ワイゼル&リース
「あんなもん、どうしろってんだ」
リヴァイアサン、俺達人魚の祖先の時代に現れたという化け物。
腹が減っては人魚に限らず、周囲の生物を喰らい尽くしたと神話に書かれている。
世界中のほぼ全ての生物が死滅しかけた時、あまりの暴虐さに見かねて神様によって封印されたというのが物語だ。
確かにあの恐ろしい巨体を見れば、その伝承が全く間違いではないということが見て取れる。
「逃げ遅れた人はどれくらいいるんだ」
「港にはまだ結構いるぞ!」
地揺れがしたという警報により、港は最優先で離れるべき対象とされた。
しかし海底都市という立地上、また地上との交流が現在非常に盛んであるという時期的な問題で、逃げ遅れた人がかなりいるらしい。
となると、このままではリヴァイアサンに襲われる人魚達の数が非常に多くなる。
「待ってワイゼル。どこ行くの」
「……決まってんだろ」
俺のやろうとしたことを察したのか、リースが俺を引き止める。
ティーエスはいねえ。そしてアレクもいねえ。
ヒストリアさんもいねえ。
海底都市で主要な人物が、根こそぎ出払っちまってる。
皆に指示を出して、この異常事態に対応出来る程の実力があるやつがいねえんだ。
なら、誰かが無理矢理にでもやるしかねえ。
「死ぬわよ。何か具体的な策があるの?」
「無い。でもなんもやらなきゃ誰も救えねえんだ」
アイツラが帰って来た時に、散々に荒らされた海底都市を見たら悲しむだろう。
だから絶対に守らなきゃいけない、その悲しみを少しでも減らしてやらなきゃいけない。
勝てるなんざハナから思っちゃいねえ。
今から俺がやろうとしてるのは時間稼ぎだ。
意地でもリヴァイアサンを足止めして、皆が逃げる時間を稼ぐ、アレク達が戻ってくる時間を稼ぐ。
「今やろうとしてるのは?」
「とりあえず……港に向かって」
「はい失格」
は? なんでだよ。
港にいる人達の避難支援をするんだから、港にまず行くしかねえだろ。
「リヴァイアサンに襲われる人数を一人増やすだけよ。そんなことより効果的な方法があるわ」
マジかよリース。流石俺の彼女だな、最高の女だよ。
ところでその方法はなんだ教えてくれ。
どうやら今の状態では出来ないらしく、俺らは何故か楽器の置いてるスタジオへと向かって走ることになった。




