想いの冒涜
闇から伸びた腕はそのまま鎖となり、私の両腕を捉えた。
魔王サタン。
あぁ、何故忘れていたんだろう。
いや、きっと忘れさせられたんだろう。
「フィストよ。ワシはお主に伝えただろう?」
そのまま私の身体はサタンに捕らえられ、フィストと同じ様に身動きが出来なくなってしまった。
「幻術使いは、常に相手より先に一手を打つべし」
どうにか逃げることが出来ないかと体を揺すってみるが、縛られている上にサタンによって直接押さえられているため、脱出出来る気がしない。
「お主が未熟だった頃から今日まで、ワシはずっと幻術を掛けていたのだよフィスト」
サタンとマスター、つまりガンホリとの関係はゼロ達と同じく二百年以上続いている。
その過程ではガンホリの指示によって綿密な計画が練られており、フィストとサタンが出会った日にも彼女へ幻術を掛けるようにという指示があったらしい。
「まだ年端もいかない幼子であったお主に幻術を掛けることなど非常に容易い」
つまり、全てはサタンの掌の上だったらしい。
それを聞いたフィストは、少し呆然としていたが、何かを振り払うように眼光を強めて口を開いた。
「な、なら。ヤコと私の出会いも、あんたが仕組んだとでも言うの!?」
そうだ。
サタンとフィストが出会ったのは、私がこの世界に来た時よりも前の話。
最初から今日この時まで全てを仕組んでいたというのであれば、私がフィストを押し倒して告白をした瞬間すらも、サタン達の計画通りだということだ。
幻術だといっても、そこまで意志を操る力はないはず。
「ほっほっほ。お主達の初めての出会いの話は聞いたぞ」
サタンが私の右肩に顔を載せ、ニヤつきながら囁く。
「では問うが、その瞬間に不自然さは無かったか? 思い返すがいい」
確かあの時は、いきなり襲い掛かって来たフィストを返り討ちにしたはずだ。
そして動けなくなった彼女に近付いて、私の気持ちを伝えた。
ナイフで背中を何回も刺されたりしてかなり大怪我をしたが、最終的にフィストは私の気持ちを受け止めてくれたのだ。
「普通に考えてもみろ。直前に殺し合いをしていた相手に想いを告げられたからといって、恋仲になることは有り得ん」
じゃあなんだ、つまりサタンはこう言いたいのか。
フィストがあの時に私を受け入れてくれたのは。
「その恋心はワシに作られたのじゃよ。フィスト」




