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光と共に私は新たな世界の地へ降り立った。
どうやら少し開けた森の中のようで、雲一つない空に輝く星々が美しい。
この世界にも月があり、私の頭上で煌々と光っている。
『天上院様、聞こえますか?』
暫く新たな世界の光景を眺めていると。何処からか可愛らしい声が聞こえてきた。
つい先程聞いた声、ヴィクティムちゃんの声だ。
「聞こえているよ、どうすればいいんだい?」
『スキルリスト、と声に出していただけますか?』
言われた通りにスキルリストと声に出すと、私の眼前にフワリと黒字に金の装飾の本……先程にキスをした本が現れた。
『その本の名前がスキルリストであり、現在天上院様が所有しているスキルの一覧や、取得したスキルポイントを消費して使用可能なスキルが載っています』
説明を聞きながらペラペラと捲ると、なるほど確かに最初のページには美少女感知センサーを代表とした、私が現在所有しているスキルの一覧があり、更にページを捲っていくと、私がまだ所有していないスキルが記載されている。
私が所有していないスキルに目を通していくと、ある事に気付いた。
「あれ、さっきと内容が変わってる?」
『はい。先程天上院様が見たスキルの一覧と、スキルリストに記載されているスキルは異なります』
なるほど。例を出すとするなら、先程一番の消費ポイントを要求していた不老不死等のスキルがこちらには記載されていない。
代わりに先程は見なかったスキルがいくつか見受けられた。
『天上院様に注目して頂きたいのは、そのページの左上の方に記載されている異世界公衆電話です』
異世界公衆電話。
なんだか某人気アニメの秘密道具みたいであるが、その説明欄には私が求める物が書いてあった。
〝異世界公衆電話″
自分の知る世界の、自分が知っている電話番号限定で、徳ポイントを1消費毎に1分間通話が出来る。
おぉ、最高じゃん。
早速使おうと思ったが、自分が所持していた徳ポイントは先程全て使い切ってしまったことを思い出した。
「完全にミスったわ」
『いえ、余った徳ポイントは転移及び転生時点で消去されるので、気を落とす事は無いですよ。最も、その説明をする前に全部使い切られましたけどね』
誠に申し訳ない。
そうか、そういうことなら下がりかけてたテンションもどうにか持ち直せる。
『生者との過度なコミュニケーションは禁止されているので、私が説明出来るのはここまでですが、また聞きたいことがあればスキルリストを開いてください』
最後にそんな声が聞こえると、スキルリストが消えると共に、ヴィクティムちゃんの声はそれ以降聞こえなくなった。
徳ポイントの取得方法に付いてはよくわからないが、確か「人に喜びを与える」とかヴィクティムちゃんが言っていた気がする。
当面の目標は、徳ポイントの取得と、それを用いた異世界公衆電話のスキル使用だね。
目標も決まったところで、受け取ったスキルの確認をしてみることにした。
スキルの使い方は別に誰にも説明されたわけじゃないが、呼吸をするように自然と出来る気がする。
やり方はスキルリストと同じ、声に出して呼ぶだけだ。
「現れよ、神槍グングニル!」
私の声に反応するかのように、一本の槍が現れた。
銀色に輝く穂先を夜空に煌かせ、武器と言うよりは芸術品ともいえるその美しさに一瞬心を奪われる。
が、グングニルは突然その穂先を向け、私に向かって突っ込んできた。
「おっと!」
不意打ちをされたものの、穂先がこちらを向いた時点で嫌な予感がしていたので避けることが出来た。
グングニルもそれが当然とばかりに再び矛先を私に向け直して突進。
「君を扱う資格のテストってとこかな?」
突進だけでなく、五月雨のように連続で穿たれる突きも混ぜられて来た。
確かに速いが避けられないことも無い。
なんなら数刻前まで真剣を持った少女から逃げ回っていたのだ。
割と直線的な分むしろ避けやすいかもしれない。
「あまり突かれるのは得意じゃないし、好きじゃないんだよね」
グングニルは私から再び距離を取り、空高く浮かび上がる。
「だって私、攻めるほうが好きだもん」
落下の勢いを付けて襲い掛かってくるグングニル。
私は感じた。この攻撃を受け止められないものに、グングニルを使う資格はない、と。
「究極性技 真四十八手 其ノ一」
グングニルは私を殺したいわけではない。
私が自分を受け止めるに足る人物か知りたいだけだ。
だからきっと本当はもっと速く攻撃が出来るのかもしれないが、私でも避けられる速さで攻撃してくれた。
ならばそれに答えよう。
「〝タチカナエ”!」
〝タチカナエ”
