勇ある者達
「見えて来たぞ!」
クラーケンを使った移動方法にも慣れ、全力でティーを追いかけていたが、遂に彼女が乗る潜水艦を視界に捉えた。
漸くこれで取り戻せる。そう思った俺は覚悟を決めてトライデントを握り締めた。
「ん、なんだ?」
しかし、隣のヒストリアさんが何やら目を顰めている。
その視線の先は潜水艦……ではない、別の場所だ。
何を見ているのだろうかと思って俺も視線を移すと、よく見れば何やら人影のようなものが海底に向か合って落ちていく。
「お、おい! なんだあれ、ヤバいんじゃないか?」
「人影……だな、間違いない。進路上だ、ついでに助けるぞ」
介抱は出来んがな。
そう呟いて、ヒストリアさんはクラーケンに指示を出した。
俺達は今からあの船に乗り込む。残念ながら溺れている人を見かけたからといって、救助している時間は無い。
本当に申し訳ないのだが、優先しなきゃいけないことがあるんだ。
何より、あの人が生きているかどうかも定かではない。
船は俺達から逃げるように進んでしまうものの、人影はゆっくりと水底に落ちていくだけだ。
クラーケンは少しだけそちらに体の向きを変え、素早くその触手で捕らえた。
「ここでは呼吸が出来る、応急処置の真似事くらいは出来るだろう」
触手によって俺達の下へと体を運ばれた人物は、少なくとも俺達のような人魚では無かった。
立派な鎧を身に着けた、頭に小さい耳が生えた銀髪の少女。
見た目は人魚よりも、ヤコのような人間に似ている。
「……恐らく、獣人だな」
獣人、授業で聞いたことがある。
二百年前の中央戦争で、争った種族の内の一つだ。
確かに言われてみれば、教科書に書いてあった特徴が見受けられる。
「しかしなんでだ?」
「知らん、だがどうやら意識はあるようだな」
水の中で眠っているとは、一体どういう種族なのだろうか。
目覚めないかと頬っぺたを抓ってみたりした結果、うなされたような声を出したあと、ゆっくりと目を見開いた。
「お、目覚めた」
「ん……」
獣人の少女は寝惚けた目を擦った後、周りを見渡した。
体はクラーケンの巨大な触手に捕まれ、目の前には人魚の俺達。
物凄いスピードで流れている水底の光景。
「なるほど」
そして何やら神妙な顔で呟いた後、キリッとした表情を見せた。
「夢ですか」
いや違えよ。




