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女だけど女の子にモテ過ぎて死んだけど、まだ女の子を抱き足りないの!  作者: ガンホリ・ディルドー
第一章 魔族のフィスト
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自分がダメになった時の対処法は予め周囲に伝えておきましょう

 “チドリノキョク”を食らったアイディールの変身は解除された。


「ふぅ……」


 それを見て安堵する天上院。

 しかしなんとアイディールはむくりと起きあがった。


「まさか、まだやるのかい」


 ゾンビのような体力のアイディールを見て、驚愕する天上院。

 しかしアイディールは天上院に天秤を構えることはせず、ボーっと空を眺めるのみだった。


「あー、かったるい」


 そしてボソッ、と呟いた。


「どーせ城に帰ったらドヤされるな~、裁断者の地位も剥奪か~」


 アイディールはコキコキと首を回すと、地面に思いっきり寝っ転がる。


「ま~も~ど~でもい~や」


 先程までの真面目そうな彼女はどこへやら。


「えっと……変態モードの反動かい?」

(そのようだな……)

「彼女のが変身したの後だったよね、なんで彼女のが先に解除されたの?」

(普通に倒されて意識を失えば解除されるのだぞ)

「へー、知らなかったや」

「帰ってお酒でも飲も~、飲まなきゃやってらんないわ~」


 自堕落なアイディールを見て、天上院はあることを思い出す。


「そういえばロウターとの融合の反動はどうなんだい?」

(恐らくペニバーンと同じだぞ、主)

「あ、そうなんだ}

(ついでにそろそろ時間になりそうだ)

「変身が解除されたら私とフィストを近くの適当な場所に運んでくれるかい? 野宿できそうなスペースに」

(王都近辺の宿舎は使えそうにないしな、承知した)