それは敵と味方、双方が望む展開を実現させる技。
相手がアンバランスな時は自らが支える。
自らがアンバランスな時は相手が支えてくれる。
お互いの信用がある時、〝タチカナエ”は必ずそれを実現させる。
垂直に落ちてくるグングニルをの柄を握り、そのまま風車のようにグングニルを回す。
そして何もない空間を突く、突く、突く。
まるでダンスのように。
私の思うとおりにグングニルが動いているかのように。
グングニルが思うとおりに私が動いているかのように。
演武を辞めて、手に取ったグングニルを握りしめる。
「グングニル、これからよろしく」
(……名付けを頼む、主殿)
「えっ、君喋れたの」
流石は神の槍と名前に冠するだけあって、そこらの槍とは格が違うという事だろうか。
(グングニルは前の持ち主が付けた名前だ)
「分かったよ。そうだね」
神槍グングニルを私が選んだのは理由がある。
ヴィクティムちゃんに、混合世界が危険と言われたから強そうなこの武器を選んだわけではない。
新しい世界には、きっと地球では考えられないタイプの美少女もいるだろう。
そして新たな美少女達とドスケべする為に、私にとって必要なものがある。
「ペニバーン、それが君の新しい名だ」
嘗て神が使い、どんな鎧も貫くとされた神槍グングニル。
それは一人の私の手に渡り、ペニバーンとして生まれ変わった。
自分のモノにしちゃったんだから、神槍を性槍にしちゃってもいいよね? ね?
手に入れたのはペニバーンだけじゃ無い。
もう一つのスキルも確認していこう。
「ペガサス!」
私の声に続いて魔法陣が現れ、青い光と共に翼の生えた馬、ペガサスが現れる。
ペガサスは一度天に向けて嘶くと、私に擦り寄ってきた。
「あれ、貴方は攻撃してこないんだ?」
てっきりペニバーンと同じくペガサスともひと悶着起こると予想していたので、のっけから好感度ゲージが吹っ切れていそうなペガサスの態度に拍子抜けする。
(強者か否か、主にすべき運命の相手か否かなど見ればわかる)
どうやらペガサスも喋れるようだ。
流石は徳ポイント500消費。
下手すると美少女感知センサーも喋れるんじゃないかという謎の思考に陥る。
(どこに行きたい、私は主の翼となって世界を駆けよう)
「あはは、それは素晴らしいけど」
私は後ろを振り返り、飛んできた魔法をペニバーンで切り裂く。
先程から美少女感知センサーが強く反応していたのだ。
グングニルやペガサスと同価値の美少女感知センサーは、そのポイント消費量に恥じることなく明確に対象の私に対する殺意を示していた。
コレを取った時はヴィクティムに怒られたが、こうなってみるとむしろ取って良かったと思う。
「そこにいるのは分かってるよ。出ておいで」
「へぇ、人間風情が私の気配に気付くなんて。流石、ペガサスに魅入られるだけのことはあるわね」
不意打ちに失敗し、隠れる意味が無いと判断したのか襲撃者が木の陰から姿を現す。
短いブロンドの髪を後ろで束ねた、浅黒い肌の軽装に身を包んだ女の子。腰には抜身でナイフを刺している。
んー、いいね。褐色の美少女、超かわいい。
ちょっと小生意気なところが堪らないです。
「これは見破れるかしら?」
女の子はそう言うと、三人に分身して私に襲い掛かってきた。
「人は常に一人だよ」
しかし私は、私からすると明らかな女の本体をペニバーンで突く。
見破られた女の子はナイフでペニバーンを逸らして再び距離を取る。
おぉ凄い、完全に見切ったはずなのに、匠の技でカバーされてしまった。
「やるわね。ならこれはどう?」
女の子は腕を十文字に組むと、その姿が掻き消えた。
でも、美少女感知センサーは彼女の姿が見えなくなっても、違うことなくその場所を私に教えてくれた。
私がペニバーンで一見何も無いように見える空間を突くと、再び女の子が現れる。
「くっ、やるじゃない!」
「一つ質問があるんだけど、なんで私を襲ったの?」
「ペガサスを奪うためよ!」
女はペニバーンの届く範囲から再び離脱する。
しかし身のこなしが凄いなぁ。
気を緩めるとあっと言う間にナイフで刺されてしまいそうだ。
二回目の人生も刃物によって死ぬのだけは勘弁して頂きたい。
「ペガサスを奪う?」
「奴らは主人が殺された場合、殺した者に従属するという性質を持つの。強者に従う種族だからね!」
へぇ、さっきあっさり私に従ってくれたけど、なるほどそういう性質があるのか。
そして堂々たる強盗殺人予告。いっそ気持ちいくらいである。
一目見て好きになっちゃったから思わず襲いかかった、とかの理由を期待していたのでガッカリである。
ここまで全ての技を私に見切られている彼女だが、その表情にはまだ余裕がある。
秘策でもあるのかな?
