Side:キハーノ
目の前に立ちはだかる大きな壁。
打ち勝つことを何度も夢見て、結局跳ね返された圧倒的存在。
私の攻撃を一切通さぬ鋼の体に、一撃で叩き潰す破壊力。
正直、私欲を捨ててヤコに任せた方が良かったのではないかと思う気持ちは少しある。
だけど、やるって決めたんだ。
「邪魔をするな、ポンコツ共が」
お前からすれば、私達の存在はそんなもんだろう。
吹けば飛んでくような木っ端、路傍の石ころに虫けら。
だけど私は、ずっと意識していたんだ。
それは妄想に過ぎないのかもしれない、現実を見ていない考えかもしれない。
「勝てると思ってるのか? 自分を鏡で見てみろ」
私の姿は自作の鎧であるロシナンテに包まれた最強の姿だ。
天を駆け悪を滅することを女神に誓った騎士にだけ与えられる神聖な鎧であり、着た者は空を支配し裁きを与える力を手に入れた。
輝く六枚の翼……は今は実体が無いが、大天使の祈りが込められた愛の象徴であり、悲しき咎人に最後の救済を与えんと光よりも早く駆け付ける為にある。
女神の使徒である証が刻印された鎧はあらゆる災厄から身を守り、染まらぬことを示した純白は必ずや罪を浄化する。
そんな最強の鎧、ロシナンテだ。
「何も恥じることは無い、騎士の姿が映るはずだ」
「ガラクタを纏うポンコツとは、実に哀れな姿を見せてくれるな。こんなものが、私の担当する英雄だというのだから情けなくなってくるよ」
ゼロがその腕を振り被り、私を殴り付けた。
「……馬鹿な」
掠り傷一つ付かない。
私も、ロシナンテにも。
吹き飛ばされた過去の私はもういない。ここに立っているのは最強の騎士だ。
「どういうことだ。導き手がそこまでの影響を与えたのか!?」
私は隣に立つパンサへと手を伸ばす。
力を貸してくれ。まだ少し足りないんだ。
この壁を超える、いやブチ壊すには、半端な力じゃいけない。
愛する友は、何も言わずに手を伸ばしてくれた。
その手を握ると、私とパンサの間から弾けるような光が溢れ出した。
ありがとう、これで必ずゼロを倒せる。
最強の騎士は、誰からも愛される理想の騎士になるだろう。
眩い輝きが、私とパンサを包んでいく。




