清宮姫子の苦悶
崩れた瓦礫と逃げる人々。
傍には心配そうにこちらを見下ろすぎどらちゃん。
先程まで私は船の上にいたはず、なんでこんな場所にいるのでしょう。
『さぁ、選択の時だよ。姫子ちゃん』
この悪魔が原因ですか。
本当に自分勝手な奴です、まともに話が通じる気がしない。
今だってそうです。
勝手に私の身体を動かしたと思えば、今度は命令。
それに逆らおうとすれば痛みを与えて強制執行。
本当に腹の立つ。
一体今度は何を命令しようと言うのか。
『御覧、すぐそばに君の大好きな天上院弥子がいるよ』
悪魔に言われた方向を見ると、色鮮やかに輝く天上院様が巨大な化け物と戦っていました。
相変わらず美しく靡く髪の毛を見ると、私の心は締め付けられるように痛くなります。
そして一撃で化け物を消し炭にすると、ゆっくりとそれに近付いていく天上院様。
トドメを刺そうとしているのでしょうか。
しかしそれは突然現れた何者かに阻止されました。
『このままだと、天上院弥子はアイツに殺される』
天上院様が、殺される?
見た所、突然現れた何者かはそこまで恐ろしい存在には見えない。
むしろ私と同じような年頃の女の子のように見えます。
『見た目はね』
悪魔の言葉通り、その人物は天上院様に襲い掛かったと思うと、次の瞬間には天上院様が倒れていました。
一体何が起こったのでしょう。
攻撃は避けていたように見えましたし、それ以外に何かしたようにも見えません。
『さて、どうする? 清宮姫子』
そんなの、一択でしょう。
私は岩徹しを抜き、ぎどらちゃんの背中に飛び乗りました。
『助けに行くの? 別に死んでも良くない?』
何を言いますかこの悪魔は。
『だって、君も天上院弥子を殺したじゃないか』
それは、違う。
言いかけて、喉元で言葉が止まりました。
私は天上院様を殺しました。
他人が天上院様を殺すのと、私が天上院様を殺したこと。
それに違いがあるのでしょうか。
愛故に殺した? そんなものが免罪符になるのでしょうか。
『天上院弥子を殺した君に、彼女を救う資格があるのかい?』
岩融しを握る手が震える。
あれ?
私は、何の為にこの世界へ来たんだろうか。




