狩り
ハッキリ言って全く砲撃は効いていない。
いや、正確には着弾する度に鬱陶しそうな顔をしているから蚊に刺された程度は効いているのだろうが、それでダメージが蓄積してフェンリルが倒れるよりも、その間に暴れられてエンジュランドが滅びる方が早いだろう。
なら私がすべきことは、この場所で砲撃指示をすることではなく、獣化して直接フェンリルに突撃することだ。
実際にドレッドがやっていたように、獣化の際は精霊銃でなくとも普通の武器を自分の身体と一体化させることが可能なので、精霊銃が無いと判明した時点で武器庫にある銃をいくつか調達させたのだ。
明らかに精霊銃よりも威力は劣ると思うが、それでも無いよりはましである。
「覚悟しろ、化け物!」
私が握り締めたのは、名前も知らない量産型のライフル銃。
こんなものに私の命、ひいてはエンジュランドの運命を託すことになる日が来るとは思わなかった。
しかし精霊銃を持たぬ一般兵はこれで戦っているのだ、文句を言えるはずがない。
獣化してフェンリルへと銃弾を叩き込んでみたが、大砲よりも心なしかマシに見えるというだけで劇的な変化は無かった。
しかし大砲は単発的な攻撃に対して、こちらは隙さえあればいくらでも連射が可能。
これならある程度は戦えるであろう。
そう考えていたのは甘かったのだろう。
戦闘可能な獣人達が一斉に獣化し、フェンリルへと攻撃を開始する。
しかし相手は伝説の化け物なのだ。
巨大な像一匹に蟻が群がったところで意味がないという表現がまさに相応しい。
天候が突然変わった曇天の空へと遠吠えをするフェンリル。
「ボーズ様! お気を付けくださ」
私の傍で砲撃隊との連絡を行っていた者が吹き飛んだ。
そして数瞬の後に遅れて吹き付ける爆風。
なんだ、何が起きた。
全く見えなかった。しかし、尋常でない殺気が私の横を通り過ぎたのは確かだ。
フェンリルは、どこだ。先程までいたはずの場所にはいない。
まさかと思い振り向くと、こちらを振り向き、牙を光らせて唸る化け物の姿。
嘘だろう、目を逸らしてなんかいなかったぞ。
今のがフェンリルの攻撃だとでも言うのなら、光速という表現こそがまさに相応しい。
じゃあなんで今までそれをしていなかった?
その速さで移動すれば、砲撃など当たるわけもないし、ましてや視覚的情報の処理が追い付かない以上は我々の攻撃だって当たるはずもない。
「今までは、遊んでたとでも言うのか?」
まるでご馳走を目の前にした子供のように、フェンリルは我々を見渡しながら舌なめずりをした。




