決断
私がこの世界に来た理由。
悪魔に唆されてまで、天上院様を追いかけたのは何故か。
謝る為?
違う、謝ったって許される罪じゃない。
私がここにいるのは、そんな綺麗な理由じゃない。
もっと汚く粘着質な、気持ちの悪い欲望。
キスしてくれた時、本当に気持ちがよかった。
放課後の図書館で初めてした時。まだ天上院様への想いが、少し気になっているという程度だった時。
あのイタズラなキスが、私の冷めきった心に熱を与えた。
そして、二回目の口付け。
嬉しかった。天上院様の唇が私へ触れた時、確かに彼女の愛を感じた。
本当に、この人は私の罪を許してくれている。いや、それどころか気にもしていない。
優しさが唇を通して伝わって来た。
問題があったのは、私の方だ。
天上院様とキスをした時、最初は心地良かった。
しかし一つの考えが脳裏を過ぎった時、私の心に闇が差した。
この唇は、私以外の誰かとも交わされたのだ。
その想いを、悪魔に利用された。
汚い、悔しい、腹立たしい。
溢れる感情は制御出来ず、抑えていた壁は決壊し、行動となって現れた。
今でも覚えている。
二度と現れるなと叫んだ時に見せた、天上院様の悲しそうな顔を。
悪魔に利用された、言い訳に過ぎない。
あの時の言葉は、心の奥深くで燻っていた本音だ。
『そんな君が、どの面下げて天上院弥子の下へ行くんだい?』
今更私が、天上院様へ近付けるわけがない。
何者かが、天上院様へとゆっくりと近付いていく。
殺される。
天上院様の身体が黒い光に包まれる未来が見えた。
光が収まった時、そこに天上院様はいない。
きっと、それは死ではない。
もう二度と、私が天上院様に出会うことは出来ない。
その光景を予感したと同時に、それを確信した。
「天上院様に、二度と会えなくなるだなんて。嫌」
姿を消した天上院様を見て、やっと自分と向き合えた。
そうだ、私が悪魔の力を借りてまでこの世界に来たのは、そういうことだ。
「天上院様を殺しても、私の心は満たされなかった」
彼女を私だけのものにしようとして、彼女を殺した。
でも結局何かが足りなくて、天上院様の死体の上で私も死んだ。
その時に足りなかった何かが欲しくて、私はここに来たんじゃないのか。
『決めたみたいだね』
もう迷わない。
私が欲しい人を、私は掴みに行く。
誰だろうと、悪魔だろうと、私はもう惑わされない、迷わない。
欲しかったのは、棺で眠る彼女の顔じゃない。
初めて出会った時に見た、あの微笑みだ。




