欲竜ガンホリとの戦い 上
その竜はとても苦しそうで、うめき声にも聞こえる鳴き声を上げながら、中央王都の上空に漂う。
そして天を見上げると、大きくその口を開いて咆哮を放った。
咆哮と共に体に張り付いていたお札が剥がれ落ち、不気味なオーラが噴き出した。
そしてどこからか、ガンホリの声が響き渡る。
「抑えられるかナ? このボクを」
噴き出したオーラが付近を黒く染め上げ、私は闇の中に引きずり込まれる。
そしてその中で、何人ものガンホリが、私たちを取り囲んだ。
「ねぇねぇ」
一人が言う。
「ボクは支配欲、貴方は尊厳を踏みにじってでも、相手を自分で満たしたいとは思わない?」
そういう気持ちは、少しあるよ、でもね。
意識をしていないのに、私の口が勝手に動く。
私以外の誰かが答えているみたいに。
「相手を飲み込もうとして、飲み込まれて、それでも相応しい人物になりたいって思うのは、それ以上に楽しいわよ」
支配欲と名乗ったガンホリは、その回答に少し嬉しそうにしながら、私の胸から溢れ出た、優しい緑色の光に包まれて消えた。
「ねぇねぇ」
二人目のガンホリが言う。
「ボクは障害回避欲、現状の幸せを維持において、変化は悪だと思わない?」
確かにね、あそこで行動をしなければ、そんな風に後悔したこともあるよ。
でもさ。
「障害の無い順風満帆な人生もサイコーよ! でも、変化を受け入れることでしか手に入らない未来だってあるの」
障害回避欲と名乗ったガンホリは、その回答に難しそうな顔をしたが、藍色の光がその頭を撫でるように包み込むと、柔らかい表情で消えていった。
「ねぇねぇ」
三人目のガンホリが言う。
「ボクは承認欲、自分を認めない奴なんて何も分かってない愚か者だと思わない?」
私の魅力に気付かないなんて、確かに損をしているね。
だけどさ。
「いいじゃねえか、そういう奴がいても。それを追い越して、見返してやった時の気持ち良さはやべーぞ」
承認欲のガンホリは、力強い橙色の光を見て、少し苦手そうな顔をしたが、しつこい橙色に根負けしたのか、小さく笑って消えていった。
「ねぇねぇ」
四人目のガンホリは言う。
「ボクは愛情欲。誰かに愛されていないと不安になるよね」
そうだね、もし愛する美少女たちの誰かにに嫌われてしまったら、私はショックで立ち直れないかもしれない。
でも挫けないよ、だってさ。
「人に愛されたい時は、まず自分から愛してあげます。私がそうして頂いたように」
不安そうな愛情欲は、自分の周りに広がる青色の光を必死にかき集めようとするが、青色の光が強く輝き、全身を包み込むと、ほっとしたように微笑む。
そして今度は青色の光を強く抱きしめ、消えてしまった。




