深い闇
『……退けッ、主!』
ペニバーンの叫びで反射的に後ろに下がると、さっきまでいた足元が裂けた。
割れるというよりも、裂ける。
まるで目がゆっくりと開かれるように、地面が裂けたのだ。
私とガンホリとの間を別つ大地。
少し覗き込むと、まるで宇宙の様に果てなく底が続いていた。
「おっしーなぁ。落ちてくれたらオシマイだったのに」
危ない、というか本当に化け物としか言いようがない。
物理的な破壊力で地面を割ってるエクゼロなんぞとはレベルが違う。
理解不能というレベルの力を操っている。
「と、いうかさぁ。サタン、いい加減に仕事してよ」
なんだ、何を言ってるんだ。
胸が騒めく、嫌な予感がする。
『ほっほっほ、マスターには遊び心が無いのぉ』
「そのふざけた態度のせいでここまで計画が狂ってるんだけど」
『分かった分かった、やればいいんじゃろ』
頭の中に響く声。
ひょっとして、私は致命的なミスを犯してしまったのではないか。
何か重大な見落としが。
気付いた時にはもう遅かった。
私の全身に、破裂するような痛みが襲う。
『少しは善戦してるように見せた方が、美しいじゃろ?』
「ボクはさっさと片付く方が好みなんだけどね」
視界で色とりどりの光が瞬いている。
それは美しく輝いているのではない。
まるで私に警告をするように、何かに抵抗をするような瞬き。
再び私の意識は、身武一体の空間へと引き摺り戻された。
六つの扉に付いた宝石はその輝きを失い、不気味な目玉のような何かが周りに張り付いている。
他の扉が鎖のようなもので閉ざされている中で唯一、開かれた扉があった。
緑の扉だ。
誘われるようにその扉へと近付き、中へと入った。
「ヤ、コ」
そこにいたのは、両腕を鎖で吊るされているフィスト。
全身が擦り傷だらけで、乱れた髪の間から苦悶の瞳が覗く。
彼女の背中には、真っ黒というべき深い闇が広がっている。
「フィスト!」
「私を殺して」
フィストを殺す?
そんなこと出来るわけがないだろう。
そもそもなんでそんなことをしなくちゃいけないんだ。
むしろ、早く助けてあげないと。
鎖を外せないかと手を伸ばすが、フィストに蹴飛ばされてしまった。
「駄目、早く殺して。そして逃げて」
意味が分からない。
どんな理由でろうと、いくらフィストの頼みでも、それだけは聞けない。
お願いだから、大人しくしてて。
再び鎖へと手を伸ばす。
その手は、フィストの背後の闇の中から伸びて来た腕によって掴まれた。
「つーかまーえたっ」




