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女だけど女の子にモテ過ぎて死んだけど、まだ女の子を抱き足りないの!  作者: ガンホリ・ディルドー
第一章 魔族のフィスト
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天上院弥子が愛した女 魔族のフィストーSide4ー

 『不貫の王女』は最上階から飛び降りて、ヤコの前に現れる。


「本当にやるの……?」


 隣のビッケが不安そうな声で呟く。


「私達は最初っから、祈る事しかできないでしょ」


 モニターに映るヤコの顔は、降りてきた王女を見て、さらに笑みを強めた。

 私の醜い嫉妬心は、また疼く。


「ヤコさんが心配じゃないの?」

「止めたところで聞くような性格なら、ヤコはそもそも王都祭に参加してないよ」


 ヤコはこの世界の美少女を探している。

 なら遅かれ早かれあの王女とはいつか会っていたはずだ。

 もう何度目かわからない言い訳を、自分に言い聞かす。


 邪悪なオーラを纏う王女と、挑戦的に笑うヤコはいくつかの言葉を交わした後に、己の武器を

召喚して戦い始めた。

 いくらやっても王女に有効打の与えられなかったヤコは、王女から距離を取ると、夜空に槍を掲げる。

 光に包まれたヤコは、誘拐犯と戦った時の姿となって再び現れた。


 これでヤコは王女に有効打を与えることが出来るようになるかもしれない。

 そう思った瞬間、驚くべき光景を目にした。

 なんと王女も盾を夜空に掲げると、ヤコと同じように変身したのだ。


 これは非常にマズイ。

 ヤコの変身には時間制限があるということを知っている。

 王女にもそれはあるのだろうが、モニターから聞こえてくる二人の会話を拾う限り、ヤコの変身が先に切れるのだろう。

 ヤコは王女に対する決め手が無くなったばかりか、変身解除後に大きな隙をさらすことになる。


 そしてタイムリミットが近づいてきた。

 ヤコはそれに焦っているのだろうか、攻撃が単調になり、ヤケクソと言った具合に攻め始めた。

 それを余裕で防ぎ切る王女。


 ついにヤコは変身が解除され、膝から崩れ落ちる。

 そんなヤコに、獲物を追い詰めた捕食者の如くゆっくりと近付いていく王女。


「ヤコ!」

「駄目よ! フィスト!」

「このままじゃヤコが!」


 『私なんか』が『あの王女』からヤコを取り返せるはずがない。

 でも、やらなきゃいけない。

 そう思った。


「競技場で決められたもの以外が勝手に入って勝負を妨害するのは重罪、それにもう……間に合わないわ」


 そんなこと分かってる。

 でも


「ヤコーーーーーーー!」


 小さな私の叫びを、巨大な現実は簡単に押し潰した。

 王女の洗脳が完了し、ヤコの目がゆっくりと開かれる。

 モニターに映るその目は、どこか遠くを見つめている。

 間違いない、洗脳された者特有の自我を失った目だろう。


「あは、ドスケベさん。貴女の名前を教えてちょうだい?」


 王女は新しく手に入れた玩具に命令を下す。


「永遠に愛してあげるわ」


 そして玩具はゆっくりと口を開く。


「永遠とは何か」

「へ?」


 ヤコは、会場全員の予想を裏切った。


「貴様は神にでもなったつもりか? 無知を知れ」


 その後、変身が解除された王女のせいもあり、王都祭は大混乱する。

 足にしがみついた王女を引き摺りながら退場するヤコを、私とビッケは会場を足早に去って追いかけた。

 幸いペガサスのおかげでヤコはすぐに捕まえることができ、ビッケとはここで一旦別れて私はヤコを連れて宿に帰る。

 今日は私は精神的に疲れたし、ヤコも大暴れして疲れたので、宿に帰ってヤコが正常に戻った後はすぐに寝た。


 翌朝起きてスマホのニュースを確認するまで、もっと大変なことになるとは夢にも思わずに。



 翌朝起きて隣を見ると、ヤコはまだ寝ていた。

 昨日は王都祭で疲れただろうし、今日は好きなだけ寝かしておいであげよう。

 そう思って私は宿の食堂に行って適当なパンを見繕い、ヤコにあげる為に包んでもらった後、自分はコーヒーとサラダを持って適当な席に座る。

 そしていつも通りスマホを起動して情報局にアクセスした後


 コーヒー噴き出した。


「ブフォッ!」


 女の子としてやっちゃいけないランキングでもかなり上位に食い込む行為だと思うが、今はそんな気音気にしてはいられない。

 なぜなら王家からの勅命依頼として、

 「ドスケベ=クイーン三世を捕縛せよ」

 とご丁寧に顔写真付きで載っていたからだ。


 私はすぐに部屋に戻って荷物を纏めた後、ヤコを叩き起こして転移陣のある広場へ向かう。

 だが遅かった、既に治安委員によって封鎖されており、私たちは車をレンタルして逃げることにした。


 だがその車も結局は治安委員によってジャックされ、道路を封鎖された後に追い詰められてしまった。

 そしてやって来たアイツ。


「うわぁ、『鉄の女』だ」

「知っているのかい?」

「知っているどころか戦ったことすらあるわよ」

「結果は?」

「惨敗」


 私のトラウマ。

 その象徴ともいえるべき人物が、私の目の前に、私の愛する人を捕まえようとやって来た。

 あいつに私の幻術は効かない。

 私はヤコにアイツを任せて、補佐官の相手をした。

 私じゃ敵わないと思ったからだ。だから私より強いヤコに任せた。


 だけど、そのヤコもアイツには敵わなかった。


 だからヤコの代わりに攻撃を受けた時、私は一つの決意をした。

 私が囮になって、ヤコを逃がそうって。


 さっき補佐官二人と戦って気付いたことがある。

 幻術を使って戦う私を、あいつは一度として正面からその目で捉えたことはない。

 4年前は気付けなかったが、ヤコにアイツを任せて冷静に観察できた今だから分かった。

 アイツは私の幻術を見破ってたんじゃなくて、アイツの武器が私の体を自動追尾して攻撃してるだけなんじゃないかって。

 その理論が正しければ、アイツを欺くことが可能だ。


 私に回復魔法を掛けてくれるペガサスに、作戦を伝える。

 渋ってたけど、最後には私のお願いを聞いてくれた。


 まだ若干痛む体をどうにか起き上がらせて、思う。


 これでいいんだ。

 私は『結構』強い程度でしかない。

 本当の強者と戦えば、あっさりと負けてしまう。


 これでいいんだ。

 こうすればヤコは私を忘れて、他の、もっと美しい子とまた付き合える。

 ヤコは『私なんか』で収まる器じゃない。

 ヤコが別の女を見る度に、笑いかける度に嫉妬する、醜い私なんて


 『私しか見れないようにしてあげる』?

 こんな醜い私を、ヤコに見て欲しくない。

 『王女より私を選んで欲しい』、なんて思ってた私。

 こんな私が、あの世界で最も美しい王女に勝てるはずない。


 だから私は『アイツ』に立ち向かった、二度とヤコと会わないように、死のうと思って。

 でも、結局私は死ぬのが怖くて、『アイツ』が用意した『逃げ道』に、醜く縋り付いた。

 なのに


「貴女は、世界の何より美しい」


 ヤコは私に、そう言ってくれた。

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