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女だけど女の子にモテ過ぎて死んだけど、まだ女の子を抱き足りないの!  作者: ガンホリ・ディルドー
第二章 人魚のティーエス
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学校だけど空気重いけど温かいけど

「へぇ、大きいねぇ」

「当然よ。海底都市中の人魚が通うもの」


 翌朝、車で送迎されたティーの通う学校は、私の前世に通っていた椿ノ宮と比べても随分と広い学校だった。

 椿ノ宮はお嬢様学校なので普通の高校と比べたら敷地面積は大分広いのだが、その椿ノ宮と比較しても、広い学校だった。

 海底都市中の人魚が通う高校なら、確かにとても広いのは当たり前なのかもしれない。


「もうすぐ一時間目が始まっちゃう、行くわよ。ヤコちゃん」

「私とティーは同じクラスなの?」

「えぇ、私は貴女の監視役だもん。学校にいる間は一緒にいることになるわよ」


 それはとてもうれしい誤算だ。

 学園生活でティーとの愛を育もう。

 ティーに案内された教室に入ると、クラス中の好奇の目線に晒される。

 私以外は全員人魚だ。

 人間である私が珍しいのだろう。


「ヤコちゃんの席はここよ」


 クラスのそんな視線をあえて無視するようにティーは私を席に案内する。

 その席に座ると、丁度教師の先生が入ってきて、授業が始まった。



「じゃあここをテンジョウインさん、読み上げてもらえる?」

「はい。今からおよそ200年前、この世界は5つの勢力に分かれて戦っていました、一つは人魚、二つ目は人間、三つ目は魔族、4つ目は獣人、そして5つ目は人口生命体でした。この戦いを『中央戦争』と言います」


 今、私は人魚達の学校で混合世界の歴史について学んでいる。

 せっかくだし、皆にも私が学んだこの世界の歴史を解説しよう。


 この世界は今からおよそ200年前まで、5つの勢力に分かれて戦っていた。

 内訳は私が読み上げたとおりだ。

 人間は魔術や機械を駆使して人魚達に対抗し、人魚達や他の種族も総力を尽くして戦った。

 何故か、教科書には当時、中央大陸の中心、つまり現在の中央王都に君臨するものが世界を統べる王になるという言い伝えがあり、全員がそれを目指したからだと書いてあった。


「その時我々人魚の代表、そして英雄として戦ってくださったのが、この海底都市の都市長であるウミオー様の母上であらせられるミーシン・セージ様です」


 先生が私の後に続いて補足をする。

 ここからはまだティーとの予習では習ってない。

 ほうほう、ウミオーさんのお母さんがその時人魚の代表として戦ったのか。


「そしてミーシン様やその他種族の代表は中央大陸には人間が住み、他の種族は各々の地域で住むようにとの協定を決め、今こうして我々はここに住んでいるのです」


 おぉ、相当ざっくりだな。

 なんか大事なところの説明が飛んでる気がする。

 案の定生徒からも質問が飛ぶ。


「先生、我々人魚は、人間達に負けたのですか?」


 ま、そういう質問になるだろうね。

 戦争目的が中央大陸の中心を目指すことなら、中央王都に現在住んでいる人間たちに、海底都市に住んでいる人魚は負けたのか、っていう論法になるのは当然だろう。


「先生にも、戦争の結果はよくわからないのです」


 なんと、先生にもわからないのか。


「ただ、当時の部族の代表たちが話し合い、そう決めた。と教科書には書いてあります。私も学生だった時に気になって大学の時に調べたのですが、200年前の戦争。『中央戦争』に関する文章だけは一切みつかりませんでした」


 ほう、それはそれは……。


「人間に負けたから、人魚達の敗北感を誘う情報は削除したってことかよ……」


 誰かがボソッと呟いた。

 人間である私は、その場で居心地の悪い思いをしたのだった。



「先生」


 その時、一人の生徒が手を挙げた。

 私の隣に座っている生徒、ティーだ。


「先生の説明によると、私は人間達に我々が負けたので都合の悪い情報を削除したというように聞こえたのですが、その見解で間違いないですか?」


 彼女はそれを言葉にした。

 生徒たちが思ったことを、彼女は曖昧な表現で包むことなく、ストレートに代弁したのだ。


「いえ、その認識は違います」


 そして先生は、それを真っ向から否定した。


「先程私は大学の頃『中央戦争』に関して調べた。と言いましたね? それはこの海底都市にある資料だけではありません。中央王都にある大学にも直接私自身がこの足で向かい、調べたのです」


 私はその発言に対して手を挙げて発言する。


「話の腰を折ってすみません。人魚が海底都市以外人出ることはあるのですか?」


 人間である私はこの海底都市に入国するのに凄い苦労をした。

 それなのに先生はどうやって海底都市から中央王都へ行ったのだろう?


