禁忌の蜜 下
鎖に繋がれた彼女の両手を握る。
瞬間、パキリ、という音を立てて、腕を封じていた鎖が壊れ落ちた。
解き放たれた彼女の上体を抱きしめて、首筋に顔をうずめる。
彼女の髪の香りを知りたい。
君の首からはどんな汗が流れるんだろう、その味を知りたい。
知りたい、決して満たされることのない君が満たされた時、どんな声を出すんだろう。
聞きたい。
私の欲望と共に、彼女を覆う封印の札が剥がれ落ちていく。
誘う匂いと共に波打つ黒髪は夜の海。
月の涙のように首筋から流れる汗。
女の子に動きが生まれた。
肩に寄り掛かる私の頭に軽く触れて、髪を梳くようにして撫でる。
自分以外の誰かが、今目の前にいることを確かめるように。
抱きしめる私を慈しむように。
ゆっくりと、離れて彼女の顔を再び見る。
いつの間にかその顔を覆っていた封印は全て剥がれ落ちていた。
光を持って輝く黄金の瞳が、私を真っ直ぐに射貫く。
もういいの?
そう言いたげに首を傾げる女の子。
永きに渡り封印されていたにも関わらず、切り揃えられたかのように短いままの髪が小さく揺れる。
もっと。
甘えるように微笑む彼女を押し倒す。
足の枷は外れ、完全に彼女は解き放たれた。
しかし何処にも行こうとしない。
今だけは復讐を忘れて欲しい。
私は君以外を忘れるから。
上に乗る私にされるがまま、抱きしめ返すだけで何も言わない。
少し唇を開けて、私の唇を期待するように見つめる。
後悔はさせないよ。
私は君の期待を裏切らない。
誘われるままに、彼女の唇へと吸い付く。
私はキスが好きだ。
柔らかい唇同士を繋いでいるだけで、こんなにも心が満たされていく。
行為の時、相手が気持ちいいかどうか気になったことはない。
だって、こんなにも良い顔で、蕩けてくれているのだから。
心の底から落ち着いたような、それでいて何も考えられないくらいに興奮している表情。
自然と互いにまぶたを閉じて、それでもお互いの顔が分かるくらいに通じ合う気持ち。
唇を介して溶け合い、心身ともに一つとなる。
肉体を重ねて精神と触れ合う。
時間なんて忘れて、誓いの言葉が無くとも結ばれる。
愛してる
二人から生まれる全ての音がそう聞こえる。
彼女が光の粒子へと変わっていく。
抱きしめる胸の中から、彼女の感覚が消えていく。
いかないで。
ありがとう。




