英雄だったかもしれない男
体が大きいというのはそれ自体が優位となることが多い。
しかもそれが一つの都市を破壊し尽くすに足るものとなれば、それを貫くにも相応なものが必要だ。
だが、ここにはその破壊力が十分に揃っている。
私一人でも十分だとは思うが、隣に立つ男が放つ覇気は悔しいが私と同等か、もしくはそれ以上のものと感じる。
運命が違えば、この男もまた私を操るに足る、英雄となり得る存在だったのかもしれない。
しかし、我が主が引けを取っていると思うわけではない。
確かにこの男が持つこの重圧は、相応の経験を積んだからこそだろう。賞賛されてしかるべきだ。
一方で我が主の持つ可能性は、これから花開き、私は隣でそれを見つめることになるだろう。
最終的にどちらが上回るかなど分からない。
だが今は、その未来を勝ち取るために、この男と共に、そして我が主の導くままに敵を滅そう。
「いくぞ、遅れるなよ」
「笑止、出番があるとでも思っているのか」
私は魔物の頭に飛び掛かる。
大声で終始わめきおって、うるさい奴だ。
そんなに騒がずとも相手をしてやるから感謝をするがよいわ。
振り落とそうと必死にもがく魔物だが、二度も同じ手で振り落とされるわけがなかろう。
「ここはお前といえど、固くは出来んよなぁ?」
どんなに大きな生き物だろうが、結局指示をするのは一部の器官であり、故にそこが急所となる。
そしてどんなに外皮で固く覆おうとも、人間が毒を飲めば死ぬように、その急所自体を鍛えることなど出来はしない。
その筆頭が眼球だ。
振り落とそうと狂乱する魔物の目に、私は渾身の手刀を突き入れた。
「ギャァアアァ……!」
片目が潰れ、より一層暴れまわる魔物。
私を地面に打ち付けようと、自らの頭ごと地面へ振り下ろす。
それが自らの命を終わらせる一手だとすら気付かずに。
振り下ろした先にいるのは、二振りの曲刀を腰に構えた人魚。
迫る巨体に恐れる様子は一切なく、振り上げられた彼の剣が食らいつく捕食者を想起させる。
二迅は魔物の首へと勢いよくかぶりつき、そのままの勢いで首を断ち切った。
私も切り離されたことにより自然と落ちていく首から手を引き抜きながら着地。
振り切った剣の血を静かに払う男の前に、大きな音を立てながら魔物の胴が落ちてくる。
魔物の胴はしばらく失った首に指示を求めるように暴れまわった後、その動きを止めた。
そしてゆっくりと溶け出すように光へ変わり、片目が潰れた首もろとも天へと消えた。




