見送り
私はその言葉に動くことが出来なかった。
いや、諦めていたのかもしれない。最後にドレッドと私を分けたのはそこなのだろう。
「おい、俺は付いてけねえのかよ」
でも諦めない人はいた。
私と一緒に今隣にいる人魚の少女を助けた男の子だ。
気絶していた獣人達を助けてくれていたようで、周りを見渡すと殆どが船の外に運び出されていた。
「力が増えすぎれば却って枷になる、行っても邪魔になるだけだ」
「……そうかよ」
これから中央王都で始まる争いは、どれほど苛烈なものになるのだろうか。
アルト王達が口にしていた『異形』との戦い。
そこに余計な者を庇う余裕などないのだろう。
「数が多ければいいというものではないのだ、分かってくれ」
本当に何も出来ないのだろうか。
精霊銃すら失った私には、ドレッドの隣に立つ資格も無いのか。
「おい」
乾いた音が聞こえた。
その後にじんわりと頬に広がる痛み。
ひっぱたかれたと気付くのに、少し時間が掛かった。
「シケた面してんじゃねえよ」
「ごめん」
「ガキの頃から変わんねえな」
子供の頃、ドレッドと一緒に特訓したあの頃。
永刻王になるべく、父に虐待まがいの特訓を強いられ、毎日泣いていた。
その時にドレッドと出会い、その強さに憧れ、自分の弱さを悲観した。
そして今も、彼女との差に絶望している。
「ちったあ成長してるとこ見せてみろ」
どうやって? 君との戦いに私は付いていけないのに。
「私が戻った時に、傷一つねぇエンジュランドを用意しといてくれよ」
私は英雄の活躍は出来ない。
でも王としての仕事はまだ残されている。
それはドレッドに出来ないことで、私にしか出来ないことだ。
「ヒストリアさん、そしてアレク。海底都市をお願い」
「絶対に生きて帰って来い」
「お前の帰り、ずっと待ってる」
傷付いて帰ってくるかもしれない。
その時に君が休める場所を、私達は用意しておくから。
「頑張れ」
「分かってる」
その言葉を最後に、しばし別れた。