「あぁ、いい質問ですね。海底都市では年に複数人、都市長が決めた人物が中央王都の王族との協力により、海底都市以外の世界を学ぶための学問生として派遣されるのです」


 へぇ。国交はしていないけど、学者とかは外に出るんだ。


「私はその学問生として世界の歴史を正しく学び、この学校で皆さんに教える為に派遣されました。その時に『中央戦争』についても調べたのです」


 なるほど。

 どうやらこの先生結構凄い人のようだ。


「私も中央王都に行くまでは、皆さんと同じように、我々人魚は人間達に負けたのだと思っていました。しかし」


 そこで一旦先生は言葉を区切る。


「中央王都の大学にも、『中央戦争』に関する資料は一切存在しなかったのです」


 なんとも気味の悪い話だ。

 世界中が争ったと思われる『中央戦争』

 しかしその戦勝国だと思われる人間達が住まう中央王都ですら、それに関する資料はないと言う。


「唯一あった文章は、教科書に書いてある内容と同じ。ミーシン様やその他種族の代表は人間と協定を交わし、各々の地域で現在住んでいる。とだけです」


 中央王都に現在住む人間が『中央戦争』の勝利者ならば、その情報を隠す必要は一切ない。

 よく考えれば、海底都市だって『全くない』というのは変な話だ。


「だから私は、我々がこうして海底都市に住んでいるのは、それこそ海の底のように何か深い理由があるのだと思っています」


 そうして人魚の先生は、その真っ黒な瞳を私に向け、ニッコリと微笑む。


「それに、結果が如何なるものであったとして、我々が人間に敵意を向ける理由にはなりえません」


 人魚達は静かに先生の言葉を聞いている。


「教科書に書いてあることが真実であれば、我々人魚も欲望に走り、『中央戦争』に参加したのです。突如侵略されたのならばともかく、負けた我々が勝者である彼らを恨むのは筋違いを通り越して恥ずべきこと」


 あぁ、こう言う先生って凄いよなぁ。

 人によっては左翼的とか言うんだろうけど、全てを客観的に分析し、公平に教える先生。


「私達がすべき正しい行動は、200年という大昔のことなどさっさと忘れて、お互いをもっと深く知り、共に手を取り合うことです」


 歴史は過去を知り、未来で過ちを繰り返さぬよう予防する為の勉強。

 生徒達は、先生の言葉を静かに聞いていた。


 歴史の授業が終わった。

 なんだろう、授業内容がヘビィだったよ。

 ロリィは好きだけどヘビィは苦手だね。

 イマイチどうすれば良いか分からず、動けないでいた私の前に、誰かが立った。

 さっき「人魚は人間に負けたのか」って呟いてた男の子だ。


「おい」


 乱暴気味に声をかけられた。

 私はその子の顔を正面から見つめる。

 嫌だなぁ、難癖付けられるのかな。


「なに?」


 その子は大きな目をギョロっとさせ、口を開く。




「俺の名前はワイゼル・ゴードン。お前は?」

「え?」


 その子は目と同じく大きな口をニヤッと上げて、私の名前を聞いてきた。


「名前だよ、名前。しばらくこの学校にいるんだろ? 教えてくれよ」


 その子、ワイゼルの目には一切の悪意が無かった。

 純粋に私を歓迎してくれる眼差しだった。


「ヤコ・テンジョウインだよ」

「そうか、ヤコっていうのか。よろしくな」


 ワイゼルは大きな手を私の前に差し出してくる。

 握手を求められているだろうか。

 ひょっとしてこの手を握り返したら、ものすごい力で私の手は握りつぶされるのかもしれない。

 でもここで握手を拒否するのは失礼にあたる。

 私はその手を握る。

 ワイゼルは私の手をとても優しく握り返してくれた。


「よろしく、ワイゼル君」

「ワイゼルでいい。人魚と人間が200年の歴史を超えて共に手を取り合った瞬間だぜ? もっと楽しくいこうや」


 そうワイゼルが言った瞬間に、教室中の生徒たちが一斉に私の元に集まってきた。


「ワイゼルばっかズリィぞ!」

「そうだそうだ! 俺らもヤコさんと握手させろ!」

「どきなさいワイゼル! ヤコさんが可愛いからっていつまでも握手してるんじゃないわよ!」

「そうよ変態!」

「俺の扱い酷くねぇ!?」


 私は何が起こったのか、展開についていけなかった。

 そんな私の肩に、そっと誰かの手が置かれる。


「皆いい人でしょ?」


 ティーだった。


「てっきり虐められちゃうかとおもったよ」

「ギャハハ! そんなことして何の得があんだよ?」

「あはは、本当にその通りだね」


 ワイゼルは私が恐れていたことを軽く笑い飛ばす。

 でも、私はそんな彼らの姿を本当に尊いと思う。

 なんの利益もないことをするより、仲良くする。

 こんな当たり前の事を当たり前に出来る彼らは、本当に凄い。

 人間はそんなこと出来ない。

 もし立場が逆だったら、人間達はきっと人魚を虐める。

 彼らの『当たり前』を、私達には出来ない。


「次の授業は体育だぞ。更衣室に案内してやろうか?」

「私がやるから必要ないわよこの変態!」

「ギャハハ、そいつぁ残念だ!」


 体育の授業も、人魚の皆と協力して楽しくやることが出来た。

 人魚達の汗が舞い散り、黄色い声が飛び交う。

 女の子が石に躓いて私に倒れ掛かってきた時はもう最高でしたよ、ええ。


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