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女だけど女の子にモテ過ぎて死んだけど、まだ女の子を抱き足りないの!  作者: ガンホリ・ディルドー
第二章 人魚のティーエス
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情報収集したけど道が無いけど頑張ったけど

 天上院はロウターと共に、ある町へ辿り着いた。


「ここどこ?」

「港町ヘイヴァ―だな。フィスト嬢が主を逃がす時に、ここへ逃げるようにと私に指示した町だ」

「へー、じゃあ運命的な巡りあわせでここを訪れたわけだね」

「そうだな。ところで主の求める美少女は何処にいるんだ?」

「うーん、町のあちこちから反応があるけど、一番強いのはアソコなんだよね」


 そう言うと天上院は、ある方向を指さした。

 海の底だ。


「……その美少女は溺れているのか?」

「溺れているって言うには深すぎるし、センサーが伝える反応もビンビンだから問題ないと思うよ」

「そうか。なら恐らく人魚だな」

「この世界には人魚がいるの?」

「あぁ、勿論だ」


 ペガサスと共に空を駆け、美少女ダークエルフと恋愛出来ちゃうこの世界には、勿論人魚だっている。

 人魚。

 誰もが物語で伝説の生き物として、その存在を知っているだろう。


「よっしゃ、じゃあ早速行こうよロウター」

「落ち着け、主。人間である主が生身でどうやって海底へ行くというのだ」

「素潜り」

「主ならそれでも行けてしまいそうな気がするが、とりあえずこの辺りで情報収集でもしたらどうだ? 土地の人間とコミュニケーションを取るのも、旅の楽しみだろう」

「それもそうだね」


 そう言って天上院が辺りを見回すと、恰幅のいいおばさんが屋台でジュースのようなものを売っているのを見つけた。

 天上院はそういえば喉が渇いていたなと思い、その店に向かう。


「すみませーん、なんのジュースを売っているんですか?」

「あらお嬢ちゃん、いらっしゃい。ここはザクロとオレンジをこの場でジュースにする店だよ」

「ザクロジュース?」

「珍しいだろう? この辺りでは有名なんだけどね。おひとつどうだい?」

「んー、じゃあお願いします」

「ザクロジュースかオレンジジュース単品と、ミックスがあるけど、どっちがいい? 値段はミックスのが少し高いねぇ」

「折角なんでザクロジュース単品で」

「あいよ」


 お金を屋台のおばちゃんに手渡して暫くすると、赤いジュースの入ったコップが手渡された。


「はいよ、お嬢ちゃん」

「ありがとうございます」


 それを受け取って天上院はザクロジュースを飲む。


「すっぱ!」


 ザクロジュースは物凄く酸っぱかったのだ。

 グレープフルーツジュースの様な味に近い。

 思わずむせ返る天上院。


「あっはっは、ザクロジュースを初めて飲む人は大体その反応をするんだよ。面白いねぇ」

「ひどいよおばさん……」

「だからオレンジとミックスで売ってるのさ」

「なるほどねぇ」

「ま、別の地方じゃ普通に甘いザクロジュースもあるらしいけどね」

「へぇ~。ねぇ、このジュースを飲み終わるまで、いくつか質問していい?」


 本来の目的を持ち出す天上院。

 ちょっと強引だが、これ目的でジュースを買ってこの女性に話しかけたのだ。


「ん~? 今は客の少ない時間帯だしねぇ。いいよ、何が聞きたいんだい?」

「えっとね、おばさんは人魚って知ってる?」

「あぁ、勿論知ってるさ。この近くにも住んでるよ」

「そこまで知ってるんだ」


 この町の、しかもこんな一般人まで人魚が近くに住んでいることを知っているという事実に、少し驚く天上院。


「この港町は人魚のおかげで栄えてるからねぇ。漁業だってうまくいくのも、み~んなアイツラのおかげさ」

「凄い仲がいいんだね」

「そうさ。中央王都の方の学者には、人魚は人間に進化できなかった劣等種だとかいうアホもいるらしいけど、私らはそうは思えない」

「へぇ、どうして?」

「アイツラの顔を一目見たら分かる、み~んなイケメンや美少女ばっかりさね。あんな綺麗なのが私達の劣等なわけないじゃないか。進化って言われたら納得するけどね」

「あはは、そっか」


 ジュース売りおばさんの冗談に、くすりと笑う天上院。


「人魚たちに会う方法はあるの?」

「んー。この町の役人なら、貿易で話す機会もあるだろうけど、会うってなるとねぇ」

「やっぱり難しい?」

「ん~、あちらさんは海の底に生活してるしねぇ」

「そっかぁ……おばさん、ジュース飲み終わったから返すね、お話してくれてありがと!」

「またいらっしゃいね~」


 ジュースのコップを屋台に返し、その場を離れる天上院。


「で、どうだった? 主よ」

「やっぱ素潜りしかなさそう」

「マジで言っているのか……」


 会うことが難しいと言われても、諦める気など更々ない天上院だった。


「で、どうする。主」

「困ったねぇ、せめて人魚たちが住む世界の情報について知りたいよ。流石に酸素のない所に住んでたらいくら私でも無理があるし」

「そうだな、では前回に引き続き情報収集か」

「そうなるね。今度はこの町の情報局にでも行ってみようか」


 ロウターと相談した天上院はスマホを起動し、情報局の場所を検索しようとする。

 すると一件のメールが入っていることに気付いた。

 天上院はそれを開く。



差出人:フィスト・ライン

宛先:ヤコ・テンジョウイン

RE:やほ~!(⁂^∀^⁂)

