身武一体の反動(アレックス)
「……ここは?」
何やらトライデントに絞め落とされてから、長い間気絶していた気がする。
あっ、そういえばティーは大丈夫なのか?
「やっと身武一体が解除されたか、随分と長かったようだな」
身武一体、その単語を聞いてフラッシュバックする先程の悪夢。
とても逞しい肉体の男に抱き着かれるという全く嬉しくないイベント。
「そ、その話はもうよしてくれ」
「何を悶えているのかは知らんが、とりあえず今はこの女を説得するのを手伝ってくれ」
そう言ってヒストリアさんはティーを指差しながら今の状況を説明してくれた。
俺達がティーを救出したのはいいが、現在何やら得体のしれない少女から、ガラードさんを追いかけることを提案されているという状況らしい。
「別にいいんじゃねえか? ガラードさんには恩もあるし」
「事件の直後だぞ、もっと慎重になるべきだ。確かに一緒に戦った恩はあるが、それを言うならばこちらも溺れていた彼女を助けた恩がある」
あー、確かにそれを持ち出されると弱いな。
クラーケンを直接操作してガラードさんを助けたのはヒストリアさんだし、そこを持ち出されると何も言えない。
そして何より、ティーに無理をして欲しくないってのも事実だ。
ここはティーを説得するしかなさそうだな。
「なぁ、ティー。確かにヒストリアさんの言う通り……だっ!?」
な、なんだ。
ティーの顔を見た途端、胸の動悸が激しくなった。
ちょっと待ってくれ、めっちゃ可愛くねえかこの子。
いやおかしい、なんでいきなりこんなにティーが可愛く見えるんだ?
確かに俺が知ってる中で一番可愛い女の子だとは思ってたけど、今までこんな気持ちになったことは一度もない。
落ち着けアレックス、こんな可愛い子が俺に釣り合うはずがねえだろ。
「アレク……お願い、いかせて?」
可愛いぃいいい!
ちょっと待って、頼むからそんな切ない表情でお願いしないで。
なんで!? ティーの顔がまともに見れねえ、おかしいだろ。
「いや、あの。ほら、今はやっぱりティーが心配だし……」
「私なら大丈夫だから、お願い」
「わ、わかった。なら」
「おい馬鹿」
思わず了承しかけたところで、ヒストリアさんにぶたれた。
いてえ、何すんだと言いかけたが、鬼のような形相で睨まれたので何も言えなくなってしまう。
「いいか、ちゃ・ん・と! 説得しろ」
「はい、ほんとすみません」
そうだ、俺はティーを守るって決めたんだ。
なら、厳しく接しなければならないところは、しっかりしなきゃ。
改めてティーに向き直り、その目を真正面から見据え……るのは凄え恥ずかしかったので、ちょっと目を逸らした。
しかし、俺が話しかけるより先に、ティーが口を開いた。
「アレクは私を守ってくれるんでしょ? なら大丈夫じゃない、だから、お願い!」
「当たり前だろ、今すぐ行くぞ!」
「おい少年!」
すまん、ヒストリアさん。
俺、ちょっとティーに逆らうのしんどいわ。