「これで終わりよ!」
女はナイフを私に向けると、その刃先に光が集まっていく。
そしてそれはレーザーとなって放たれた。
うわ、SFみたいでカッコいい。
そしてナイフの刃先から伸びたレーザーが私の身体を貫通する。
うん、想像通り。
痛くない、見かけ倒しだ。
私は振り返って、背後をペニバーンの石突きで突いた。
「きゃあっ!」
彼女が使ったのは、幻影術の合わせ技によるだまし討ち。
まず分身の術で2人に分身。
次に本体は透化の術で姿を消し、相手の背後に回り込む。
更に分身体は持っているナイフの刃先を光らせ、まるでレーザー光線のようにそれを放ち、相手の注意を引き付ける。
そして相手がそれを躱したと思った瞬間に、背後から突く。
美少女感知センサーがあったから見破ることが出来たが、無かったとしたら間違いなく術中に嵌っていただろう。
まさかこれまで見切られると思っていなかったのか、呆然とした目でこちらを見ている。
「貴女の技は完璧だったよ、ただ一つの問題を除いてね」
「そんなものがあるわけがないわ! いったい何が問題だと言うの!?」
「それはね、貴女が美少女だったことさ」
呆然としている彼女がさらに呆然としていまった。
わけわからんだろうなぁ、でもまぁいいや。
あまりに早すぎた彼女を捕らえることは出来なかったが、吹き飛ばされて木にぶつかり、痛みで身動きが取れない彼女を捕らえるのは容易い。
近付いてしゃがみ込み、その顎を持ち上げ、私と目を合わせた。
身体を強く打ったせいで軽く麻痺しているのか、女の子は私を突き放すことが出来ず、震えている。
「覚悟は出来てる?」
「た、助け」
女の子はそれ以上声を発することが出来なかった。
私が唇で彼女の口を塞いだからだ。
いただきます。
またヴィクティムちゃんよろしく無理矢理?
そんなことはない。私は女の子を襲うのではなく、攻略するのだ。
ここからラブラブエンドに向かうためにはどうすればいいか。
「ッ!」
無理に唇を奪われれば、女性は抵抗する。
それは読めていたから私は素早く唇を離した。
ガチン!
という音と共に女の歯は空を噛んだ、怖過ぎだね。
まだ戦いは続いているのだ、むしろここからが私にとっては本番といえよう。
暴れ、私を引き離そうと殴る、蹴ると抵抗する彼女をひたすら抱き締める。
私からはこれ以外何もしないし、押さえつけもしない。ただひたすらに耐えるのみ。
鋭い痛みが背中に走った。
この痛みは記憶に新しい。
女の子が落ちていたナイフを手に取ると、私に振り下ろしたのだ。襲い来る激痛。
一度では止まらない。刺したナイフが引き抜かれ、再び刺す。刺す。刺す。
……クソッ、流石に意識が朦朧として来た。
「な、なんなのよアンタ……」
あまりの痛みで彼女から手を放してしまう。
その瞬間に彼女は私の腕をすり抜けて距離を取り、震える手でナイフを向けた。
こんな状況だが、ふとある事を思い出した。
「そういえば、聞いてなかったね」
「な、何を」
「君の名前、何ていうの?」
この女の子の名前をまだ聞いていない。
折角出会った第一異世界美少女だ。
名前も聞けずに死ねるか。
「あ、アンタ自分がどういう状況だかわかってるわけ!? アンタ、私に殺されるのよ!?」
どうやら教えてくれなさそうだ。
無念。
ヴィクティムちゃんごめんね、異世界転移開始1時間もしないうちに死にそうだよ私。
折角だからなんかカッコイイ遺言でも言おうか。
「私はね……ただ、君と」
私は地面に手を付き、女の子の顔を見てニヤリと笑う。
うん、雰囲気出てるんじゃない?
「君と、ドスケベがしたいんだ」
私はそのまま気を失った。
褐色美少女とドスケベがしたい人生だった。