身武一体解除
少し迷った後、人魚の少女は立ち上がって人間の少女の手を取った。
この怪しい風体の少女について行くのは正直かなり危険が大きいと思うのだが。
目的もイマイチはっきりしない上に、戦闘能力が高いのは先程確認している。
歌姫の力は先程滅したので、悪用されることは無いであろうが、折角助けたのにも関わらずまた攫われてしまったでは主殿が報われないだろう。
「待ってくれ、我もついて行こう」
「えっと……えぇ、構いません。是非一緒にいらしてください」
先程からこの人間の少女は何者かと通信しているかのような素振りを見せている。
しかし気配を探っても、ミューズのように何かを感じることは無かった。
二重人格の類か何かであろうか。
どちらにせよ警戒が必要なのは間違いないだろう。
「オイ待て、何処に行く気だ」
人間の少女に導かれ、獣人達への下へと向かおうとすると、白黒の人魚殿がそんな我々を見咎めた。
ちょうど気絶していた者達を搬送し終わったようだ。
「さっきの獣人さんの下へ向かおうと思って」
「なんだ、恩返しか何かのつもりか?」
「そうじゃないけど……」
そう言ってティーエス殿は人間の少女へと目を向ける。
視線を受けた少女は若干困惑しつつも、しっかりとヒストリア殿を見つめ直す。
「私が、付いて来てくださいとお願いしたのです」
「ほう、何故だ?」
「それは……」
まるで目的は本人にも分からないとでも言いたげだ。
本当にこの少女が掴めない。
ヒストリア殿の目付きも険しくなっていく。
「そして都市長、正直ガッカリだぞ。こんな事件の後なのだから、もっと自分の立場を自覚して慎重になるべきだ」
むぅ、それを言われると私も弱い。
確かにここまで怪しいのだから、付いて行くなどと言わずに引き留めるべきだった。
私が自分の判断を後悔し始めた時、意識が遠くなっていくのを感じた。
あぁ、身武一体の時間切れか。
かなり持った方だろう、初めてにしては上出来過ぎる。
そういえば主殿に身武一体のデメリットを伝えるのを忘れていたな。
まぁ、主殿ならどうにかするだろう。




