不死鳥
エクスト王によって貫かれた私の胸から噴き出したのは、赤い血では無く青白い炎。
遠のいたはずの意識が、まるでその光へと導かれるようにして再び蘇った。
穴が開いているはずの胸に痛みを感じることは無い。
ただ私の胸から空へと舞い上がる光を見つめていた。
青い炎は杖を辿り、エクスト王へと襲い掛かる。
「クッ。なんだ、これは!」
エクストは顔を顰めて私の胸から杖を引き抜いた。
すると私の胸が塞がっていくと共に、蒼炎は形を為していく。
燃え上がる炎のように激しく、それでいてどこか懐かしさを感じさせる温かさ。
広げた翼は私を包み、その咆哮は天へと届く。
その青い炎の鳥に、私は愛すべき友を幻視する。
「ロウター……?」
あまりに姿が違い過ぎる。
だが、その凛とした翼は見間違えも無い彼女のものだ。
「不死鳥だと!?」
「存在進化……ユグドラシルだな、余計な事を!」
見惚れていた私を好機と見たか、ゼロが私へと殴り掛かるも、ロウターによって生み出された炎の壁に防がれる。
そして殴られた炎の壁から大きく開かれた嘴が現れ、そのままゼロを飲み込んだ。
「すまない、我が主。少し遅れてしまった」
何を言っているんだよ、君は。
私は自分の事を世界一カッコいいと思ってるんだけどさ。
「今のロウター、最高にイケメンだよ」
ゼロも一筋縄ではいかない。すぐに炎を振り払い、再び私達へと狙いを定める。
しかしその前に、キハーノさんとパンサさんが立ち塞がった。
「ヤコ、一生に一度の頼みがある」
ゆっくりとこちらへと近付いてくるゼロに対して怯む様子もなく、真っすぐにその身を構えている。
「もう一度、ゼロを私達に任せてくれ」
「その間に、エクスト王をお願いします」
「分かった」
キハーノさん達はゼロへと挑み、二度の敗北という辛酸を舐めた。
トレボールでの戦い、そして先程の一戦。
どちらも戦いという土俵にすら立てず、圧倒的な力の差で捻じ伏せられた。
しかしそれでいて尚諦めることなく挑むというのなら、私はそれを尊重したい。
「ヤコさん、本当に大丈夫なの?」
「無理しないで、逃げ道はどうにか作ってあげるから」
ビッケさんとフィストが、ロウターに包まれている私を心配そうに覗き込む。
美少女に窮地を救われた上に心配させるだなんて、本当に私も堕ちたもんだよね。
そろそろ格好付けとかないと、天上院弥子の名前が廃る。
「問題無いよ」
立ち上がると、この世界に来てから何度も目にした光が私を包む。
エクスト王、ちょっとそこで待っててよ。
次に見る私の姿が、お前が最後に見る光景だ。
ロウターが存在進化した原因は、92話「また説明だけどコンプレックスだけど話を戻すけど」をご参照ください。




