海戦決着
さっきから我、いや正確には我が主を少年と呼び続ける人魚が心配そうにこちらを見つめてくる。
彼は確かこの場所まで導いてくれた人魚のはずだ。
「少年。先程も言った通り、少女を一瞬でも行動不能に出来れば、その隙に私が洗脳を解除出来る。戦えるのか?」
なんと渡りに船か。
つまり私がやればいいことは全力でミューズに体を乗っ取られた少女をぶちのめせばいいという事だな。
先程から我が主の反応が無いのだが、恐らく戦いに集中している為だろう。
ならば私はそれの全力サポートをするのみ。
「ふふ、どうやら動きも出来ないみたいね」
愉快そうにしているミューズに向かって、我は主と共に全力で駆け寄った。
そして思いっきり股間のトライデントを構え、真っすぐに突き出す。
「何!?」
驚いたミューズが面食らうが、もう遅い。
悪いが一撃で決めさせてもらうぞ。
トライデントの周りに宙を漂う水流が生まれ、螺旋となって少女へと襲い掛かる。
本当に不意打ちだったのか、まともにその威力を食らうミューズ。
「愛する人に、一切の容赦無し……ですって?」
いやはや凄いな主殿は。
例えそれが愛する者であろうと、間違っていたのならば全力を持って止めるという覚悟の表れなのだな。
主はどうしても手加減してしまうだろうと思い、私はその分も全力を出させて貰ったのだが、力を受け取った主はその威力を一切弱めることなく少女へとぶつけた。
「大丈夫なのか? いや、それよりも解除が先だな」
さしもの容赦の無さに引いているように見える白黒の人魚殿だったが、気を取り直してミューズに支配された少女へと近付いていった。
そしてその頭に触れて目をつぶる。
「これが歌姫の力の正体か」
そしてどこか懐かしそうに呟くと、自嘲したように笑って再び何やら集中を始めた。
「トライデントよ。きっと少年の中にいるのだろう?」
そして目を瞑ったまま、こちらに語り掛けてくる。
ひょっとして呼ばれたか?
「呼んだか?」
「……やはりそうか。あの未熟者があんなに全力でこの女を殴れるわけがない」
思わず返事をすると、何故か私の声が主の口から流れ出た。
凄まじい一体感だな。もはや私の考えていることは主の考えていることと同化していると言っても過言ではない。
そして何やら主が馬鹿にされたような気がするぞ。
「この『歌姫』の力、どうすればいいのかを知っているか?」
「自由に扱えるというのなら、遠慮なくぶっ潰してしまってくれ」
その方が世の為である。
「……残念ながら私には強大過ぎて、破壊するのは不可能だ」
「ならば主の体へと移動させることは可能か? それが出来るならば後は私がやる」
「分かった」
すると人魚は少女の頭から宝玉のように美しい藍色の泡を抜き取った。
ふむ、相変わらずその心と異なり、見てくれだけは上等な女よ。
そしてそれを主の胸へと押し付けると、身体の中に溶ける。
同時に昔に見たまま何も変わらぬ姿のミューズが、精神空間にいる私の前へと落ちて来た。
私はトライデントとしての姿となり、そのままミューズを突き殺した。




