男の宿命
その背中はずっと私が追いかけ続けたもので、支えたくて、守りたくて。
でも私はいつまでたっても力不足で。
せめて貴女が大変な時には、私が出来ることをやりたくて。
「ガラード様……」
「ボーズ」
フェンリルの一撃を獣化したその身一つで抑えながら、それでもその覇気だけは決して負けず。
あぁ結局私は、この人に頼ってしまうのか。
彼女を助けようと決意した、あの時から成長しないままで。
「よくやった」
何かが爆ぜた。
暗くなっていく心が、一気に晴れていくような感覚。
「だがもう少し、手伝ってくれないか」
「仰せのままに」
薬の力なんて比較にならない、霞んでいた視界も、全身を襲う疲労感も全て吹き飛んで、命の炎が燃える。
立ちあがれボーズ、ここで倒れては男の名折れ。
主君が自分を頼ってくれる、これ以上の幸せがあるか。
「生憎と精霊銃が無くてな、突破力が足りないのだ」
「ならば私が貴女の矛となりましょう」
いつまで主を足蹴にしている気だクソ犬。
私はガラード様を押し潰さんと躍起になっているフェンリルの顎を思いっきり蹴り上げる。
負け犬のような情けない鳴き声を上げて怯んだその隙に、更に距離を詰めて今度はその鼻っ面に渾身の拳を叩きこんだ。
ガラード様も滅茶苦茶に振られる両爪を避けながらその懐に入り込んだ。
ん? ガラード様は何をしようとしているのだ。
まぁいい、私はこのままコイツに追撃を与えるべきだろう、フェンリルからガラード様への注意も逸れるはずだ。
爪を食い込ませ、噛みつきながら張り付く私を振り払おうとフェンリルが暴れまわり、時折城壁に顔を打ち付けて私を潰そうとしてくるが、バカめ。
エンジュランドというフィールドで私に勝てるわけがないだろうが。何年ここに住んでると思っている。城壁に頭を打ち付ようとするフェンリルから離れると、近くで待機していた重砲兵達に指示を飛ばす。
超至近距離からの砲撃、近過ぎた反動でいくつかの大砲が壊れたように見えるが、一発も打たないままで終わるより有効活用出来たというものよ。
「アオォオオ!?」
おぉ。流石にこれは効いたと見えるか。
全く砲撃が効いていなかったので、正直無いよりマシといった程度だったが想像以上の戦果だ……ん?
それにしても苦しみかたが異常だ、まるでのたうち回るように、口から泡を吹いて明らかに悶絶しているフェンリル。
「ふむ、こんな規格外の化け物にも急所はあるのだな」
そう言って我が主ガラード様が、フェンリルの足元……正確にいうと下腹部の辺りから姿を現した。
フェンリルは暫く震えていたが、やがてゆっくりとその動きを止めた。
「恐らくまだ気絶だ、確実にトドメを刺せ。ボーズ」
そう言って私に最後の手柄を譲って下さったガラード様。
つい先ほどまでは絶対に殺すという気持ちでこのフェンリルの相手をしていたが、今は少し同情の気持ちが無いでもない。
「お前、オスだったんだな」
コイツの何が潰れたのかなどとあまり考えたくはないが、私もいつまた薬の副作用が襲ってくるか分からない。
私はぐったりと倒れて動かないフェンリルの頭蓋を、最後の力を振り絞って叩き割った。




