ヘイヴァーの港にて
ミューズの胸に槍が突き刺さると、その体は砂の様にして崩れ落ちていく。
同時に、獣人と戦っていた少女が倒れ伏せる。
「貴女も、操られてたってこと? やっぱりドレッドは……」
武器を取り落として、電池が切れた玩具のように動かなくなってしまった人間の少女を見下ろして、獣人は何やら呟く。
周りを見渡せば、ミューズによって操られていたと思われる人魚が動けずに倒れている。
「大丈夫なのか? この者達は」
「洗脳は被害者の精神に強いストレスを与える。今はその疲れで深い眠りに落ちているだけだろう」
しかし、まるで人形のように動かない彼らを見ていると不安にしかならない。
一人一人の脈や呼吸を確認したが、異常を感じる者はいなかった。
「船も壊れてしまっていることだし、海底都市に戻るよりも、このままヘイヴァーの港へと向かった方がいいだろう」
そう言って白黒の人魚が額に手を触れると、ゆっくりと船が動き出した。
恐らくこの船を運んでいるクラーケンを動かして、港へと向かっているのだろう。
ミューズの力は巻き込む人数が多ければ多い程に厄介になる。
今地面に転がっている者達には申し訳ないが、この程度で済んで良かったという気持ちはある。
負傷者達の応急処置をしながら船内を回っていると、ヘイヴァーの港に着いた。
「……あれは!」
船の外へと気絶している人魚達を運び出している最中、獣人の少女がある一点へと視線を向ける。
そこには少し他よりも立派に見える船が停泊していた。
「どうした、ガラードさんよ」
「あれが、私の友人によって奪われた船だ!」
居ても立っても居られないといった表情で、その船を見ている獣人の少女。
今すぐにでも確認に行きたそうであるが、船内にいる怪我人をほっといてでも行くべきかと葛藤している。
迷っている彼女に白黒の人魚が近付いていく。
「貴女は我々に協力してくれている立場。我々の一番の問題は解決した今、ご自身を優先なさってください」
獣人の少女は申し訳ないと一言呟いた後、大急ぎで向こうの船へと走っていった。
「さっさと怪我人を病院へと運びたいのだが、何やら慌ただしいな」
ガラードと呼ばれた少女を見送り、さて怪我人達を運び出すかと思ったが、何やら人間の町が騒がしい。
どの人々も皆が必死の形相で、我先にと辺りを駆けまわっている。
とてもではないが、落ち着いて療養などと出来る雰囲気ではない。
「「ん、んっ」」
そんな中、二人の少女が目を覚ました。




