黄と赤
黄色の部屋にいたのはキハーノさん。
パンサさんが意識を取り戻していないショックで動揺していないか心配だったが、今の落ち着いた表情を見る限りは大丈夫だろう。
「キハーノさん」
「私は決めたぞ。ヤコ」
話しかけると、何かを決意した表情で目を鋭くさせるキハーノさん。
「パンサは必ず生きている。だから次に目覚めた時、彼女に平和な世界をプレゼントするんだ」
「それは素敵なプレゼントだね」
きっとパンサさんも喜ぶだろう。
怪しいだなんて私は疑ったが、キハーノさんは彼女を信じて、一緒にゼロを倒した。
そんな最高のパートナーが倒れても、生還を信じて戦いを続行することが出来るのは紛れもなく彼女の強みだ。
「あれだけ大口を叩いてゼロにトドメを刺せなかったのは私の責任だ。本当に申し訳ない」
「十分でしょ、私もまさかあんなことになるとは思わなかったし」
まさか死に掛けの老人とタッグを組んで大暴れを始めるなんて誰が予想出来るだろうか。
キハーノさんがその理由で責められるのであれば、私もエクスト王にトドメを刺し切れていない。
「もう一歩、きっとあと一歩なんだ。それを踏み出す力を貸してくれないか」
「うん。一緒に頑張ろう」
私が同意すると、キハーノさんは拳を掲げた。
ん? 何をしてるんだろう。
「人間は、誰かと一緒に頑張ろうとする時に掛け声をするものなんだろう?」
「あぁ、そういうことね」
キハーノさんが一体その知識をどこで仕入れたかは分からないが、そうしたいというのであれば拒否する理由はない。
私も拳を掲げると、キハーノさんはニコリと笑って口を開く。
それに合わせて、私も口を開いた。
「「えい、えい、おー!」」
二人の拳から黄色い光が輝き始める。
言った後に少しだけ気恥ずかしくなったが、光の中でキハーノさんが満足そうに笑っていたので、私も嬉しくなった。
そして光が収まると、最後の扉が私の前に現れる。
赤の扉。
最後の一人は、間違いなくあの人だろう。
その少し攻撃的とも言えるオーラが扉から漏れ出て私の頬を撫でるが、それに構わずドアノブを捻って中へと入った。
「遅いじゃない。私が最後だなんてふざけてるの?」
「遅れてごめんね。そんな心待ちにされてたなんて私は幸せ者だよ」
リリー・フリジディ王女。
相変わらず不敵な笑みで私を見つめ、軽口を飛ばして来た。
「ここで負けたら全部終わり。絶対勝たなきゃいけない勝負よ、分かってるの?」
「うん、私も美少女達と遊び足りないしね」
「気を抜くんじゃないわよ。勝ったと思っても、ひっくり返されるかもしれない」
確かに先程の私はエクスト王をあれだけボコボコにしたのだから、流石に大丈夫だと安心していた。
しかしその後も不意打ちで何かをされそうになったし、最終的にエクゼロへと変化する隙も与えてしまった。
今度こそ、私の愛する人達を守る為にも、「終わらせ」なきゃいけない。
「甘いコト抜かしたら殺してあげるわ」
「あはは、そんな怖いコト言うお口は塞がなきゃね」
フリジディ王女が私の首筋に手を伸ばして爪を立てて来たので、彼女の顔を近付けてキスをした。
私の視界を赤い光が包んでいくと、藍、橙、青、黄の光も弾けるように煌いた。




