドイツ語で言葉を交わす。


「天上院様、この方がヴェーバー家の奥方であるヴェーバー・ハンナ様です。後は天上院様のご健闘を祈ります。次にお会いするのは二週間後となりますので、ではこれにて私は失礼します」


 そう言って運転手は二人に礼をした後、車でヴェーバー家を去った。

 残された天上院は、ハンナの前でどう声をかけるべきかタイミングを失い戸惑っていた。

 以下いつも通り実際は英語だが日本語で描写させていただく。


「こんにちは、今日から二週間お世話になる天上院弥子です!」

「こんにちは、ヴェーバー・ハンナよ。夫と娘が心待ちにしているわ。いらっしゃい」


 よっしゃ! 娘さんがいる家だ!

 密かにガッツポーズをする天上院。

 ハンナに連れられて家に入ると、ヴェーバー家の屋敷の中はとても清潔感のある家だった。

 家具の位置から床に敷いてある絨毯までキッチリ揃えられており、チリ一つとして見当たらない。

 リビングには一人の男性と一人の少女が立っていた。


「ヤコちゃん、紹介するわ。うちの旦那のレオンと娘のエミリアよ」


 ハンナの夫であるレオンはブラウンの髪をキッチリとまとめ、とても若々しい印象を受ける。

 娘のエミリアは、ブラウンのショートヘアーに少し吊り上がった目で、眼鏡をしていた。


「ヤコちゃんだね、よろしく」

「ヤコって言うのね? 私はエミリアよ。日本から来たんでしょ? あとでお話聞かせてね」


 男前に微笑むレオンと、少しキツイ目元とは裏腹に優しい笑顔を見せるエミリア。


「眼鏡っ子か、悪くない」


 天上院のエミリアに対する第一印象はそれだった。



 天上院はエミリアと関係を深めるため、彼女の部屋で日本とドイツの話をすることにした。

 エミリアの部屋は機能的で、ぬいぐるみといった類の女の子らしいものは特になく、ベッド、机、クローゼットといった生活に必要な最低限の家具に加えて家族や友達と撮った写真が飾ってある。


「日本って今夏休みなの?」

「うん、夏休みを利用してドイツに来たよ」

「ドイツもあと1週間くらいで夏休みなの。ヤコは2週間ドイツにいるんだよね?」

「そうだね、後半の1週間はエミリアと遊べるの?」

「えぇ、ドイツを案内してあげる!」


 フレンドリーなエミリアのおかげで、天上院はすぐに打ち解けることが出来た。

 ドイツ人は結構氷のように冷静で冷たいというイメージを持っていたが、そのイメージはすぐに溶けた。

 二人がお互いの国の話で盛り上がっていると、ハンナが二人を夕食の時間だと呼ぶ声がした。

 天上院がリビングに降りると、そこには大量のソーセージとザワークラフト、プレッツェルがテーブルの上に置いてあった。


「ドイツはソーセージよ、いっぱい食べてね」

「こんなにいっぱいどうやって茹でたんですか?」

「ウチには地下室があるから、そこの鍋で一気に茹でて持ってきたのよ」

「へぇ、そうなんですか」


 ハンナが天上院の分を皿に盛って渡してくれたので、お礼を言って天上院はそれを受け取る。


「ヤコ、炭酸飲料は大丈夫?」

「大丈夫だよ、なにそれ?」

「Apfelschorleよ」

「あぷふぇるしょーれ?」


 エミリアはグラスに何か炭酸飲料を注いで渡してくれた。

 甘くていい香りがする。


「リンゴの炭酸飲料よ」

「へぇ、美味しそうだね」

「ドイツビールを飲ませてあげたかったんだけどねぇ」

「こっちの国では何歳から飲酒出来るんですか?」

「16歳だよ、ドイツならヤコちゃんもエミリアも飲める。でも日本じゃ確か20歳からだろう?」

「はい。本場のドイツビールが飲めなくて残念です」

「あはは、ヤコちゃんが大人になったらまたドイツに来なさい。その時に飲ませてあげよう」


 そう言ってレオンさんは笑う。

 ドイツは16歳からビールは飲めるし大丈夫と言ってお酒を勧めてくるタイプの人じゃないのはとてもいい人だと思う。

 エミリアも気を使ってくれたのか、アプフェルショーレを彼女は飲むようだ。


「私のことは気にせずビールを飲んでくれてもよかったのに」

「ふふっ、ヤコがまたドイツに来てくれた時のお楽しみにしとくわ」


 ドイツ人は真面目である。

 だけど、とても優しいしジョークも上手い。

 ソーセージを齧りながら笑顔で楽しんだヴェーバー家の食卓は、和やかな時を天上院に感じさせた。




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