清宮姫子VSガラード
「ティー、正気に戻れ!」
「素敵な王子様の登場ね、とても感激だわ」
今回のティーの様子はどこかおかしい。
前回海底都市で暴走した時は、少なくともこんな風に会話が成り立つ状態じゃなかった。
壊れたラジカセのようにひたすら叫び狂っていたはずだ。
しかし今のティーにそんな所は見当たらない。
「なんでこんなことをしてるんだ? 今すぐ船を戻せ!」
「私ね、喜劇より悲劇の方が好きなのよね」
会話が通じるのならばとティーに向かって叫ぶが、俺の言葉はまるで届いていないようだ。
ティーはどこか輝いてるように見える左目を軽く押さえながら右手を挙げる。
「危ない!」
気付けば俺はガラードさんに突き飛ばされて、思いっ切り船の壁に背中をぶつけた。
痛みを堪えながらも何事かと顔を上げれば、そこには白く輝く美しい体毛を纏った獣が、黒髪の少女の振り下ろす刀を両手で挟み込んでいる姿が見えた。
「真剣白刃取り。生で初めて見ましたし、まさか自分がされるとは思ってませんでしたわ」
黒髪の少女はそう言って獣の胴体を蹴り飛ばして距離を取る。
見覚えがある、確かティーが行方不明になる直前に出会っていた人間の少女だ。
まさかティーがおかしくなったのはアイツのせいか?
「ヒメコさん、だっけ? ねぇ、ウチのドレッドがおかしくなったんだけど、貴女のせいだったりするの?」
「さぁ? どうでしょうね。そうだと言ったらどうします?」
「殺す」
白い獣がそう言って、刀を持った少女との戦闘を開始した。
状況から察するに、恐らくアレはガラードさんなのだろう。
しかし人間の少女のような外見から突然あのように二足歩行の獣になるとは、よくわからない生態だ。
「おい。呆けている暇はないぞ」
すっかり二人の戦いに見入ってしまっていた俺を現実に引き戻す声。
気付けばティーとヒメコと呼ばれた人間の少女以外の船内にいた人魚達はヒストリアさんが片付けていた。
「悪い、そうだったな」
「あの人間は任せておいて、我らは本命を叩く。一瞬でも行動不能にさえ出来れば、後は私がなんとかしよう」
「わかった」
俺はいよいよトライデントをティーへと構える。
初めてこれをウミオー様から貰った時は、これでティーを守るのだと思ったものだが、まさかこれをティーへと向ける日が来るとは思わなかった。
トライデントは更に輝きを強め、今にも溢れ出さんばかりの力が伝わってくる。
「ん? いやちょっと待て」
光り過ぎじゃねえのこれ?
そう思った時、俺はトライデントから放たれる眩い光に包まれた。




