次回、当初の最終回
部屋の中は生温い風と少し鼻に付く甘い香りの香水で満たされ、一歩を踏み入れた途端に顔に張り付くような不快感が襲った。
なんだろう、ムカムカする。凄い気分が悪くなりそうだ。
隣のフィストも顔を顰めていたが、ビッケさんに関してはどこか居心地良さそうな顔をしていた。
「ヤコ・テンジョウイン以外に、入室許可を出した覚えは無いわよ」
部屋と言うにはあまりに大きい、それでいて中央にあるベールに包まれた天蓋付きのベッド以外には何も無い空間の中を進むと、咎めるような声が聞こえた。
フィストが知ったことかという表情で歩を進めたが、ある場所を境にして突然足を止めた。
首筋から冷や汗を流し、思わず一歩引く彼女。
「どうしたの?」
「わかんない。でも、なんか凄い気持ち悪い」
なんだそれ。
それ以上は一切進もうとしないフィストの隣を歩いた。
すると、フィストが立ち止まった場所を通り過ぎた時、不思議なことに触ってもいないヴィエラさんのカチューシャが地面に落ちる。
相変わらず不快感はあるものの、それ以上は何も感じない。
ただ、カチューシャが地面に落ちただけ。
「……無理、です。私、この先いけません」
「ごめん、私も、それ以上いけない」
ヴィエラさんのカチューシャが自然に落ちる、そんなことは有り得ない。
人工生命体と戦う時、トレボールから脱出する時と思いっ切り動いたが、ヴィエラさんのカチューシャが落ちた事など一度も無かった。
フィストは私をアイディールさんから守る為に、自らを犠牲にしてくれたことがある。
彼女の想いは本物であり、出来ることならば私と一緒にフリジディ王女と会うつもりだったのだろう。
その二人が、この先に侵入出来ない。
「すまない、ヤコ。私もやはり駄目のようだ。思考回路がクラクラする」
不快感というものが存在しないキハーノさんも、やはり不可能だったようだ。
一体私と三人の立つ場所に、一体何があるのだろう。
「大丈夫。一人で十分だよ」
「……何かあったら、」
呼んで欲しい、死ぬ気で助けに行く。
三人の言葉を受け取って、そこで別れた。
部屋の外へと彼女達が出て行ったのを確認すると、改めてベッドへと振り返る。
天蓋とヴェールは、高貴な人物の姿を隠す御簾のように垂れ下がり、ただ光に当てられて少女の姿が浮かび上がっている。
前回はどんな戦いだったっけ。
あぁ、身武一体の反動で賢者モードになったお陰で、逆に助かったのか。
なら今回は
「真っ向から攻略してやる」
約一年半前にこの物語を書き始めた当初は、各地で色んな少女を攻略し、変態レベルを上げた天上院様が世界で一番美しいと称される王女を攻略して終幕となる予定でした。
しかし話が進むにつれて、それでは満足出来ずに風呂敷を広げてしまいました。
それぞれの女の子を書いてる内に愛着が湧き、ただの経過キャラで抑えるのが勿体無くなってしまったのが理由です。
様々な女の子達との出会いによって大きく変わってしまった天上院弥子の物語ですが、本来の最終回はここだったのだと感慨深くなってしまったので、このタイトルを付けました。
あけましておめでとうございます。




