男と男の熱い抱擁
眩し過ぎる光に目を閉じて、再び見開くとそこは透き通った水底のような場所だった。
僅かに差し込む光に照らされ、神聖とも言える神々しさを放つその場所。
ここは一体どこだ、もしかしてさっきの光はトライデントが爆発した光で、俺は溺れちまったのか?
唐突に変わった状況に戸惑う俺の背後へ、低く重々しい声が投げかけられた。
「今こそ身武一体の時だ、新たなる主よ」
驚いた俺が振り向くと、そこには上半身が裸で筋肉質な渋い顔のオヤジがいた。
俺と同じ人魚のようだが、魚としての特徴はどうやら下半身にあるようだ。
「お、お前は?」
「我が名はトライデント。主が持つ槍の心そのもの」
急展開に思考が追い付かない。
俺の持つ槍の名前は確かにトライデントだが、目の前のおっさんがトライデントの心だって?
確かに酷くやかましい槍だとは思っていたが、まさか本当に心が宿っているだなんて。
「……ふむ。主の体からは、強いエネルギーの残滓を感じるのだがな?」
トライデントは首を覆い隠す程に伸びた髭をいじりながら、俺に顔を近付ける。
ちょい、近いっておっさん。ティーにその距離で接近されたらドキドキしちまうが、おっさんにその距離で迫られても不快感しか湧かねえって。
「体は経験済、心は未経験。これは一体どういうわけだ」
知らねえよ、何が言いてえんだコイツ。
俺は俺が知らないうちになんかやってたのか? 怖いわ。
「まぁいい。主にこれからワシの力の全てを貸そう」
そう言うとトライデントは両腕を広げ、俺に抱き着いてきた。
いや、ちょっと何してんのお前マジでやめて。
突き飛ばそうと思って胸板を掌で押すも、圧倒的な筋力差でビクともしない。
「身武一体は精神の繋がり、それ以上でもそれ以下でも無い。我を受け入れるのだ、主」
やだよ気持ち悪い。
身元が判明してるとはいえ、なんで初対面同然のおっさんに身を委ねなければならんのだ。
だがトライデントは抱擁の力を更に強め、俺は全く身動きが出来ない。
待ってくれ、呼吸が苦しくなってきた。
受け入れろも何も、このまま窒息死しそうなんですが。
「ふむ、抵抗力が弱まってきたな。いいぞその調子だ」
やめて、ほんとに死んじゃう。
息が出来ない、吐きそう、肺が爆発する。
抵抗力が弱まって来たってそれただの呼吸困難。
「流石、どうやら体は学習済のようだな。きっとすぐに馴染むぞ」
俺はそのまま意識を失った。
視界がブラックアウトする直前、再び眩い光に包まれたのだけは見えた気がした。




