君と、ドスケべがしたいんだ
私の鼓膜に響いたその言葉。
脳が理解を拒否する文字列。
フィストが、私を好きじゃない。
「ほっほっほ」
今は大好きなフィストの声よりも、不快に響く笑い声の方が聞こえる。
好きじゃ、ない。
駄目だ、理解するな。それを知ったら、きっと私の何かが壊れてしまう。
事実を受け止めなければならない? 駄目だ突っぱねろ。
あぁ、でも。全身の血が巡るように、その言葉が私の心を侵食していく。
私はフィストに、拒否されたんだ。
「お互いの気持ちが通じ合って良かったのう」
フィストとの距離が、離れていく。
私が膝を付いている地面が、まるで後ろへと移動していくように。
近付こうとしても、離れるスピードの方が速くて。
疑惑が私の足に絡み付いて離れない。
嫌だ、諦めたくない。そんな嘘は信じない。
私が信じているのは、別れの日に君が見せたあの瞳の色だ。
それが他人に作られた偽物だったとしても、映った感情には愛があったんだ。
別れの哀しさ、お互いの無事を祈る愛しさ、そして再び出会うことへの希望。
自然なものではないから、誰かに仕組まれたものだから。
そんなものは理由にならない。私がその想いに答えたいという欲求を否定する根拠にならない。
教えてあげるよサタン。これが好きになるってことだ。
「ッ!? なにを!」
私は口の中へ入れられた指に再び噛み付いた。
出てけ出てけ、邪魔だ。
無様に頭を振り乱して、口の中から指を追い出す。
とても可愛い女の子の前では見せられない姿。
それでもいい、今は格好付けるよりも優先しなきゃいけないことがあるんだ。
ついにサタンの指が、口から吐き出せた。
「フィスト!」
君が気持ちが偽物であることに気付いて、私を好きじゃないと言うんだったら構わない。
それはもういい。否定しないよ、関係ないし。
誰だって、出会う前から好きだったなんて事は有り得ないんだ。
何が言いたいかって?
「君のような美少女が大好きだ。愛してる」
今の君が本心だって言うんだろう?
だったらいいさ、好都合だ。そんな君に届けてあげるよ、私の想いを。
何度でも何度でも、これがまた偽物だなんて言われても繰り返してやる。
「私はね……ただ君と」
動いていた地面はもう止まった。
あれだけ硬かった鎖も壊れた。
やっと君に近付くことが出来る。
冗談を言ったら真っ赤になる可愛らしさも、嫉妬したら容赦無い凶暴さも、そして私が危機に陥った時、自分が犠牲になってでも助けてくれようとした優しさも。
全部好きなんだ。
「君と、ドスケべがしたいんだ」
私も君も、何も考えられなくなるほどぐちゃぐちゃになって一つになりたい。
ただ、それだけなんだ。




