清宮姫子編 その12
振り返ると、そこには人魚の少女がいました。
薄い青色のひらひらとした美しいヒレが付いた手足に、美しい海のような深い藍色の瞳と唇。
私は彼女と会ったことがないのに、何故か見た事がある気がします。
はて、何故でしょうか。
「これはこれは都市長様、こんなところまでお越し頂けるだなんて恐縮です」
「中央王都との貿易は現在海底都市が真っ先に取り組むべき課題です。私自ら出なければいけません」
艦長さんの言葉で思い出しました。
この人は現在海底都市のトップを務める女性、ティーエス・セージさんです。
情報局で見せてもらった写真の中に映っていた、人魚と人が手を繋いでいる写真の人魚側サイドの人です。
なんでも都市長となったのはごく最近のことらしいのですが、積極的な政策とその求心力で絶対的な支持を得ているそうです。
見た目は私と同じくらいの少女ですのに、なんて立派な人なんでしょうか。
彼女の説明によると、私が見た『太陽』もティーエスさんによって設置されたものであり、人間に対して悪感情を持っていた人魚達に対して、人間達と共生する世界を作っていきたいティーエスさんが考え出した案らしいです。
深い水底に閉じ込められた人魚でも、照らしてくれる光があるのだと感じて欲しいという考えで、あの太陽を作ったそうな。
そして自分もいつかあの太陽のように、人魚達の希望になりたいのだそうです。
本当に凄い人ですね、少し嫉妬すら覚えそうになります。
「ところで、失礼ですがそちらのお嬢さんは?」
ティーエスさんはその藍色の瞳を興味深げに私に向けてきました。
それは決して不快に感じるものでは無く、普通ならばコテリと曲げた首に少しあざとさを感じるところですが、彼女はそんな要素を一切相手に与えません。
あぁ、天性のカリスマというのはこういう人のことを言うのでしょうね。
「この方は今回我々の護衛をして下さってるヒメコ・キヨミヤさんという方でして、見た目はこんなに麗しい女性なのですが、とてもお強いのですよ」
私が思わずティーエスさんに見惚れていると、艦長さんが代わりに応えて下さりました。
ティーエスさん程の美少女の前で麗しいなんて褒められると、正直かなり恥ずかしくなります。
なので私は「言い過ぎですよ」と艦長に言った後、ティーエスさんに直接挨拶をしました。
「なるほど。私も知り合いに人間の女の子がいるのですが、その人もとても強い人だったんです」
そう言ってティーエスさんはニコリと微笑んで、私の手を取り顔を近付けました。
人の肌よりも少し冷たいその手に包まれながら、美しい顔を近付けられるのは正直同性の私でも緊張します。
「よろしければ今晩私の家にいらっしゃいませんか? 貴女のお話を聞きたいです」