 ちょうどそのタイミングで、天上院の変身が解かれる。


「浮気とはなにか」

「今日のテーマはそれか、移動しながら聞くからとりあえずフィスト嬢を我の背中に運んでくれ」

「多重婚と浮気の差はなにか」


 そんなことを言いながら天上院は倒れているフィストを抱き上げ、ロウターの背中に乗せる。

 こんな状態ではあるが、自分が何をすべきかは分かっている天上院だった。


「責任の違いだろうか? 確かに多重婚は付き合った者全ての人生の責任を負う、だが浮気はその時の感情にまかせた行動である。」

「乗ったか? しっかり捕まっていてくれよ」

「だが、責任とはなにか? 金だろうか」

「フィスト嬢はしっかり主が抑えていてくれ」

「ならば資産家が妻でない女と別れる際に、その女に対して一生分の金を渡せば浮気にはならないのだろうか?」

「あの女は……放っといていいか」


 ロウターはアイディールに目をやったが、地面に寝そべりうわ言のように「めんどい」と繰り返す彼女を見て、放っておくことを決意した。


「そもそも多重婚は浮気ではないのか、浮気を正当化したものではないと言い切れるのか」

「よし、飛ぶぞ。主」

「第一夫人、第二夫人。正妻や側室という言葉があるが、そこに差があるのだろうか」

「ヒヒーン!」

「その差こそ浮気ではないのか? わからない……」


 朝から逃走を始めた天上院とフィスト。

 今はもう夕暮れとなっている。

 沈みゆく太陽に向けて、美しい翼を広げた天馬が飛び立つ。

 それはまるでこれから来る夜を逃れ、光の指す方を目指しているかのようだった。



 日が完全に沈み、辺りが暗くなったころ、ロウターは天上院達を乗せて、少し開けた森の中に着陸した。

 ちょうど天上院とフィストが初めて出会った時の場所のようなところだった。


「この辺でいいか? 主」

「あぁ、十分だよ。ありがとうロウター」


 天上院も反動が終わり、フィストの回復をロウターに任せて野宿の準備を始めた。


「えーっと、説明書は、っと」


 村で買ったこの世界のテントを広げるべく、説明書を読む天上院。


「この棒を伸ばして地面に突き刺す? なるほど」


 説明書に書いてある通りに、天上院が棒を地面に突き刺すと、どういう仕組みなのかゆっくりとそれが展開されて勝手にテントとなった。


「おぉ、めっちゃ便利だね」


 この世界の技術を称賛する天上院。

 さっそくフィストをそのテントの中に運んで寝かしつける。


「回復は終わったのかい?」

「あぁ、だがまだ精神的に疲れているのだろう。寝かしておいたほうが上策だと思うぞ」

「もちろん、その間に私がやられていた時の話をしてくれる?」

「うむ」


 ロウターは天上院に話した。

 我が身を犠牲にして天上院を逃がそうとしたフィストの話を。

 自分が止めても頑なに聞かなかった彼女の話を。

 その話を聞いた天上院は、涙が出てきてしまった。


「……馬鹿だなぁ」


 泣きながら天上院は、眠ったフィストの頭を撫でる。


「そんなことしてフィストに死なれちゃったら、私もショックで死んじゃうよ」


 天上院の涙の雫が、フィストの頬に落ちる。


「……ヤコ?」


 うっすらと目を開けるフィスト。


「目覚めたんだね、フィスト」

「泣いてるの?」

「うん」

「なんで?」

「フィストのせいだよ」

「そっか、ごめんね?」

「フィストが謝ることなんて1個もないよ」

「でも私、あの女に負けそうになった。いや、負けた」

「負けてなんかないよ」

「拷問に屈しそうだったもの、ヤコを売ろうとした」

「そんなの、負けない人のほうがどうかしてるよ」

「ねぇ」


 泣いている天上院の涙を、フィストは指でふき取る。


「ヤコはさ、一昨日の夜に言ったよね。私が矛盾したことをしてるって」

「言ったね」


 一昨日の夜。

 王都祭に出て王女と会うように勧めたフィストに対し、なぜそんなことをするのかと天上院が聞いた時だ。


「それ、ヤコもしてるよね」


 フィストは穏やかな微笑みを天上院に向ける。


「ヤコはさ、いろんな女の子と……その、アレしたいわけでしょ」

「まぁアレだけとは言わないけど……そうだね」

「でもじゃあなんで?」

「?」

「なんで私を助けに来てくれたの? 私はもう貴女とシたでしょう? なら私は見捨てて、違う女の子を探しに行けばよかったじゃない」

「それは違うでしょ」

「違くないわ、だって私がいると邪魔でしょ?」

「違う」

「違くない、だって事実この数日間私以外の女に手を出さなかったじゃない」

「王都で女の子に声をかけたじゃないか、フィストが止めたからやめたけど」

「ヤコがその気になったら私の言うことなんて完全に無視できたでしょう?」


 天上院の言うことの全てを反論してくるフィスト。


「あー、もう。別に目の前に御馳走があるのにほかの御馳走探しに行かないでしょ。そういう事」

「わかった、そういう事にするわ」


 やっと納得してくれたフィストだった。


「何か食べる? 朝から何も食べてないでしょ?」

「宿からくすねてきたパンがあるから、それでも食べましょ」


 フィストは懐からパンを4つほど取り出した。


「前から思ってたけど、フィストの懐ってどうなってるの?」

「細かいことはいいじゃない、お腹すいちゃった」


 テントの中でもぐもぐとパンをかじる二人。


「ねぇ」

「ん?」

「ヤコのいた世界ってどんなところだったの?」

「あー、魔法がない世界だったよ」

「へぇ、科学は?」

「この世界よりは発展してないけど、そこそこだったよ」


 そんな取りとめもない会話をして、食事を終えた二人。


「ねぇ」

「今度は何?」

「キスしよ」

「別にいいけど、どうしたんだい? 急に」


 理由を言うことなく、フィストはテントの外に出ていく。

 追いかける天上院。

 テントを出ると、星空を見詰めるフィストがいた。

 振り返った彼女の左目は、何故か“緑色の光を放って点滅”していた。


「ヤコ」

「なんだい?」

「愛してる、て言って」


 今日のフィストはやけに積極的だ。


「愛してるよ、フィスト」

「私もよ、ヤコ」


 そういって二人はそっと唇を合わせる。

 フレンチキス、すぐに唇を離すと、フィストはまたテントに戻って行ってしまう。


「どうしたんだろう、あの子」

「今日はもう寝よ、ヤコ」

「はいはい」

「おやすみ」

「おやすみ」


 フィストについて行って、テントの中の寝袋に潜る天上院。

 そのまま目を閉じて、1日を終える。

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