元気~?\(//▽//)/

私は今転移陣で魔大陸に帰ったよ~(*´ω`*)

私がいなくて寂しくなったらいつでも電話してきていいんだぞ~(笑)

修行で忙しいかもしれないけどね!(テヘペロ)

ヤコも元気で頑張って(は~と)



「ごめん、一瞬うぜえと思った私がいた」

「あんな別れ方をして、普通に一行につき一回顔文字とか入れてるメールを送ってくるのだな……」

「小説じゃ文学的に使えないから表現に苦労するとこを、イマドキの若者は絵文字使って軽々と突破するわけか」

「主も使ってみたらどうだ?」

「とりあえずこのメールに返信するよ」



差出人:ヤコ・テンジョウイン

宛先:フィスト・ライン

RE:げんきだよ

今はみなと町へいばーにいます。

ざくろじゆーすを飲んだけどすつぱかつたよ。

ふいすとも、がんばってください。



「主はひょっとして機械音痴か?」

「絵文字ってどうやって使うんだい? 皆いちいち入力してるの?」

「ショートカット機能があるだろう、それを使え」

「最近の若者凄いなぁ……」

「この程度誰でもできるだろう。漢字変換どころかカタカナ変換もあやふやなあたりが哀愁漂うぞ」

「ヘイヴァーがへいばーになっちゃったよ」

「フィストもふいすとになってるだろうが」

「我が身至らず申し訳ない……」


 天上院は情報局の場所を検索するとスマホから矢印が飛び出し、天上院達に道を教えてくれる。


「ナビ機能はまともに使えるのだな」

「所詮目的地を入れるだけでいいナビとメールは違う」

「そうか……」


 矢印の案内通りに向かい、天上院達は情報局に辿り着いた。

 天上院は早速、局内に入って受付嬢のところへ向かう。

 ロウターは外で待機だ。


「すみません、人魚に関する情報を知りたいのですが」

「学問研究ですか?」

「あ、いや。生態や暮らしに興味があるというだけでして」

「簡単なものでよければ私がお答えしますよ」

「いいんですか? じゃあまず人魚達が住んでいるところに空気ってありますか?」

「ありますよ。彼らは肺呼吸をしているため、海底都市と言われるところに住んでいます」

「へぇ。一般人がその海底都市に行く方法はありますか?」

「ん~ないですね。外交関係の方であれば海底都市の入り口まで行くことは可能ですが、この町もほかの所より友好的というだけで、まだ観光は不可能です」

「わかりました、ありがとうございます」


 そういって天上院はお礼代わりに受付嬢にチップを払った後、情報局を出る。


「どうだった、主」

「素潜りか貿易船による密入国かの二択に増えた」

「密入国であることに変わりはなかろう……」

「さて、じゃあ早速行きますか」

「どこにだ」

「素潜り」

「真面目に考え直したほうがいいぞ主」


 町中で周囲の目を気にせず、服を脱ごうとする天上院を必死で引き留めるロウター。


「だってもう辛抱出来ないんだもん!」

「冷静に考えろ、例えば実際はもっと深いだろうが、海底都市とやらが100m潜ったところにあったとする。人間である主の息などもって精々1分だ。一秒につき2メートルくらいは潜らねばならぬのだぞ」

