涙
裏切った、そうかパンサはそれを悩んでいたのか。
「なぁ、パンサ」
「はい。リーダー」
「私は、君が私達を裏切ったとは思っていない」
だって本当に裏切ったのなら、捕まった私達をゼロから助けてくれないだろう。
きっと情報をゼロに伝えた時点で、自分が助けられるように行動していてくれたのだろう。
「君はかけがえのない親友だ。君の告白を、私は全て受け入れて許す。だからパンサも、自分自身を許してくれ」
大丈夫だから、そんなに辛そうな表情をするな。
仕方がないことだっただろう。
むしろ、パンサがゼロの命令を拒否していたとしたら、不審に思ったゼロがより強固な対策をしていたかもしれない。
「ありがとうございます、リーダー」
パンサの目が、少しだけ光を取り戻した気がする。
不思議だ。私を含めて、人工生命体の体は基本的に無機物で構成されている。
だから、こんなヤコのように人間のような肉体的な反応があるはずはない。
いや、それどころか。
「……えっ、なんで」
パンサの目から流れ落ちる、一筋の雫。
なんだ、それは。
いや、現象は知識として知っている。
「え、液漏れですかね?」
「それは、まさか。涙か?」
涙。目の乾燥を防いだり清潔さを保つ効果があるらしいが、感情の乱れによって流れ出ることもあるらしい。
その乱れとは、悲しい時や辛い時らしい。
つまり、私はパンサを悲しませてしまったのだろうか?
「なんで。こんな機能は無いはず」
「す、すまない! 私は何か君を傷付けることしてしまったか?」
「違うんです」
私は嬉しいんです。
そう言ってパンサは私に抱き着いてきた。
本当に怖かったこと、自分の選択が正しいのか何度も迷ったこと。
そんなことを溢すようにして私の胸ですすり泣く。
「リーダーが許してくれなかったらどうしよう、そんなことばっかり考えてました」
そこまで思い詰めていたのなら、私に相談してくれても良かったのに。
いや、それは無理だっただろう。私は自分のことしか考えていなかった。
パンサに育ててもらう、守ってもらうばかりで、パンサの事を考える余裕は無かった。
そんな私がそんなこというのは間違いだろう。
いや、だからこそだ。
これからはその度量を持てるほど懐の広い人物になろう。
「パンサ」
「はい」
「これからも、よろしく頼む」
私の成長には、やはり君が必要だ。
そして私は、もう君にもたれかかるだけの人にはならない。
君を支える力を、これからは培っていくから。
だから、私を支えて欲しい。
パンサ。
「はい。こちらこそお願いします、リーダー」
パンサはまだ乾かない涙を拭って、微笑んだ。
私とパンサを、再び優しい光が包んでいく。




