運命に敗れた者達
魔術師の男の名はマーリン。
彼は異形から、精霊龍である私と獣人達を繋ぐ架け橋となるべく役目を任されていた。
異形によって認められた者としか喋ることが出来ず、誰にも相談することが出来なかったらしいが、同じ異形に操られている精霊龍は対象外だったようだ。
「私とマーリンは、異形に気付かれぬように接触しました」
しかし人並み外れた力を持っているといっても、所詮は二人。
出来ることはアルト王の銃である『エクスカリバー』を強化するなど、ささやかな事が限界だった。
ある日、マーリンが一つの提案をした。
「ペンドラー・ドレッドを、本来の人生から外れさせよう」
ペンドラー・ドレッドは導き手によって七色の英雄となる存在。
ならば、その本人が導き手と出会わないようにしたらどうなるか。
自分達の身は危うくなるかもしれないが、少なくとも異形の目論見は崩れる。
「だから、ドレッドは精霊銃を……」
精霊の儀にて、ドレッド・ペンドラーは精霊銃を受け取ることが出来なかった。
当然それを知った異形は怒り狂い、精霊龍を詰問した。
だが決して口を割らない精霊龍に、異形は冷めた表情でこう言ったらしい。
『そう、なら責任とって貰わないとネ?』
精霊龍は再び人の姿を与えられた。
ドレッドよりも幼い少女の姿にして、その傍で支えることを運命付けられた少女。
クランの誕生である。
「中央王都で導き手に出会ってしまった時、私は本当に絶望しました」
やはり異形によって描かれたシナリオは変えられないのか。
全ては奴の筋書きをなぞるだけなのか。
異形の思い通りに再び導き手と巡り合ったドレッドは七色の英雄として覚醒した。
そして『世界の六柱』と共に第二次中央戦争の開始が決定した今日、異形によって命令されたクランに操られ、こうしてここにいる。
「そして私は思い付いたのです、最悪の解決法に」
ドレッドを殺せば、まだ可能性はある。
それでもゼロ達が足りない分を殺戮するとは思うが、少なくともドレッドの担当は少なくなる。
生き残っている人物が多ければ多い程、異形の企みがひっくり返る可能性はある。
だから命削りの禁止された薬物を飲んで、異形の命令に形式上従いながらも、ドレッドの暴走を強制的に止めた。
「私は、我が子を救う道を諦めたのです」
導き手と関わらなければそれで良かった。
例えそこが陽の当らない裏社会でも、大量殺戮兵器になるよりは良かった。
「ごめんなさい、本当に、ごめんなさい」
運命を変えようとして、変えられなかった女の涙が地に落ちる。
その痛ましい姿に声を掛けられる者はいなかった。
贖罪の方法が無い彼女が背負ったモノを、許せる者はこの世界にいなかった。
いるとしたら、一人だけ。
『まだ、諦める時ではない』
既にこの世にいない、死んだ男くらいだろう。