「い、いけるよきっと」

「まだだ、更に海底都市に入国する際に人魚たちと交渉せねばならんだろう」

「うっ……」

「しかもそれすら入れてくれるかは怪しい。その上水圧もある」


 確かに人の身では難しいだろう。

 ならばと天上院は提案する。


「ぺニバーンと合体すれば……」

「身武一体の圧倒的な身体能力で辿り着けたとして、反動はどうする」

「身武一体って?」

「完全変態モードのことだ」

「う~ん、どうにかできないかな……」


 美少女人魚と出会うために立ちはだかる巨大な壁を前に、天上院は悩む。

 海の砂浜に降り、海岸の石を蹴飛ばしながら考える。


「待て~!」

「うわ~! 逃げろ!」


 砂浜で鬼ごっこをしながら遊ぶ子供たちの声が聞こえる。


「もう逃げられないぞ!」

「うわぁ、どうしよう!」


 鬼から逃げている子が、遂に追い詰められた。


「くっそ~! こうなったら、えいっ!」

「あっ、ズリいぞ! 俺泳げねえのに!」


 追い詰められた子は服を着たまま浅瀬に飛び込み、鬼役の子から逃れた。


「……それだ!」


 その光景を見て、何かを思いついた天上院。


「なにかいい案が浮かんだのか? 主」

「ひょっとしたら失敗するかもしれない、でもやるだけやってみるよ」


 そう言うと天上院はペニバーンを召喚し、空へ掲げると光に包まれた。

 そして完全変態モードとなり、再び現れる。


「ほう、それでどうする気だ?」

「まぁ見てなって」


 天上院は波打ち際に向かうと、掌が海に包まれるくらいの深さのところで天上院は座り込み、両腕を地面に付け、唐突に腰を回転させるように振り始めた。


「すまん、主。痴女かキチガイにしか見えん」

「こっちは本気なんだよ!」


 ロウターの言葉に、とても真剣な声で答える天上院。

 一定のリズムで腰を振り続ける。


「……なにをやっているんだ?」

「大海原とのセッ〇ス」

「すまん、わけわからん」


 その腰振りは決して早すぎることはなく、割れ物を扱うように優しく、ゆっくりとしたものだった。

 天上院は思い出したのだ。

 究極性技 真四十八手、その解説に書いてあったことを。


 その腰振りは大地を揺るがし、その手の動きは天を狂わす。


 いけるんじゃないかと、思ったのだ。

 身武一体による圧倒的な身体能力と、究極性技 真四十八手さえあれば

 海くらい、割れるんじゃないかと。


「発想が頭おかしい、出来るはずがなかろう」

「私の前世の話だ」

「ぬ?」

「人が空を飛ぶなんて、出来るはずがないと言われていた。機械が飛ぶのは科学的に不可能と言われていた。でも、それを諦めずに研究し続け、遂に飛行機を生み出し空を飛んだ兄弟がいた」

「……」

「諦めたらそこで、出来るかもしれないが出来ないに変わるんだよ!」


 天上院は腰を回し続ける。

 ロウターは何かを感じ、主を制止することを止め、ただその光景をじっと見守ることにした。

 天上院の行動に気付き、野次馬が集まってくる。


「何やってんだあいつ?」

「なんか海にひたすら腰振ってるぜ」

「ママー、あの人何やってるのー?」

「しっ、見ちゃいけません!」

「なにアレ……キモいんですけど」


 それらの中に、好意的な視線は一つもなかった。

 あるのは好奇と蔑視だけ。

 そんな視線など知らぬとばかりに、天上院は尚も腰を回し続ける。


「笑われてもいい、馬鹿にされたっていい」

「……」

「失敗するかもしれない、後悔するかもしれない」

「……」


 ロウターは肌で感じた。

 先ほどから海の様子がなにやらおかしいと。

 天上院の腰振りに共鳴するように、波が揺れ動いている気がすると。


「でもね、成功した人はきっと、そういうのを全て乗り越えた先の景色を見たんだと、私は思うんだ」


 天上院は、腰を回す。

 海が、揺れる。

 天上院が、腰を回す。

 海は、揺れる。

 野次馬達も、なにやらおかしいと気付き始めたのだ。


「な、なぁ。ペガサスさんや、あのお嬢さんは何をしているんだい?」


 先程のジュース売りのおばさんが、ロウターに話しかけてきた。

 野次馬達も、天上院のペガサスであろうロウターの言葉に耳をすませる。


「主は、海を割ろうとしているのだ」

「な、なにを言っているんだい?」

「オイオイ、海を割るだって? そんなことが出来るわけねえじゃねえか!」

「御伽噺の世界よ! 科学だろうと魔法だろうと、そんなことは出来っこないわ!」


 天上院は、腰振りを僅かに早める。

 いや、早くしているだけじゃない。

 時に早くし、時に遅く。

 緩急をつけて腰を回しているのだ。

 天上院の腰振りに、海は荒れていく。

 その光景を見ているものは全員、天上院の膝の上で、そのテクニックに悶える海の女神を幻視した。


「究極性技 真四十八手 其ノ十」


 悶える海の女神に対し、天上院はチェックメイトを宣言する。


「"ナルト”」


 究極性技 真四十八手 其ノ十 "ナルト”

 その腰回しは陸海空、その全てを搔き乱す。

 渦に捕らわれた者が出来るのは、その流れに身を任せることのみ。


 天上院の膝の上にいた女神が声なき叫びを上げ、その姿を消した。

 荒れ狂った海は、刹那の静けさを取り戻す。


 そして次の瞬間、天上院の目の前の海が左右に割れていった。

 それはまるで、もっと悦びを与えてくれとねだる様に。


 天上院は立ち上がり、その割れた海をゆっくりと歩いて行った。

 まるでエジプト軍から逃げる際に海を割ったモーセのごとく、堂々とした歩みで。


「さぁ愛しいマーメイド達。今、会いに行くからね」


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