昇天
その声は、私の近くで聞こえた。
威圧的でありながら、優しさを感じさせる声。
何度も聞いたことがある、男の声。
『私の妻ともあろう女が泣くな、クラン』
その声は、私の太腿から聞こえてきた。
いや、正確にはそこのガンホルダーに差している銃からだ。
王銃エクスカリバーから、声が聞こえる。
『そこまで自分を追い詰めても、異形を殺すという発想に至れんのは、やはり操られているからなのか?』
エクスカリバーから光の球体が抜け出たかと思うと、それは私達の前で形を変えていく。
『ならばもう良い。私と共に、あの世で結末を見守ろうではないか』
死んだはずのアルト王が、私の前に浮かんでいる。
その遺体は私が看取った、なんなら私が殺した。
いや、宙へ浮かんでいる時点で生きてはいないのだろう。
まさか幽霊となって、エクスカリバーに取り憑いていたのだろうか。
確かにこの銃を手に取った時や身武一体をする時など、その存在を強く意識したことはあったが、まさかその感触が本当だったとは。
「でも、本当に異形は」
『分かっている。これも一種の諦めにしか過ぎないということも』
アルト王が振り返り、ドレッドへと手を伸ばす。
するとドレッドの体から黒いオーラのようなものがアルト王の手へと集まっていき、どんどんと傷が癒えていく。
そういえば王銃エクスカリバーには、持っていると体の傷が癒えていくという力があったとアルト王の手記に書いてあった。
力そのものとなっているアルト王には、その力を自在に操ることが出来るのだろう。
思い返せば、ドレッドに負けて海に溺れた私が、人魚達に救われてすぐに意識を取り戻したのも、この力によるものだったのだろう。
『私は信じてみたい。この子達が我らの、そして異形の想像を超えるのを』
全ての穢れを取り払い、傷を癒したアルト王は、再びクラン王妃へと振り返った。
『勝てないかもしれない。だが諦めるよりは可能性がある』
そしてクラン王妃を抱き締めると、二人の身体がどんどん薄くなっていく。
足の先から光の粒へと変わっていき、空気中に溶けて消える。
最後に、私達へと目線を寄越した彼。
『すまない、私達はここまでだ。頼む、勝ってくれ」
英雄達よ。
その言葉を最後に二人は小さな球体となり、ゆっくりと天へと昇って行った。




